旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

もう一つの鉄道員 ~影で「安全輸送」を支えた地上勤務の鉄道員~ 第一章・その13「研修生、事故を起こす」

◆研修生、事故を起こす
 駅にまつわる話をもう一つ。
 ある日、仕事から帰ると寮の中は奇妙な空気に包まれていた。いつもと違う空気に、何かあったのか?と思い浜小倉駅で研修勤務に就いている同期に尋ねると、研修生が突放に失敗して事故を起こしたという。
 入社して3か月に満たない同期が事故!?
 私は驚くとともに、いったい誰が事故を起こしたのだ。
 それにしても何か変だった。同じ寮に住む同期はいつもと変わらず平穏そのもの。奇妙な雰囲気を醸し出しているのは浜小倉駅に勤務する同期だけだった。それに、入換とはいえ操車作業で脱線事故を起こしたのならば、ただでは済むはずもない。
 私はビックリして、詳しく話してくれるようにその同期に頼んだ。
 すると、同じ研修生でもカリキュラムの違う、大卒採用の研修生が事故を起こしたという。コキ車の入換で突放をしたはいいが、どうやら留置ブレーキをかけ損ねたかかけ方が弱かったかして、転動する貨車のスピードを落としきれずにコンテナホームの車止め突破し、トラック用の道路を乗り越えて駅本屋に並ぶ通運会社の事務所に突っ込んだということだった。

 かなり派手な事故に、突放した貨車に乗っていた研修生や駅員のことを聞くと、車止めを突破する寸前で貨車から飛び下りて無事とのこと。まずは、けが人がいなくてよかったなあと安堵したものだ。

 

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 やはり、貨車の入換作業、それも突放は危険がつきまとう。
 ましては経験が少ない職員が担当なら、そうなるのも肯ける話だ。
 入換作業をしていた輸送係は無事でも、突っ込まれた通運会社はたまったものではない。
 そちらのけが人はいなかったのか?と聞くと、その同期が聞いている話ではけが人はいなさそうだと言うことだった。
 どちらにしても、輸送係にも通運会社の社員にも人的被害がなかったのは何よりだ。でも、一歩間違えれば、車止めを突破した時にトラックが通りかかっていたらそれこそ大惨事だ。
 いやはや、それだけが不幸中の幸いというものだ。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/8/8c/Kuragano_fst_oil.jpg
▲貨物駅で行われる貨車の入換は常に危険が伴っている。機関車や貨車に乗って作業する輸送係は、天候にかかわらずこのように体を張っての仕事だ。(Wikipediaより引用 ©Alt_winmaerik)

 私が研修勤務に就いていた福岡貨物ターミナル駅では、操車の実習はさせてもらえなかったが、こうした事故を起こしてケガや、最悪命を落とさないようにとの配慮だったということを、この時になってしみじみと感じた。
 それもそうだろう。ついこの間まで学校に通っていた若造が、なんの下積みもなく、それも研修や訓練を受けていない人間に、文字通り命がけの仕事をさせるわけにはいかないし、自分の命を預けるなんてとんでもない話だ。
 ところが、浜小倉駅で研修勤務に就いていた同期は、実際に操車の実習をさせてもらっていた。同じ研修でもこの差に、私は実際に作業をしてみたいという思いが強く、浜小倉駅に行っている同期を羨ましく思ったものだ。
 が、この時ばかりは福岡貨物ターミナル駅でよかったと思ったものだった。