旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

「のぞみ34号」重大インシデントについて元鉄道マンの考察と提言(1)

 2017年12月11日、走行中の博多発東京行きの新幹線「のぞみ34号」のN700系電車16両編成のうち、13号車東京方の台車枠が折損する事故が発生したことは既に多くの方がご存知だと思います。
 博多発車後、山陽新幹線を走行中に床下から異音がし、さらに異臭や霧のようなものが車内に侵入し、岡山駅で車両保守の技術者が乗車し確認したにもかかわらず列車をそのまま走行させ、最終的に名古屋駅で運転を打ち切ったところ、台車枠に亀裂が入っているのを発見し、すんでの所で大惨事を未然に防ぐことができました。

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JR西日本 N700系新幹線電車 N1編成 米原駅Wikimediaより引用 ©spaceaero2 )

 鉄道車両の台車が破損したという事故または重大インシデントは日本の鉄道史の中であまり例がなく、私が記憶している限りでも台車や走り装置の潜在的欠陥が原因で列車の二重衝突事故で多くの犠牲者を出した鶴見事故ぐらいしか思い出せません。
 さらに、新幹線はこれまでこのような事故を起こしたことはなく、「安全で速くて正確」なことを身の上とする新幹線の信頼性に対する根幹が揺らぐ事故だったと考えられます。
 今回の事故発生から原因と思われる事象が明らかになる中で、元鉄道マンの私の直感から何か違和感のようなものがついて回りました。この事故について、考察してみるとともに、私が感じたという「違和感」や今後同様の事故を起こさないための提言についても述べてみたいと思います。

 なおこの記事は、報道されているニュース記事やプレスリリースなどの報道発表をもとに、重大インシデントについて筆者(私)の経験と知識に基づいて分析・考察しているものです。インシデントの原因追及は国の運輸安全委員会が現在も行われており、その調査や今後されるであろう発表とは何ら関係ありません。また、提言についても公式のものでないあくまで私見であることを予めご了承ください。

1.異音、異臭がする・・・岡山駅から新大阪駅まで
 博多を発車した「のぞみ34号」は、走行中に13号車の床下から異音がすると乗務員が報告したことが今回の事故の始まりでした。新幹線の車内を仕事場とする乗務員は、通常の走行音ではない異音がすればすぐに何かがおかしいことには気付くでしょう。加えて異臭が車内に入ってくればなおさらです。
 乗務員は輸送指令に車両の点検を要請します。その要請を受けて輸送指令は岡山駅から車両保守を担当する技術者の乗車を手配します。岡山駅から乗車した技術者は、その異音と異臭を確認しますがこの時点では床下を目視で確認していませんでした。
 異音と異臭は技術者によって確認されましたが、列車は岡山駅を発車して再び走行していきます。その走行中、技術者から輸送指令に確認と今後の対応を話し合っていくことになります。

 

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 ここで、一つの違和感を感じました。
 岡山駅で保守担当の技術者を手配したところまではよかったのですが、既に異音や異臭がしている車両なので、岡山駅で目視点検をなぜ手配しなかったのか?ということです。
 もちろん、こういう意見が「後の祭り」や「外野はなんでも言える」ということは十分に承知しています。しかし、列車の運転で何よりも優先されるのは「安全輸送に徹する」ことです。まして時速280km/hで運転される新幹線ならなおのこと慎重になるべきだと考えます。
 岡山駅は列車の緩急接続を可能にするために、本線のほかに待避線も設けられています。この待避線に「のぞみ34号」を停車させて技術者の安全を確保した上で、床下の目視点検をすることも可能であったといえます。万一先に行かせるために「こだま」などがこの待避線に停車していても、次の点検が可能な駅での目視点検もできたのではないでしょうか。
 この時点で、輸送指令は一つ目の判断を誤ったといえます。

 輸送指令が停車させて目視点検を指示しない以上は、列車はそのまま運転されていきます。なにせ、列車の運転をするにあたっては、輸送指令の指示はある意味絶対です。この時点で乗務員と技術者になすすべはありません。
 岡山駅を発車し、技術者と輸送指令の間で話合いがもたれます。
 輸送指令は技術者に対して、状況と今後どうするかを尋ねます。

保守担当者「床下を確認したい」
指令員「走行に支障があるのか」
保守担当者「そこまではいかないと思う。見ていないので現象がわからない」
別の保守担当者「モーターが少し大きい音を出している可能性がある」
保守担当者「安全を取って新大阪で床下をやろうか」

 技術者は床下の目視点検を指令に提案しています。しかし、ここで指令員の上司である司令長が報告を求めてきました。そのために、指令員は肝心な「床下をやろうか」という技術者が話しているにもかかわらず、列車無線の受話器から耳を離してしまい、「ちょっと待ってください」と発言しています。
 この指令員の「ちょっと待ってください」は、いったい誰に言った言葉なのかということですが、これは列車無線で話をしていた最中に割り込んできた指令長に対する言葉だったと推察できます。
 しかし、指令員は受話器から耳を離してしまっているので、技術者の「床下をやろうか」という言葉は聞いていません。その代わりに、「ちょっと待ってください」という言葉は技術者に届いています。つまり、指令員の「ちょっと待ってください」は、技術者にとっては「新大阪で点検の準備をするから待ってほしい」と受け取られてしまいました。
 その結果、指令員は技術者の「床下をやろうか」という提案をスルーし、指令長に「床下から音はしているものの運転には支障ない」と報告します。こうして、安全運転を司る輸送指令は大きな判断ミスを犯しました。

 この指令と現場のやりとりと判断を見て、「これでは餘部橋梁事故の再現ではないか!」と、かつて安全輸送を線路際で支えた人間として思わずにはいられませんでした。