旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

もう一つの鉄道員 ~影で「安全輸送」を支えた地上勤務の鉄道員~ 第一章・その10「エアサスペンション」(1)

◆エアサスペンション(1)
 小倉車両所で印象深かった出来事をもう一つ。
 小倉車両所では機関車だけではなく、貨車の検査も受け持っていた。ところが、貨車は機関車や電車のように特定の所属する区所がない。常備駅というのは定められていたが、それもタンク車とかホッパ車といった特定の物資を輸送する専用貨車であって、汎用的に使われる有蓋車やコンテナ車にそのような指定はなかった。
 だから、全国津々浦々に運用されるコンテナ車は、検査期限が近づくと貨物指令が列車からの抜き取りを駅に指示して、最寄りの車両所で検査を受けることができるように手配されてくるのだ。今日は九州にいても次の日は北海道にいることもあるので、翌々日には九州にいた貨車が札幌にある苗穂車両所で検査を受ける、なんてことは珍しくもないことだった。

 私がJRにいた当時は、新型のコキ100系は増備の途中で、まだまだ国鉄から引き継いだ車両が大多数だった。主力でもあるコンテナ車もまた、国鉄から引き継いで使われ続けていたのだが、その中に検査がとても厄介な(?)車両があった。
 それが、所謂10000系貨車と呼ばれるコキ10000形式だ。

f:id:norichika583:20180305180634j:plain▲コキ10000形式に車掌室を設置したコキフ10000形式。民営化後も輸送力を確保するために使われ続けたが、空気バネ台車を装備しているために運用・検修の両面でとにかく手間のかかる貨車だった。(Wikipediaより引用)

 コキ10000形式の最大の特徴は、なんといっても台車だろう。なにせ、堅い金属板バネやコイルバネが主流の貨車の中で、コキ10000形式は貨車では珍しく空気バネ、言い換えればエアサスペンションを装備していたからだ。
 ほとんどのコンテナ車は「とび色」と呼ばれる明るい車色に塗られているか、民営化後に製造されたコキ100系は明るいブルーに塗られていたが、このコキ10000形式だけは客車や直流機関車と同じ「青15号」と呼ばれる暗い青色で目立つ存在だった。
 そのコキ10000形式が小倉車両所に全般検査で入場してきたとき、先輩から「あの貨車は空気バネを使っちょるんよ」と説明された。空気バネ?と私が不思議そうな顔をしていたのか、「車でいうところのエアサスじゃけん」といわれて、ようやく合点がいった。

 

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 空気バネは列車を高速で走行させることを可能にし、しかも乗り心地を改善できるものだ。多くは特急列車や急行列車に使われる車両に装備していたが、貨物を載せる貨車に乗り心地は必要ない。それなのに空気バネを使うとはどういうことなのかと後で調べてみると、国鉄時代に最高速度100km/hで運転するために、貨物の積載と空載の重量差や常に高速で走行することから、この空気バネを使った台車(TR203形)を開発したそうだ。ブレーキ装置もほかの貨車とは違い、ブレーキの反応がよい電磁空気ブレーキと呼ばれる特殊なブレーキを使っていたらしい。

(「エアサスペンション」(2)へ続く)