旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

この1枚から 東横線を疾駆していた9000系【前編】

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 いつも拙筆のブログをお読みいただき、ありがとうございます。

 電車の制御にはいろいろな方法があることは、ご存知の方も多いかと思います。その昔は電気的にも容易で、保守の面でもそれほど難しくなかった抵抗制御が主流でした。というよりは、抵抗制御しかなかったというのが実態だったでしょう。架線からパンタグラフを通して得た電流を、主電動機に流すために適した電圧に落とす役割と、速度を落とすときに主電動機を発電機として使う発電ブレーキでは、発生した電気を抵抗器に流して熱エネルギーに変換して捨てていたのでした。

 構成や機器類が簡便な反面、この方法では消費する電力が大きく、特に1970年代に起こったオイルショック以降、鉄道にも省エネの意識が沸き起こりました。そして、パワーエレクトロニクスの発達によって、電機子チョッパ制御や界磁チョッパ制御など、消費電力を抑える技術が使われるようになります。

 1980年代も半ばになると、電車にも交流モーターが使われるようになりました。かご形三相誘導電動機は、消費電力を抑えながら強力で、しかも小型軽量な主電動機でした。そして、それを制御するためにVVVFインバータ制御が採り入れることができるようになり、以降は高価な電機子チョッパ制御や、メンテナンスに手間のかかる複巻電動機を使う界磁チョッパ制御から、VVVFインバータ制御がその主役となっていきました。

 東急9000系も、1980年代に開発されたVVVFインバータ制御を採用した量産車です。わざわざ「量産車」と書いたのは、旧6000系の一部を改造してVVVFインバータ制御の試験者として大井町線で何年にも渡って試験を行い、その成果を反映する形で登場したのが9000系だったからです。

 9000系が登場するのは1986年ですが、その前の年まで東急電鉄8090系を新製していました。8090系は8000系と同じ機器類を搭載していましたが、車体は航空機の設計に用いられる強度解析を使ったコンピュータ解析を使い、従来車に比べて約24%も軽量化したものでした。そのため、車体断面は上部を内側に傾斜させた卵型になり、ステンレス鋼の歪を防ぎ、強度を持たせるために設けられたコルゲート板を廃した、非常にスッキリしたデザインになったのです。また、前面デザインも、非貫通ながらも前面窓はピラーで区切っただけの3連窓になり、左右はわずかに後退角をもたせた半折妻という、東急の車両としては珍しくデザインに拘ったような印象を受けました。

 ところが、9000系の車体はというと、断面は側面を垂直にした従来のデザインに戻り、前面もストンと切った切妻と、8000系の頃にでも戻ったような印象になりました。そもそも東急では、新車を設計する際には経済性を最優先にさせる方針があり、「切妻以外考えるな」という上層部の現場への指導もあったようで、そうした方針や指導に従うと9000系の切妻への逆戻りも頷けるものがありました。

 

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田園調布−多摩川 9000系・9104F 筆者撮影

 

 1986年に9000系の量産先行車となる9101Fが元住吉に配置されると、さっそく営業運転に充てられました。量産先行車なので、営業運転をしながら不具合箇所を見つけ修正していくのですが、VVVFインバータ制御という従来になかった新機軸のため、初期には様々な不具合や課題があったそうです。

 それらを解決でき、ようやく量産へと移行すると、1987年から徐々にその数を増やしていきました。もっとも、この頃の筆者はまだ中高生だったので、8000系が9000系に置き換えられていくのだろうと勝手に想像していましたが、現実はそうにはならず、最終的には1991年に9115Fで製造を終了し、15編成117両のみとなりました。

 もっとも、考えてみれば8000系は最も古い車両でも、1987年の時点で20年は超えておらず、8090系に至ってはまだ5年も経っていません。しかもオールステンレス車なので、雨水などによる侵食とは円がなく、構体の強度も製造時と変わらないので、それを置き換えるというのは現実的ではないでしょう。しかも、8000系は界磁チョッパ制御で省エネ性もあるので、いくら9000系VVVFインバータ制御が高効率だったとしても、わざわざ高価な車両で経年の浅い車両を淘汰するというのでは、東急の株主が黙っているはずもありません。

 

 

《次回へつづく》

 

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