人間、誰でも初めての経験というのは必ずあるものです。
それがまだ若い、10代の高校生なら少しながらも世間に出て働くというのは、想像以上にハードルが高いかも知れません。
かくいう私自身、高校時代にコンビニにアルバイト店員として働きはじめた時、初めてのレジ打ちなんかは緊張して心臓が口から飛び出してしまうのではないかと思ったほどでした。
とはいえ時代はまだ20世紀、それも昭和の頃のお話なので、社会も今よりもっと緩くて穏やかに時は流れていたのではないでしょうか。
さて先日、私の教え子がハンバーガーショップでアルバイト店員として働いていることはお話ししたと思います。誰でもそうですが、目の前にあることに一生懸命に打ち込むというのは、本当に素晴らしいものだと思います。
今日もまた、地元に近い駅前にあるハンバーガーショップで、コーヒーを飲みながら原稿でも書こうとお店に入っていくと、カウンターにはあどけなさの残る高校生の女の子と、その後ろには背後霊か何かのように(笑)ピッタリとついているマネージャーの店員の姿がありました。
どちらもアルバイトではありますが、さすがに新人店員とマネージャーでは大きな差があります。マネージャーの店員は新人の教育係もこなすので、本当に忙しく、そして能力が必要だそうです。
私はカウンターの前に立つと、いつものようにコーヒーと運動後のタンパク質補給にチキンを注文しました。
新人店員の女の子は、もうこれ以上ないほど緊張した表情のまま、慣れない手つきでPOSレジのタッチパネルを打っていきます。
私は思わず、
(もしかすると、バイトを始めたばかりなのかな?)
と考えてしまいました。
さすがにいつものように早い口調で注文してしまっては気の毒に思い、ゆっくりとした口調で、注文する品物と、決済の方法を伝えました。もちろん、店員さんが間違えたり戸惑ったりしても、私は嫌な顔をしないでいようと落ち着いた態度を保ちます。
たどたどしく、そして緊張は最高潮だったのか笑顔を忘れてカチカチの堅い表情でしたが、ともかく一生懸命さに思わず心の中で「がんばれ!」と叫んでしまいました。初めてだからこそ、早く仕事を覚えて慣れようと一生懸命だったのが、とても印象に残りました。
支払いを済ませると、商品お渡しカウンターでは先輩の店員さんがすでに商品を用意してくれていました。先輩たちのフォローを受けながら、きっとこの店員の女の子は成長していくことでしょう。
いつしか一人で、余裕をもってカウンターでの仕事をこなせるようになってほしいと思わずにはいられませんでした。
人手が足らない、だからすぐに戦力になる人材がほしい。
たしかに、どこの業界もそのような声が多く聞かれます。かくいう私が身を置く業界もそうです。ベテランが抜けたところの補充は、中堅かそれ以上の人が来てくれれば助かります。
残念ながらそのようなことは滅多になく、若い新人がやってくるのがほとんどです。新人の若い人に中堅以上の活躍を期待するのは酷というもの、ともかく少しでも一人前になれるよに育てなければなりません。
さりとて一朝一夕にはいかないもの、新人教育は教育を担当する人の力量にも左右されるので、これはこれで難しいものです。ですが、やはり真摯で一生懸命だと、教える方もやりがいがあるものです。
コーヒーを飲み終えて夕暮れの駅前に出ると、このお話をいつか若い人や教え子たちに話してあげようと思いました。