旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

消えゆく「国鉄形」 去りゆく“縁の下の力持ち”

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「鉄分」の濃い方はご存知とは思いますが、2018年3月17日にJRはダイヤ改正を行います。通勤など日常生活の中で鉄道を利用されている方は、「毎日乗っていた列車が速くなった」とか「便利な時間の列車がなくなった」などなど、いろいろな影響を受けることもあるかと思います。

 ダイヤ改正というと、何を思い浮かべるでしょうか。
 多くは、列車が増発されたとか減便されたとかといったことでしょう。
 あるいは、昔からの列車が新型に置き換えられてきれいになった、とかでしょうか。

 私が現役の鉄道マンだった頃、ダイヤ改正と言う言葉には非常に神経を尖らせました。なにしろ、線路際で作業をするに当たって列車の運転時刻が変わると、それだけ間合い時間も変わり作業に影響を及ぼすからです。
 まあ、このあたりのお話は拙出の「もう一つの鉄道員 ~影で「安全輸送」を支えた地上勤務の鉄道員~」でお話するとして、今回、このダイヤ改正で去りゆく「縁の下の力持ち」にスポットを当ててみます。

 それがこちらです。

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 見るからに、ただの貨車です。
 駅で列車を待っていると、「間もなく、列車が参ります」というアナウンスとともに、コンテナを積んだ貨物列車がやってくると、「マジか!?早く電車来ないかな」とイラッとすることもあるかと思います。
 かくいう私の妻も・・・

「疲れて帰るときに、電車を待っていると貨物なんかきて、もうムカついたわ!(ーーメ)」

 なんて話していたことがありました。
 いや~、そんなに邪険にしないで~なんて思いもしますが、まあ、それはそれで気もちも分からないでもありません(;´Д`)
 ですが実はこれ、私たちの生活に密接にかかわってきました。

 この貨車に積んでいるコンテナは、実にいろいろな物を運んでいます。秋から冬のシーズンになりますと、北海道で採れたタマネギやジャガイモなどの農産物を首都圏へと運んだり、北陸の工場で生産されたビールを関西圏に運んだり、あるいは岡山で製造した軽自動車を全国に運んだり・・・あげればキリがないほどいろいろな物を運んでいます。

 このコンテナを積んでいる茶色い板みたいな貨車。コンテナ貨車でも古く、旧国鉄時代から使われてきました。
 形式名は「コキ50000」。私が鉄道マンだった頃は、新型の「コキ100」はまだまだ少数派で、この「コキ50000」が大活躍していました。それは、コンテナを最大で5個積むことができるということで、輸送効率もよくとても重宝していました。
 そりゃあ、同じ列車を走らせるなら、5個積みのコンテナ貨車を10両で50個、4個積みを13両で52個、どちらがいいかっていうとやはり前者です。なにしろ、これを走らせているJR貨物は旅客会社に1両幾らという「線路使用料」を支払っているのですから、同じ貨車なら5個積みの貨車の方がお値段も安く済んで経済的です。

 ずいぶんと長い間全国を走り抜けたこの「コキ50000」も、3月のダイヤ改正で姿を消していきます。新しい貨車が量産され、およそ30年に渡る長い時間をかけようやくすべて新車に置き換えが完了するということです。

 いや、まだ使えそうなんじゃない?

 なんて思いもしますが、すべて新しいコンテナ貨車になることで、さらに輸送力が向上します。というのも、この「コキ50000」はコンテナを載せる床面の高さが高く、背が高いコンテナを載せることができませんでした。新しい貨車はそれが可能です。つまり、コンテナがほんの少しですが大型にできるので、今までよりももっと多くの、そしてより大きな荷物を運べるようになるのです。
 それ故に荷主さんの要望にも応えやすくなり、さらに効率のよい輸送ができるようになります。同じ運ぶなら、効率よく運びたいのが物流の基本。なので、このダイヤ改正は一つのターニングポイントになると思います。

 労働条件の厳しい長距離トラックのドライバー不足など、物流を取り巻く環境はさらに厳しくなっています。そんな中、モーダルシフトの名の下、長距離物流の一端を担い続けて、北海道から九州まで私たちの生活を見えないところで支えるべく走り続けてきた「コキ50000」。
 いよいよその長きにわたる歴史に静かに幕を閉じようとしています。世代交代はやむを得ないこととしても、その労に大きな拍手を送りたいです。