旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

もう一つの鉄道員 ~影で「安全輸送」を支えた地上勤務の鉄道員~ 第一章・その18「機関区での整備…台車検査と臨時検査」【中編】

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◆機関区での整備…台車検査と臨時検査 【中編】

前回までは
門司機関区で研修中に、もう一台の機関車が台車検査で入場してきた。
 今度は電気機関車のEF81形だ。やはりDD51形の時と同じように台車は車体から離されて、油脂や消耗品などは交換、車輪や台枠はしっかり検査されていく。
 DD51形と違うのは、電気機関車なのでエンジンはない。だから、台車に取り付けられている主電動機と呼ばれるモーターを取り外して検査をする作業が入ってくる。
 主電動機は電気機関車にとってとても重要な部品の一つ。なにしろこれが動かなければ機関車は動かなくなってしまう。もしも異常な動作をすればモーターは熱で焼かれて、最悪の場合機関車が燃えてしまう。そんなことになったらシャレにならない。
 主電動機は時にはコイルの巻き直しもすることがあると、一緒に作業をしていた先輩が教えてくれた。
 コイルのまき直しとはこれまた手間暇のかかるものだ!
 私は工業高校の電子科で学んでいたので、その容易でない作業を想像することができた。
 簡単に説明をすると、小学校6年生の理科の「電気とモーター」という学習がある。あの学習の中で、鉄心に電線(エナメル線)を巻き付け、同じく電線を巻き付けたストローを回す実験があるが、その鉄心に巻き付けている電線がここでいうコイルだ。このコイル、巻き付け方が雑だと、ストローは回らないという何とも難易度の高い作業だ。
 それがあの大きな機関車を動かすモーターのコイルの巻き直しとなれば、それはもう簡単では済まされない。それに、下手な巻き方をすれば、モーターの所定の出力も出せなくなるからその責任は重大だ。
 そんなことを頭の中で考えていると、先輩は「今回は必要ないからやらないけどな」といった。ある意味見てみたかったも気もするのでちょっと残念だった。
 もちろん、モーターだけではなく、機関車の機器室に納められている電気機器も点検をする。EF81形は交直流両用機関車なので、21mほどの車体の中に直流機器と交流機器の両方が詰め込まれている。どちらか一方なら簡単で済むが、両方となるとそうはいかない。
 パンタグラフ(屋根の上にある菱形のもの)から電気を取り込むが、直流の時は直接制御器に流されるがら割と単純で済む。ところが交流の時はそうはいかない。交流の時は一度整流器という機器で直流に変換してからモーターに電気を流す量を調整する制御器へと流される。
 ところが、交流は20000Vという高圧なので、万が一異常な電気が流れてきた時には、それを遮断しなければならないし、電圧が高い分、直流に比べて大きな碍子…よく、電柱と電線の間に挟まれている白い小さな部品…を使わなければならないから、その分だけ場所も取ってしまう。その碍子に亀裂など入ってしまっては、高圧の電気が車体に流れてしまい感電事故にもなりかねない。
 おまけに、門司機関区のEF81形は関門トンネルを通る運用だ。関門トンネルは本州と九州を結ぶ海底トンネルで、EF81形の添乗実習でも紹介したように、常に海水がトンネル内に湧き出ているから、防水にもかなり気を遣うということだ。
 そんなわけで、小倉車両所で全般検査を体験したED76形や、このEF81形の検査は非常に神経を尖らせるものだということだった。

【この項つづく】