旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

もう一つの鉄道員 ~影で「安全輸送」を支えた地上勤務の鉄道員~ はじめに

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 みなさんは鉄道員と聞くと、まずどのような職種を思い浮かべるだろうか。
 列車を運転する運転士や、扉の開閉や乗客の案内をする車掌がもっとも多いかもしれない。次に、駅で働く駅員だろうか。最近では少なくなったが、ホームでの安全確保などのために立つ駅員もいれば、長距離の切符を販売する窓口の駅員もいる。だから、鉄道で働く人というと、どうしてもこの3つが最初にあがるかもしれない。
 それもそうだろう。まずなんと言っても、お客さまから見える存在だからだ。
 次に、鉄道を趣味としている人たちからすると、なんと言っても憧れの仕事だからだ。それ故に、鉄道雑誌や関連する書籍には、車両や列車にまつわる記事や体験談が多く見られる。
 なんともはや。とはいえ、私も鉄道で働く前は、そうした仕事しか知らなかったから仕方ないかも知れない。
 私が鉄道で働いていました、と自己紹介をするとほとんどが「運転士だったのですか?」「車掌さん、それとも駅員さん」と聞かれる。まあ、そういうものなのかも知れないなぁ、と思いつつ「いえ、そうではないんですよ」と答えると、大抵は「え?それでは、なにをしていたのですか?」と不思議そうな顔をする。毎回のことだが、苦笑いしてしまうものだ。
 もちろん、列車は運転士がハンドルを握り、運転しなければ走らない。車掌がドアの開閉や安全確認をしなければ、運転士は列車を走らせることもできないし、お客さまも乗り降りができない。駅で切符を売ってもらえなければ、お客さまは駅へ入ることもままならない。
 どれもが列車の運行には欠かせない仕事だ。
 だが、忘れてほしくないもう一つの仕事がある。それが、今回私が経験したもう一つの鉄道員である、地上勤務の仕事だ。
 線路を常に良好の状態に保ったり、安全で確実に列車を運行させるための信号設備を維持したり、あるいは電車が走るための電気を供給しつづけたりと、実はたくさんの仕事がある。
 この話をすると、「なるほど、確かに大事ですよね」と納得していただける。

 在職3年半という短い中でのお話なので、多くの諸先輩方から見たら「なにを~、この若造が!お前なんか半人前のまま終わったではないか」とお叱りを受けてしまうかも知れない。
 だが、実際に鉄道会社の直属の社員でこうした仕事に携わった諸先輩方は、既に高齢となって引退してしまい、中には残念ながら他界された方もいらっしゃる。そして何より、こうした地上勤務で鉄道輸送を影で支えた諸先輩方は、多くを語らない昔気質の技術者が多く、それ故に世間に知られることはあまりないと思う。
 私は常日頃、鉄道は大きな輸送システムだと考えている。どれか一つが欠けてしまえば、安全で確実な輸送は叶わない。最近、列車の輸送を支える線路や電気関係の施設(鉄道員の間では、これらをまとめて「施設」と呼んでいる)の不備、あろうことか走行する列車の車両が重大な破損を起こすなどが原因で、事故や輸送障害が頻発していることを憂いている。いろいろな要因があるので一言では語れないものがあるが、私の思いとして多少厳しめの語りがあるかも知れないが、そこはご容赦を。
 晴れている日はもちろん、雨の日や嵐の日も、列車を安全に運行するために、お客さまの見えないところで奮闘する鉄道員の姿を、私の経験談を通して知っていただければ幸いだ。

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