旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

「のぞみ34号」重大インシデントについて元鉄道マンの考察と提言(4)

 こうした実態を改善するためにはどうすればよいか、ということになります。
 まず指令所内でのコミュニケーションの問題です。これは、輸送指令が列車の安全で確実な運転を行い、異常時には安全を最優先した適切な対応をするという本来の使命を考慮する必要があります。
 できれば列車の運転を優先したい、が異常時には安全を優先させるということを今一度、運転業務にかかわる社員全員に意識していくように日頃の教育・訓練が求められるでしょう。とはいえ、単に意識をしようとか、といった精神論ではこの問題は解決できません。これまでにも何度もそのようなことを行ってきたとは思いますが、着実に成果が上がっているとは言い難いと思います。

 そこで、指令長と指令員のコミュニケーションについては、異業種にその答えを求めてもよいと考えられます。
 航空運送の世界では、管制官と航空機とのやりとりや、コックピット内での機長と副操縦士、あるいはこれに航空機関士を加えたクルー同士のコミュニケーションが非常に重要視されています。これらが巧く機能しないと、一度に多くの犠牲者を出す事故につながるので、航空機のクルーはもちろん、管制官も日頃から平常時はもちろん、異常時にも対応できるコミュニケーションの訓練を受けているといわれています。

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©Ercan Karakas

 特に航空機のクルーには、CRM(Crew Resource Management)と呼ばれる、クルー同士のコミュニケーション能力の訓練が必須とされています。これは、機長や副操縦士航空機関士との意思疎通を重要視し、ヒューマンエラーに対する指摘や助言、異常時にはクルー同士が意見を出し合い合意決定するなど、安全運航を確保し異常時には危機を回避して生還をするための訓練体系です。

 今回の重大インシデントでは、指令所内のコミュニケーションにこのCRMが参考になると考えられます。もちろん、航空業界のCRMをそのまま鉄道業界に持ち込んだところで適切ではないので、鉄道業界に合わせた訓練プログラムに改良する必要がありますが、異常時に対応するための状況判断と意思疎通という点では参考になるでしょう。
 また、列車無線のシステムも改良の余地があります。車両に設置される車上装置は狭い運転台コンソールに設置する関係から現状以上の改良は難しいと思われますが、輸送指令に設置される送受話装置はこれまでの受話器形態ではなく、航空管制で用いられるヘッドセット形状のものへと改良することが望ましいでしょう。
 ヘッドセット形状であれば、常に両手を開けた状態になるので作業性は向上します。また、受話装置は常に耳にあるため今回のように割り込みがあったとしても、肝心な会話を聞き逃すということを避けられます。列車無線は通話時には双方向通信となりますが、この点ではヘッドセット形状にしても大して問題にはならないでしょう。また、通常は回線はクローズ状態なので、列車から通話要請があった場合には別途に通話開始のボタンなどを必要としますが、今回のような聞き逃しなど異常時の対応を考慮すれば、このボタンの設置は大きな問題ではないと考えられます。

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©E3uematsu

 さらに、列車無線の通話内容を指令所内で共有するという手立ても考えられます。この点については、今日の列車無線のシステムがどのようになっているか分からない部分がありますが、旧来のシステムをそのまま踏襲しているとすれば、指令所内で共有するための装置はないものと思われます。指令所内で通話を共有するためには、無線機に外部スピーカを通して会話をオープンにすれば済むことなので、そのための付加装置が必要となりますが、さほど大袈裟な改修にはならないと考えられます。