2月10日15時過ぎに、JR東海道本線・川崎-品川間を走行中の普通列車の窓ガラスが割れたという事故(事件)が発生したというニュースがありました。
普通列車といえども、高速で走行する列車の窓ガラスが割れるというのは、一つ間違えば大きな事故につながりかねないインシデントです。幸い、この事故でケガをされた方はいなかったそうです。
しかし、最近、この手の事故が頻繁に起きています。
ちょっと調べてみると・・・
・2017年8月4日 湘南新宿ライン
・2017年9月21日 東海道本線、東急東横線
・2017年11月14日 武蔵野線
・2017年11月22日 埼京線
ざっと挙げてもこんなにありました。
類似の事故が頻発するというのは、ちょっと異常です。
安全輸送が第一の鉄道で、あってはならないことです。
もちろん、投石によるものだとしたら、もってのほかです。
さて、単に割れた事故が続いただけなら、わざわざ取り上げるまでもありません。
が、ここで元鉄道員の「勘」みたいなものが働きました。
それは、いずれの事故も「同じ設計をして、同じ部品を多用した車両に起きている」ということです。鉄道会社は「強化ガラス」を使っていて、通常では考えられない事故だとしていますが、はたしてそうなのでしょうか?
・2017年8月4日 湘南新宿ライン・・・E231系
・2017年9月21日 東海道本線、東急東横線・・・5050系
・2017年11月14日 武蔵野線・・・205系
・2017年11月22日 埼京線・・・E233系
このうち武蔵野線の事故は、異なる設計の車両なので除外して、他の3件は基本設計が同じという点が気になりました。
JR東日本のE231系は、次世代の標準形式として首都圏の鉄道各線に大量に製造し導入されました。同じ形式が使用されているのは、東海道線や湘南新宿ラインの他に、山手線、中央・総武線、宇都宮線、高崎線などです。さらに車体設計が同じ車両として、常磐線で使用されているE531系もあります。
このE231系の設計を基に、自社線の仕様に合わせた設計をしたのが東急電鉄の5000系です。車体幅や制御機器など異なる点もありますが、ドアや窓、そして座席などはE231系とほぼ共通です。ドアや窓の開口部寸法もE231系とほぼ同じで、E231系の東急電鉄版です。
さらにE231系を発展させたものとして、E233系が首都圏に導入されました。中央線快速、京浜東北線、埼京線、京葉線、南武線、横浜線、東海道線などで走っています。電装品はE231系とは異なっていますが、車体の基本設計はやはりE231系とほぼ同じです。
その生産数ですがE231系は総数2736両。E233系は総数3215両。JRだけでもざっと5000両は超える「ベストセラー」となっています。さらに東急電鉄の5000系列や、この基本設計をもとに独自の改良などを加え、極力同一の部品を使用した関東私鉄各社の車両を含めると、膨大な数に上ります。
いわば、E231系ファミリーは鉄道界の「ボーイング737」です。
ボーイング737は旅客機のベストセラーで、生産総数5000機を超え世界中の空を飛んでいます。もちろん、日本の航空会社も数多く購入して運航しています。
この二つの共通点は、いずれも基本設計を同じにして、時代とともに改良・発展させていき、その生産総数を伸ばしているということです。
ボーイング737は今や最も進化し安全な旅客機としての地位を確立していると言えます。1970年代の設計でありながら、21世紀に入った現在でも改良を施し、世界中の航空会社が今なお購入していますが、ここに至るまでには数多くの試練がありました。
航空機は一度事故が起きると、専門機関によって徹底的に調査がされます。事故の原因をあらゆる角度から調査し、必要があれば同一機種を強制的に運航停止させる措置がとられ、二度と事故が起きないように航空会社はもちろんのこと、航空機メーカーに対しても改善措置を勧告して、安全のための改良などが施されていきます。
最近では、ボーイング787バッテリー発火事故で、世界中のボーイング787が一時運航停止の措置がとられました。それだけ、事故に対して非常に神経を尖らせているのが航空機の世界です。
翻って鉄道はというと、これだけの同一設計、あるいは基本設計を一にする車両が大量に運転されているにもかかわらず、その原因追及や安全対策が徹底されていないという現状があります。
半年近くの間に、類似の事故が、同一設計の車両で起きるというのは異常だといえます。これだけの事故が起きているのであれば、やはり重大インシデントとして捉えて、徹底的な原因追及が望まれるでしょう。
また、これらの車両は窓の開口部が以前と比べて大きくなり、加えて窓ガラス1枚あたりの面積が広くなったということも原因の一つとして考えられるでしょう。窓ガラスは、面積が広くなれば、その強度は低下するという特性があります。まして、以前にも増して高速で運転されるようになり、車両にかかる振動もまた速度に比例して大きくなっています。加えて、開口部が広いということは、車両そのものの強度も低下し、振動による車体の歪みも発生しやすくなると考えられます。
確かに強化ガラスの採用や、車体強度を保つための工夫はされていますが、それは机上の論理であったり、あるいは技術の為せる技であったりもしますが、所詮は人間のつくるもので完璧なものはあり得ないといえます。それ故、技術を過信してはならない、というのがかつての鉄道技術者たちの根源であり、技術者ほど過信したときの恐ろしさを熟知していました。
しかし、残念なことに、コスト軽減と技術の過信が安全より優先されてしまっているのが今日の鉄道ではないか、と思わずにはいられません。考え方が古い、といわれればその通りかも知れませんが。
交通機関に求められる基本は、やはり「安全」です。
その基本に立ち返って、重大事故が起きる前に原因の追及と安全対策が施され、安心して乗ることのできる鉄道になってもらいたいものです。