さらに多くのお客さんを運ぶために
一方、首都圏の混雑路線でもある山手線と京浜東北線などは、1970年代後半までに10両編成を組んでの運転でした。高度経済成長期が終わったとはいえ、ラッシュ時間帯の混雑は激しさは変わることがなく、列車の運転本数を増やすとともに1列車あたりに連結される車両の数を増やして多くの乗客を運べるようにしました。
しかし、これでも混雑を緩和することがままならない状態が続きます。
さらに連結する車両の数を増やすことも考えられますが、それには駅のホームを延長しなければなりません。103系電車は1両の長さが20mあるので、2両増やすと40m、5両では100mも延長させなければなりません。しかし、東京の都心部でそのような工事をするためには、敷地となる土地が必要で、そのような土地はあまりなく、あっても高価になってしまいます。赤字が膨らみ続ける国鉄に、そのような体力はほとんどなかったといえるでしょう。
前回までは
そこで国鉄は運転本数を増やすことにしました。
中央快速線と中央総武緩行線は、都心部ではどちらもほぼ同じ区間を別々の線路で走っているので、信号設備などは特に手を加えず運転本数を限界まで増やすことで対応しました。
山手線と京浜東北線は田幡-品川間は同じ区間を走っていますが、それ以外はまったく違うところを走っているので、中央線のようにはいきませんでした。そこで、信号設備を改良して運転本数を増やすことにしました。
自動列車制御装置、いわゆるATC化でした。
このATCはそれまで地上に設置された信号機をなくし、運転する速度を速度計の周りに取り付けられた車内信号機で指示するものです。それまでの信号機に比べて、細かい速度の指示ができ、さらに閉塞と呼ばれる信号機と信号機の間の区間が細かく設定できるので、列車が運転できる本数を増やすことができます。国鉄は混雑が激しい二つの路線に、このATCを導入しました。
ATCの導入によって、先頭に立つ車両にもこれに対応した信号機器を載せなければなりません。ところが、それまで先頭に立っていた車両には、このATCの信号機器を載せることができませんでした。理由は、信号機器があまりにも大きく、そのスペースが103系電車にはなかったのです。
それでは新型車両を入れれば簡単に済むお話ですが、台所事情が悪化している国鉄にそんなことは無理な相談。しかも、これは先頭の車両だけの話で、残りの中間の車両にとっては関係のないことで、もしも新型車両ということになれば、中間の車両は造っただけ無駄ということになりかねません。
▲京浜東北線を走る103系電車のATC対応車。山手線と京浜東北線、そして根岸線は多頻度運転を実現するために信号保安装置をATCへと替えることになった。103系電車もATCに対応するために先頭車はさらに改良が加えられ、前面のデザインも僅かに手が加えられた。(筆者撮影)
こうして、さらに改良を加えた先頭の車両がつくられることになりました。
改良された車両は、前面の窓が従来の車両よりもさらに上下方向が細くし、運転台が高い位置になって、運転士の前方視界が改善されました。窓が細くなった分、窓下は何もなくなってのっぺりとした印象になるので、アクセントとして窓下にはステンレスの細い帯が取り付けられました。これだけで、同じ103系電車でも印象が大きく変わりました。
そして、ATCの信号機器を載せるために、運転台のある乗務員室の後ろには信号機器を載せるスペースを設けました。その分だけ客室は狭くなり、乗務員室の後ろにあった戸袋窓をなくしてしまいました。もちろん、運転台の機器類、特に計器類はATCに対応したものを装備しています。
新しくつくられたATC機器対応の先頭車両はさっそく山手線と京浜東北線で走っていた先頭車両と交代し、ATCの使用開始とともに混雑の緩和を目指して走り始めます。新しい先頭車両が組み込まれたことで山手線と京浜東北線での仕事を失った在来の先頭車両たちは、他の路線へと転じて同じように都心部の路線から押し出された車両たちと組むことになります。
周辺の路線へ転じた車両たちの中には、6両編成や4両編成といった短い編成を組む路線が多く、先頭車両が不足していたのでATC対応車に押し出された車両たちはすぐに活躍の場が得られたのでした。