旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

スーツケースを飛行機の手荷物として客室内に持ち込むことをお勧めしないその理由

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 いつもブログをご覧いただきありがとうございます。
 今回はブログのタイトル「旅メモ」にふさわしい(?)話題をお届けしようと思います。


 みなさんは旅に出るとき、自分の荷物をどのような形で運びますか?
 旅に出る目的や期間によっても違うでしょうし、国内か海外可によっても違ってきます。
 ビジネスパーソンが1泊2日程度の短期間の出張といった旅行なら、それほど多くの荷物も必要がないので、小さな鞄に着替えを詰めて出かけるということも可能かも知れません。
 これが、2泊以上と少し長くなると、荷物も多くなってくるのでそれなりの物に入れないと間に合いません。
 ビジネスではなくプライベートの旅行となると、多くは2泊以上になるのでやはり荷物もそれなりに多めになってきます。男性なら少なくて済みますが、女性はそうはいきませんね。

 そこで、最近ではちょっとした旅行でも使える便利なアイテムがたくさん売られています。
 中でも小旅行用の小さなスーツケースは人気を集めているようです。

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 小さいといってもさすがスーツケース。中に入れることができる容量も最低でも30リットルあり、詰め方次第ではたくさんの荷物を入れることができます。
 そして、スーツケースの最大のメリットは、キャスターがついていることでしょう。重い荷物の入った鞄を手で持ったり肩から下げて、空港の長い廊下や混雑する駅のホームを歩くのはかなり大変です。キャスターのついたスーツケースなら、ハンドルを伸ばしてコロコロと牽くだけなので、旅の苦労も軽くすることができます。

 荷物も沢山入って、しかも便利なスーツケース。多くの人が愛用するのも解る気がします。私だって、遠出する回数が多ければ、このようなスーツケースが1つあるととても便利だと思いますから。

 そして、このスーツケースの中には最も小さいサイズのものを、「機内持ち込み可」ということを前面に販売しているものがあります。
 いいですね、たくさんの荷物を詰め込んだスーツケースを、持ち込みの制限が厳しい飛行機の機内に気兼ねなく持ち込むことができるなんて、なんて素晴らしいアイテムでしょう。

 

 でも、ちょっと待ってください。

 

 確かにスーツケースのサイズは多くの航空会社が手荷物として機内に持ち込むことができるとされているサイズをクリアしています。手荷物や預かり荷物に別料金を設定しているLCCではない限り、スーツケースをそのまま出発ゲートへ持っていっても、特に何も言われることはありません。

 だったらいいじゃない? と言われそうですが、あえて言いましょう。
 そのスーツケース、飛行機の機内に持ち込むことはオススメできません

 では、なぜ筆者(私)はスーツケースを機内に持ち込むことをオススメしないのでしょう。幾つかの理由があります。

 

①飛行機の客室に備え付けられている荷棚(ハットラック)は、すべての乗客のスーツケースを収納することを想定していない

②スーツケースの上げ下ろしにはかなりの力が必要。万一落下させて、他の乗客にケガを負わせてしまった場合は、航空会社の責任ではなく使用者が賠償責任を負う

③乱気流など予期しない機体の動揺が起きた場合、ハットラックの蓋が開いてスーツケースが落下する危険がある

 

 機内に持ち込んだスーツケースはどこに収納するでしょうか。
 通常、飛行機は安全のために手荷物を所定の場所へ収納することが定められています。多くの人は座席の上にあるハットラック(オーバーヘッドビンとも)へしまいます。客室乗務員も乗客の手荷物をそこへ収納することを求めます。
 次いで、パソコンなどを入れた鞄は、前の座席の下に置いておくように指示をします。それ以外の方法はどんな理由があっても認められることはありません。

