旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

「のぞみ34号」重大インシデントについて元鉄道マンの考察と提言(13)

(2)現場を熟知したプロを活かす

 現場で十分な経験を積み、知識と技術などを習得したプロフェッショナルは、間違いなく安全輸送になくてはならない存在であることは確かです。こうした職員が現場で若手を育てることはもちろん重要な仕事であるといえます。
 しかし、今回の重大インシデントのように判断ミスやコミュニケーション不足からくる事例は、まさに経験不足に起因するものともいえなくもありません。(もちろん、それだけでないことも十分承知しています)
 安全輸送を支えるための重要なセクションには、現場を熟知したプロフェッショナルを活用するべきでしょう。経験を十分に積んだ職員は、その学歴などを問わず指令などのポジションに就かせることも重要です。
 最近では現場部署の幹部である現場長(駅長、区長、所長)や助役といったポジションに、若い人が就く事例が多く見られるようになりました。もちろん、若手がこうしたポジションに就くことを否定するわけではありませんが、あまりに若いと現場での経験はどうなのか、知識や技術は十分にあるのかと思いもします。単に4年制大学を卒業し、現場の経験もそこそこ、昇進試験だけを勝ち進んできたのであれば、安全輸送という面からはあまりに重大な瑕疵があると言わざるを得ません。もちろん、単に年齢と経験年数だけをもってして昇進させる年功序列制がいいとも思えません。
 そこで、指令や現場での重要なポジションに就くためには、一定の経験年数と業務実績を考慮しながら実力試験を行い、その経験年数などに見合った昇進体系を構築するべきであるといえます。例えば、主任に昇進するには5~10年の経験を積んだ上で受験資格を与え、試験はそのポジションに必要な知識や技術を問うものにし、さらに業務実績の考査は具体的な実績を客観的に評価した上で合否判定を行い、その上で昇進の可否を決めるというシステムが考えられます。

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 また、現場での経験を十分に積んだ職員の中には、管理部門に異動して経営を支える人もいるでしょう。そうした人の中から、経営者としての能力がある人材を会社幹部に引き上げるシステムも考えられます。
 何度も述べてきたとおり、鉄道という業種は非常に多岐に渡るもので、知識と技術と経験が要求されるものです。現場での十分な経験をもった人材が会社幹部として経営に携わるということは、安全を優先した会社施策も行うことも可能になるでしょう。また、現場を知るからこそ、経営施策に新たなアイディアを持ち込んで、収益を上げることに繋がる可能性もなくもありません。

 これは、他業種では多く見られる方法です。極端な例ですが、日本航空は2009年に経営破綻するまでの歴代経営者は管理部門出身、あるいは半官半民時代はともすると官僚出身などでした。ところが経営破綻により京セラや第二電電(現在のKDDI)を創業した稲盛和夫氏を会長に迎え、さらに社長には大西賢氏が就きました。稲森氏については今さらここで詳細を述べる必要がないほどの経営者で多くの方もご存知と思いますが、大西氏は東大工学部を卒業した整備畑の出身です。
 大企業、それも日本航空のような会社に工学部出身の人材を経営者に据えるというのは異例でした(国の関与が強い企業は、どういうわけか多くが東大法学部出身が多いです)。その後、賛否両論はあるものの業績を回復させることに成功し、次の社長にはこれまた現場であるパイロット出身の植木義晴氏が就任しました。その後も順調に推移し、2018年からは再び整備畑出身の赤坂祐二氏が社長に選任されています。これほどの大企業の経営者に、幹部候補として採用される事務系総合職出身者ではなく、現場出身者を宛てるのは異例だといえます(日本では珍しいですが、実力主義が定着している欧米ではごくふつうのことのようです)。

 こうした事例から、現場を知るからこそ多くの乗客の人命を預かる輸送機関として何が最も大切であるか、そしてその大切なものを守りつつ業績を上げるためにはどうすればよいのかを分かっている経営ができているのだと考えられます。
 今日の大手鉄道会社、特にJRのように旧国鉄の官僚体質を引き摺ったままの人事システムでは、現場を熟知したプロフェッショナルが会社の経営にかかわることは非常に稀なことです。安全輸送を固守しつつ業績を維持あるいは向上させるためには、ポテンシャル採用とかプロフェッショナル採用とかいうような複線的な人事システムではなく、欧米に見られるようなやる気と実力をもって経営に携わるチャンスがあるような、単線的な人事システムに転換させるべきでしょう。