旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

いろいろな「物」を運ぶ貨物列車② 旅する「野菜」

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 五月半ばに、歌手の西城秀樹さんが亡くなりました。まだ63歳という若さだったので、この訃報に接した時は本当にビックリしました。心からご冥福をお祈り申し上げます。

 さて、西城秀樹さんといえば、やはりカレーのテレビCMでしょう。あの「秀紀、感激ッ!」というフレーズ、子どもの頃に観たあのCMはいまも脳裏に蘇ります。
 そのカレーといえば、ニンジンやタマネギ、ジャガイモといった野菜をたっぷり入れて煮込むと、とっても美味しいです。
 実は、この野菜をコンテナに載せて、貨物列車で全国へと運んでいます。

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▲冬の北海道を行くDD51形のプッシュ・プル貨物列車。積荷は生鮮野菜を中心であるため、白色に塗装された保冷(冷蔵)コンテナが多い。(©Kei365 Wikimediaより)

 ジャガイモの産地で最も多いのは北海道ということは、いまや多くの人がご存知のことだと思います。2017年に立て続けに北海道を襲った台風と大雨の影響で、ジャガイモ畑が壊滅的な打撃を受けて、収穫量が激減した結果、あの「ポテチ」につかうジャガイモすら確保できなくなってしまい、生産一時休止なんてことになってしまいました。
 タマネギもやっぱり北海道が全国で一番生産されています。そしてニンジンも北海道が堂々の1位の生産量。やっぱり、あの広大な大地に広がる畑は、私たちの食生活にとって欠かすことのできない存在です。

 その北海道で獲れた野菜。いったい、どうやって私たちの手許まで運ばれてくるのでしょう。
 この質問をすると、年齢層にもよりますが多くの人は「飛行機」と答えることが多いです。まあ、あながち的外れではないですが、あれだけ重さのある物を大量にとなると、飛行機はあまり適さないです。なにしろ運賃が高くなってしまい、近くのスーパーに届く頃になると、とんでもない値段がついてしまうこともあります。
 そうすると「トラック」では?と考えるのがふつうです。でも、トラックでも運べる量が限られてしまい、しかも北海道と本州との間には津軽海峡が立ちはだかっています。まあ、トラックがフェリーに乗ってしまえば問題は解決ですが、それなら船便にしても同じです。
 船で運ぶこともあるようですが、何しろ野菜は鮮度が命ですから、国内航路でも場所によっては2~3日はかかってしまうので、荷主さんからすればあまり好ましくないです。
 残るはやっぱり貨物列車です。
 列車なら、北海道から国内の主要都市へ列車で運ぶこともできます。しかも時間はどれだけ多くても1~2日で届けられるので、新鮮さが命の野菜も鮮度をあまり落とさずに済みます。それに、出荷をする時には大量に運ぶので、コンテナに載せれば一度に多くの量を運ぶことができます。
 秋の収穫の季節になると、わざわざ野菜を運ぶために臨時の列車まで走らせるのですから驚きです。ともすると、一つの列車に載せたコンテナの中身は、全部「タマネギ」なんてこともあるようで、別名「タマネギ列車」とか呼ばれているそうです。

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 さて、この野菜を積んだコンテナ。
 東日本大震災では「救援物資」に早変わりしたことがありました。
 東北本線からIGRいわて銀河鉄道線を走行中に、北海道からタマネギを積んだコンテナを載せた貨物列車が被災しました。貨物列車は脱線してしまい、その後の走行は不可能になってしまいました。
 通常なら、列車が脱線事故を起こしてしまうと、鉄道会社かがすぐに復旧作業をするために、車両や保線の技術者が駆けつけます。が、この時ばかりは未曾有の大地震のため、そうすることはできません。
 脱線した貨物列車は、やむなく放置されたままになります。
 しかし、積んであるタマネギはそんなことに関係なく、時間が経つにつれて鮮度は落ちていってしまいます。鮮度が落ちて、最悪腐ってしまってはもはや商品どころか、食べることもできません。
 そこで、荷主とJR貨物はある決断をしました。

 輸送中の野菜を被災地の救援物資に宛てよう。

 脱線したまま動くことができなくなった貨物列車、そこに載せられているタマネギを満載したコンテナの扉が、送り先の荷主のもとに届けられる前に開かれました。

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 実はこのできごと、通常ではあり得ないことでした。
 コンテナは送り主のところで積荷を積むと、扉は閉められて金属製の「封印」が巻かれます。この封印は、送り先の荷主のところに着くまで絶対に破ってはならないもので、万が一この封印が破かれた状態で届くと、コンテナの中に積まれた貨物に何か「事故」があったとして、大変なことになります。
 ですから、コンテナを貨車に積んだ駅でも、貨車から積み卸した駅でも、この封印がしっかり巻かれているかを駅員が点検して回り、荷主さんの貨物に何事もない常態化を確かめます。

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▲コンテナのドアロッドハンドルには、発送元で貨物を積み込むと管理番号が打刻された金属製の封緘を巻き付ける。輸送中にコンテナが開けられ貨物の破損や盗難といった事故を防ぐためだ。この封緘が破れた状態で到着地で発見されると輸送事故となってしまう。東日本大震災の時は、輸送中にこの封緘が破りドアを開放、積荷を支援物資とした稀な例だった。(高岡駅にて筆者撮影)

 その封印が、目的地の駅に着く前に、しかも脱線したままの状態で破られ、コンテナの扉が開かれるのはまさに異例中の異例でした。このニュースに接した時、輸送途中で封印を破いてコンテナの扉を開いたことにも驚きましたが、荷主とJR貨物臨機応変の対応にも驚かされました。
 かくして、北海道産のタマネギは、被災者の皆さんのもとへと送り届けられたそうです。

 少し話は逸れてしまいましたが、私たちの食生活に欠かせない野菜も、貨物列車で長い距離を旅して、食卓に載っていたり、あるいは「ポテチ」になっているのですね。