旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

消えゆく「国鉄形」 老いてもなお「冬の生活」を支え続ける【前編】

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 前回の「目立つことなく縁の下を支えた「山男」たち」で取り上げたEF64形電機機関車の話の中で、彼らが牽き続けた中央本線の石油輸送列車は、後継のEH200形電機機関車に代わっても変わることなく運転されています。

blog.railroad-traveler.info

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 その石油輸送列車のもう一つの主役……いえもしかすると「運ぶ」という観点ではこちらの方が主役になると思いますが……タンク車には、私たちの生活に欠かせない物を運び続けています。
 それは「ガソリン」と「石油類」です。
 なんだ、その分け方は?どちらも「石油」でいいんじゃないの?といわれてしまいそうです。まあ、確かに「石油」の一括りでも正解なんですが、貨車で運ぶとなるとちょっと事情が違ってくるんです。
 「ガソリン」はその名の通り「ガソリン」です。なので、そのまんまです。
 後者の「石油類」とは、かなり曖昧に思われるかも知れません。「軽油」や「灯油」、中には「潤滑油」までこの「石油類」に含まれます。この分け方は、簡単に言えば引火性と比重の違いからきています。そのために、同じタンク車でもガソリン輸送用の貨車と石油類輸送用の貨車では、僅かに構造が異なっています。

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 ところで、ガソリンや石油類を運ぶのに貨物列車で?と思われる方もいらっしゃるでしょう。それらを運ぶ時にはタンクローリーを使う方が一般的に思われるかも知れません。確かに街中を車で走っていると、自動車にしては長大な車体のタンクローリーを目にすることがあります。ガソリンや石油類を運ぶのに、わざわざ貨物列車で運ぶよりタンクローリーの方が手軽と思われるでしょう。
 ところが、危険物でもあるガソリンや石油類を大量に、それも長距離を運ぶとなると法律の壁が立ちはだかります。消防法ではタンクローリーを「移動タンク貯蔵所」と定義し、最大でも3万リットル以下と制限されています。ですから、タンクローリーは大量輸送には不向きなのです。
 ガソリンなどの石油製品の製造過程はご存知の方も多いかと思います。海外から原油をタンカーで運んできて、港で陸揚げをして海岸部にある石油精製工場でつくられます。
 しかし、石油製品は精製工場近くだけで消費されるのではなく、内陸部でも多く消費されます。もしかすると、都心部よりも内陸部の方が自動車の普及率が高いので、需要もかなり高いことがいえるでしょう。
 需要が高い分、その必要量も多くなります。高い需要と消費量を賄うとなると、最大で3万リットルしか積むことのできないタンクローリーで内陸部まで運ぶとなると、それこそ大量のタンクローリーで運ばなければならなくなり、輸送コストもかかるのであまり現実的ではなくなってしまいます。

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 そこで、大量輸送に向く貨物列車の出番になるのです。
 ちなみに、ここでいう内陸部とは、前回紹介した長野などの信州地方もそうですが、意外なことに東京都西部も含まれています。これらの地方では自動車用のガソリンや軽油はもちろんですが、冬季の厳しい寒さを凌ぐための暖房用の灯油も必要となります。
 その内陸部で人々が使う石油製品を運ぶ貨車がタンク車です。
 タンク車は戦前から製造・運転がされてきました。古くは15トン積み二軸貨車のタム500形など小型のタンク車に始まり、戦後になり輸送効率を上げようと大型の30トン積みボギー貨車のタキ3000形などが活躍します。
 荷重が15トンから30トンになり倍の輸送力になりますが、さらに効率を上げようとする努力がなされました。それもそのはずで、同じ運ぶなら1両あたりの積載荷重は多ければ多いほど輸送コストも低くなります。
 私が鉄道マンだった時代には、この30トン積みのタキ3000形はまだまだ現役でしたが、それに混じってさらに大容量とした35トン積みタキ9900形や、40トン積みのタキ40000形など様々な貨車が活躍していました。
 そして、集大成とでもいいましょうか、43トン積みのタキ43000形が製造されます。

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 タキ43000形はフレームレスと呼ばれる構造で、それまでのタンク車とは異なり台枠がないため、石油製品輸送用のタンク車としては最大の積載量を誇ります。
 もちろん、そうした性能は荷主の強い要望にによるものです。同じ運ぶのなら、できるだけ多くの量を積める貨車で効率よく運びたい。列車を運転する国鉄にとっても、荷主が必要とする量を運ぶとなれば長大な編成になる列車を仕立てるか、あるいは複数の列車を運転することになるので、2倍の手間と人手がかかることを考えるとやはり効率的に運べる貨車は歓迎だったでしょう。
 こうしてタキ43000形は、1967年から製造が始められ従来のタンク車と一緒に、内陸部の石油製品の需要を満たすために活躍します。途中、幾度の改良をされながら1982年までに644両が製造されました。