旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

「のぞみ34号」重大インシデントについて元鉄道マンの考察と提言(12)

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 今回の重大インシデントでは、輸送指令の判断ミスも原因の一つと考えられています。しかし、指令業務に携わる職員の低年齢化も、現場に携わる中堅・ベテラン職員から懸念する声も聞きました。


前回までは 

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 国鉄からJRへ移行した頃の指令業務は、現場で十分な経験を重ね、知識・技術ともに秀でた人材が指令へと異動して携わっていました。つまり、指令に行くことができるのは早くで30代後半になってからというのが通例でした。しかしながら、今日の指令員はその年齢まで行かなくても業務に携わっていることが多いと聞きます。
 年齢が低いということは、現場での経験年数も浅いと言うことを意味しています。特に、今日は高学歴化で多くが4年制大学を卒業して入社しているので、早くとも23歳から働き出していることを考えると、10年そこそこの、ともすると10年未満の現場経験で指令業務に就いているといえるでしょう。現場の状況を的確に把握し、異常時には安全を最優先に考え適切な判断と指示を現場に与えるなければならないことを考えると、筆者の経験からも非常に少ないといえます。
 こうしたことから、こうした判断ミスによる重大インシデントをはじめとした、重大事故に繋がるような要因を少しでもなくし、多くの乗客の生命を安全に輸送するために次のような改善を提唱したいと考えます。

(1)すべての職員がプロフェッショナルになる採用体系

 これまでにも述べてきたように、鉄道会社(特にJRや大手私鉄)の新規採用はポテンシャル採用とプロフェッショナル採用に分けられています。前者は管理部門で勤務し、会社の経営に携わることを前提にした職種で、以前は総合職と呼ばれていた採用です。後者は現場部門で勤務することを前提とした職種で、学歴を問わず常に現場の第一線で勤務し、鉄道という特殊な技術や知識を会得して安全輸送に直接かかわります。稀に管理部門に異動し、中には経営に携わっていく人もいますが、それはごく僅かにすぎず現場で働き続けます。
 こうした管理と現場という二つに分けられた採用を一本化し、全員がプロフェッショナルとしての知識と経験をもてるようにすることです。
 これは管理部門に勤務し現場に直接かかわることがなくても、現場ではどういったことが行われ、安全輸送という鉄道輸送の生命線を守ることを常に意識しながら業務にあたるために必要だと考えられるからです。また、現場でどのような仕事が行われているかを熟知することで、管理部門としての業務もより円滑で適切なものになるでしょう。それだけ、鉄道会社というのは特殊な業務が多いといえます。

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 もちろん、管理部門に行かずに現場で働き続けることも重要です。その道のプロフェッショナルになることで、安全輸送の根幹を支え続け、利用される乗客の信頼に応えるのもこうした現場のプロフェッショナルであることは間違いありません。現場に勤務するプロフェッショナルを育てることは、近年どの業種でも問題になっている技術継承も比較的スムーズにでき、異常時の対応もより的確で安全を最優先したものになると考えられます。
 いずれにしても、採用時からしっかりと現場での仕事を経験し、知識や技術を身につけた上で、本人の希望と適性を考慮して現場のプロフェッショナルとして続けるか、あるいは管理部門で経営にかかわっていくかという進路の選択をすることで、安全を意識した組織を作ることも可能になると考えられます。