 さて、スーツケースのように比較的大きいサイズで重量の嵩む物は、前の座席の下に置くことはほとんどの場合不可能なので、自ずとハットラックに収納することになります。

 このハットラック、強化プラスチックでできている収納庫で、ある程度は重い物を入れても大丈夫なようにつくられています。とはいえ、絶対ではありません。
 しかし、このハットラックはあくまでも小さな手荷物を収納することを想定してつくられているので、スーツケースのような大きめの手荷物を入れてしまうとたちまち他の荷物を入れることができなくなってしまうことがあります。

 もしも、ボーイング777のような400人近くの乗客を乗せることができる(国内線仕様の場合)大型の旅客機で、全員がスーツケースを機内に持ち込んだ場合、ハットラックにすべての手荷物を収納することができなくなってしまいます。
 そうなると、客室乗務員たちは何としてでも乗客の手荷物をハットラックにしまおうと必死になるでしょう。それはそうです。客室乗務員たちが客室内の安全確認が完了しなければ、飛行機は離陸どころかゲートを離れることもできません
 そうして乗客の手荷物と悪戦苦闘する客室乗務員の姿を見かけたことがあるかと思います。私も見かけたことがあります。ほんとうに大変な仕事だなぁと思いました。
 しかし、そうしていることで飛行機は離陸時刻を過ぎてもゲートを離れることができなくなり、結局のところ飛行機の運航時刻に遅れを生じさせることになるのです。

 

 飛行機の客室はごく一部の上級クラスを除いて、できるだけ多くの人を乗せることができるように設計されています。
 それはそうでしょう。同じ飛行機を飛ばすなら、少ない乗客を乗せて飛ぶよりもできるだけ多くの乗客を乗せて飛んだ方が効率もよく、そして収益にもつながります。
 その一方で、飛行機の機内の広さには限りがあります。その限りある広さの中で、多くの乗客が座ることができるようにシートを設置しているので、地上にいるときのように体を自由に動かすことが難しいことがあります。

 スーツケースを抱えて座席と座席の間の狭い通路を進み、やっとの思いで自分の座席に辿り着いたという経験をお持ちの方も多いことと思います。
 私もスーツケースではありませんが、書類やカメラ、パソコンが入って重くなった仕事鞄を抱えて通路を進むのは容易ではありませんでした。それに加えて、遠方の出張となると職場にお土産も持っていかなければならないので、お土産が入った紙袋を持ってとなると、カニ歩きでもしなければならないほどです。

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 その狭い機内で、やっとの思いで席に辿り着き、重いスーツケースをハットラックにしまうのは意外にも力の要るもので、しかも他の乗客に迷惑をかけないようにできるだけ早くしまう必要もあるでしょう。
 そうなると、これまた至難の業、悪いことに先客が同じようにスーツケースをハットラックに入れていようものなら、当然自分のスーツケースなど入らないか、運がよくても入れるのに苦労します。

 そんなとき、もしもスーツケースを誤って落としてしまった、なんてことになるとどうなるでしょうか。

 そして、そのスーツケースが運悪く、既に座席に座っている他の乗客に当たってしまい、ケガを負わせたらどうなるでしょう。

 結論から申し上げると、その責任はスーツケースを入れようとして、誤って落下させケガを負わせた乗客にあります。

 え、航空会社の責任ではないの? だって、航空会社が持ち込みを認めたんだから、認めた側に責任があるのは当然じゃない!

 なんて声も聞こえてきそうですが、残念ながらそうはいきません。

 そもそも、航空会社は持ち込みは認めただけで、その荷物の扱いには一切関与していません。それどころか、運送約款には

“会社は、本条第1項及び第2項の損害について、会社及びその使用人(本章において使用人とは、被用者、代理人、請負人等の履行補助者をいいます。)がその損害を防止するため必要な措置をとったこと又はその措置をとることができなかったことを証明したときは、賠償の責に任じません。(日本航空国内線運送約款第43条3)”

