旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

続・悲運のハイパワー機 幻となった交直流6000kW機【3】

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4.試作機EF500 901号機の誕生

4-1 EF500 901号機の概要

 EF500の試作機である901号機は、1990年8月に落成しました。

 直流機のEF200が同じ年の3月に落成していることからすると、僅かに遅れての登場でした。

 EF500は交直流両用の電気機関車なので、機関車が走るために必要な電気、つまり架線からパンタグラフを経て取り込む電気は直流1,500Vと交流20,000Vです。そして、交流は同じ電圧でも東日本と西日本では周波数が異なります。
 東日本では50Hzを、西日本では60Hzの電気を使いますが、EF500はそのどちらにも対応できるように設計されていました。こうしたあたりは、先輩であるEF81と同じと言ってよいでしょう。

4-2 交流区間を走るために

 交直流両用の電気機関車は、走るために使う電気がこのように3つも異なるため、直流機や交流機と比べて複雑になってしまいます。そして搭載する機器も、多くなってしまいます。それは当時の最新技術を集めたEF500も同じでした。

JNR EF81-2 2008
▲EF500が開発される以前は、国鉄から引き継いだEF81が多数活躍していた。EF81は交直流両用電気機関車でもっとも多く製造された機関車で、直流1,500Vと交流20,000V 50/60Hzのいずれにも対応できるように設計された。交流区間では主変圧器で電圧を下げ、主整流器で交流を直流に変換して直流機と同等の機器へと流れる。EF500もEF81とほぼ同じ方式で交流区間を走行できるように設計された。(©kazusan [CC BY-SA 3.0], ウィキメディア・コモンズ経由で

 

 EF500は、パンタグラフから集めた電気を使ってモーターを動かし、そのモーターが作り出した力(トルク)で走ります。直流区間では、1,500Vの電気を直接インバーター制御装置へ流しますが、交流区間ではそれができません。
 そのため、交直流機では交流区間を走るときには、パンタグラフから取り入れた交流20,000Vという高圧電気を直流1,500へ変換するために、変圧器→整流器の順で流していきます。

 EF500にはFTM1形という変圧器が装備されています。この変圧器は従来のEF81に装備している変圧器と比べて大容量かつ軽量に設計されたものです。ここで交流20,000Vの電気は交流710Vと1220Vに降圧されます。
 そしてこの変圧器で降圧された電気は、さらに整流器と呼ばれる装置に送られて直流1,500Vへと変換されるのです。

 整流器も新しい設計のものが装備されました。EF81などの国鉄形の機関車には、黎明期は水銀整流器が、そして半導体の発達によってより取扱いの容易なシリコン整流器が使われました。EF500には、主回路を簡素化し、装置を小型化したものが載せられました。

 こうして直流1,500Vに変換された電気は、制御装置へと流されます。

 

4-3 最新技術VVVFインバーター制御を装備する

 従来の電気機関車は、いくつもの抵抗器をつなぎ替えてモーターに流す電圧を調整し、速度に応じたモーターの回転数を得ていました。この方式は回路が簡単でメンテナンスも容易である反面、必要のない電気エネルギーを熱エネルギーとして捨てているため、効率が悪く省エネの観点でも課題を抱えていました。

 しかし、EF500は1990年代に入って開発されたので、この旧来の抵抗制御では時代遅れです。すでに電車では効率性と省エネ性に優れている、VVVFインバーター制御が実用化されていました。この電車でも実用化されている方法を、電気機関車にも活用して効率性の高い機関車をつくろうとしたのでした。

 VVVFインバーター制御では、直流1,500Vを再び交流電気へ変換していきます。ここでの交流電機への変換は、モーターを動かすためにもっとも適した電圧と周波数に変換することです。そしてモーターは従来の直流モーターではなく、交流モーターを使います。

 

4-4 インバーターと組み合わせる大出力交流モーター(主電動機)

 交流モーターは直流モーターに比べてメンテナンス性に優れ、同じ大きさでも比較的大きな出力のものがつくれます。そこで、EF500のために開発された交流モーター(かご形三相誘導電動機)であるFMT1は、1時間定格出力を1,000kWという大出力としました。これは、直流用のEF200に装備されるFMT2と同じ出力です。同じ出力で、同じ方式のモーターですが、異なる形式のモーターとなったのは開発した会社の違いで競作させたといえるでしょう。

 この1,000kWという大出力のモーターを6基搭載したことで、機関車の定格出力は6,000kWとしました。この大出力は、EF200と同様に平坦線では1,600トン列車を高速で牽くことができ、10‰の勾配では1,100トンの貨物列車を0km/hから引き出す能力から求められた性能でした。これは、直流機であるEF200と同じコンセプトでしたが、EF500が走ることを想定された線路の中には青森-函館間にある青函トンネルも含まれていました。そこでは、ED79重連で貨物列車の牽引に当たっていましたが、これをEF500単機に置き換えることが含まれていたようです。

 従来の抵抗制御では、1基の制御装置で6基のモーターをコントロールしていました。しかし、VVVFインバーター制御では制御装置に半導体を使うため、より細やかなコントロールを実現させるために、1基の制御装置で動かすモーターの数を可能な限り少なくします。そこで、EF500は1基の制御装置で1つのモーターをコントロールする1C1Mとなりました。

 制御装置を6基も機関車の中に収めるとなると、それなりに広いスペースが必要になります。しかし、VVVFインバーター制御では半導体回路を多用するため、制御装置1基あたりの大きさは従来の抵抗制御に比べて格段に小型・軽量化が実現できるので、6基の制御装置の搭載を可能にしました。

 こうして、電車と同じ最先端の技術をふんだんに使うことで、日本の電気機関車としては初めてのVVVFインバーター制御装置と三相かご形誘導電動機の組み合わせた性能を獲得しました。このことは、国鉄から引き継いだ従来の機関車たちとは一線を画する高性能かつ高効率な車両となったのです。