とあり、航空会社がその損害に対して過失責任がないことを証明したら、その責任は航空会社に帰さないことを定めているのです。
 ちなみに運送約款とは、航空会社と乗客の間で交わした契約で、乗客が航空券を購入した時点でこの契約が成立しているものと解されます。

 この手の事故で、相手の乗客がすり傷程度の軽傷ならまだ救われますが、もしも他の乗客の頭に落ちて首の骨を折ったなんて重傷を負わせたら、それこそ損害賠償を請求されても不思議ではありません。最悪、裁判なんてことにもなりかねないでしょう。
 つまり、狭い飛行機の客室に重いスーツケースを持ち込むということは、それ相応のリスクも持ち込むということになるのです。

 

 荷物も無事に収納でき、特にトラブルもなく離陸。
 あとは目的地に到着するのを待つだけ。
 快適な空の旅を楽しんでいると、突然飛行機が揺れだしたなんてこと、もしかするとあるかもしれません。

 飛行機は空中を飛ぶ乗り物です。一見、青空が広がって穏やかそうに見えても、意外にも気流の乱れが起きている場合があります。特に天候の悪い日などで、雲の中を飛ばなければならない時には、常にガタガタと揺れるなんてこともあります。
 もちろん、パイロットはそんな揺れるところを飛ぶことがないように、ある程度は避けながら飛ぶようにしています。それでも避けられないこともあるようです。

 突然、何の前触れもなくやってくる気流の乱れ。
 揺れが小さければそうでもありませんが、中にはとんでもない大きな揺れになり、高度が急激に下がるなんてこともあるようです。

 そんなとき、映画のワンシーンでも見ているかのように、機内はパニックになるでしょう。テーブルの上に置いた飲み物は飛び上がって床に転げ落ち、頭の上にあるハットラックの蓋が開いて、中に入っていた荷物が落ちてくるといったこともないとはいえません。

 もちろん、このハットラックは多少揺れても開かないように設計されています。しかし、完璧ではありません。
 実際、それほどの揺れではありませんでしたが、スーツケースを入れたハットラックが、飛行中の揺れで開いてしまい、中の荷物が真下の乗客の頭に落ちてきたという場面に出会いました。(幸いスーツケースは落ちず、大事には至りませんでしたが)

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 あってはならないことですが、ハットラックのロックは完全なものではなく、加えて重量の嵩むスーツケースが入っていれば、揺れた拍子に蓋が開いてしまうこともあり得るでしょう。
 こうしたケースで万一にも他の乗客にケガを負わせた場合、誰が責任を問われるかということですが、荷物をい出し入れしているときとは状況が異なるので一概には言えませんが、航空会社の運送約款を読む限りでは航空会社の責任であることを証明できなければ、所有者である乗客の責任になると考える方がいいかもしれません。
 つまり、こうしたケースでもスーツケースの所有者が賠償しなければならない可能性があるということです。

 

 ちょっとしたことで嫌な思い出に変わってしまっては、せっかくの楽しい旅も台無しですね。
 ではどうすればよいでしょうか。
 筆者は多少面倒でも、スーツケースは航空会社に預けることをオススメします。
 確かに、スーツケースを預ける手続きや、目的地の空港でスーツケースが運ばれてくる時間などを考えると、ちょっと面倒かも知れません。
 ですが、万一、事故を起こしてしまってからでは遅いのです。それに、航空会社に荷物を預けることで、荷物に万一のことがあった時に、その責任は航空会社が負うことになっていますから安心です。

 空間が限られた飛行機の客室内、少しでも身軽になって行くと、座席に座るのも意外にスムーズで、余計な心配をしなくても済みます。特に、預けることが難しいたくさんのお土産で荷物が増えたときなど、スーツケースを航空会社へ預けると、とっても楽になるんです。

 もうすぐ夏の旅行シーズン。
 飛行機を利用してお出かけの時には、ぜひ、この記事を参考にして頂いて、スーツケースの扱いを考えて頂ければと思います。

 

 今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。