旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

消えゆく「国鉄形」 ~湘南・伊豆を走り続ける最後の国鉄特急形~ 185系電車【14】

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 前回のつづきより

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 (12)終わりに

 1981年に国鉄から、東海道伊東線用の新型特急用車両として、185系が登場するというアナウンスがあったとき、いったいどのような車両なのかと子供心にワクワクしたものでした。鉄道趣味誌でその姿を目の当たりにしたとき、それまでの国鉄形特急用車両の「常識」をことごとく覆す姿に大きなショックを受けました。

 高運転台、切り詰めたボンネットスタイル(いわゆる「電気釜」)、クリーム色地に赤い帯という画一的なスタイルから、2ドア、開閉可能な客用窓、そして何よりもホワイト・アイボリー地にグリーンの斜めストライプとう塗装は、新しい時代の国鉄車両を勝手に予感したものです。

 

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185系0番代「湘南ライナー」A1編成 大井町-大森 1987.5(筆者撮影) 
側面には「JNR」マークが残る

 

 しかし、その実は153系と183系を置換えるため、普通列車でも特急列車でも運用可能な「折衷型」の設計になり、特急用としては中途半端なものでしかありませんでした。普通列車としては車内設備は贅沢なものでしたが、デッキ付きの2ドアが災いし、ラッシュ時に乗客の乗降に時間がかかりすぎ、ダイヤを乱す張本人のような扱いを受け、やはり使いづらい面があったのは事実です。

 それでも、この「普通列車から特急列車まで」というコンセプトは、少年だった筆者の心を鷲掴みにしたのでした。なにしろ列車に乗って遠くまで旅に出るということのない環境で育ったため、機会を捉えては185系に乗ろうと画策したのです。もちろん、子どもの小遣いで乗ることのできる範囲は限られているので、特急列車に乗って遠出なんてとんでもないこと。地元の駅からせいぜい2駅から3駅程度、この185系普通列車として運用されている列車を狙って乗っては、満足していた時代がありました。

 そんな185系も、「踊り子」や「湘南ライナー」などといった列車で走る姿を、鉄道マンになって何度見る機会はあり、それがいつしか「当たり前の光景」となっていき、関心を持たなくなってしまったのは、今となっては残念なことだと悔やむことも。まあ、生業にしてしまっては、趣味と一緒では務まらないというのが筆者のポリシーだったので仕方ありません。

 2021年のダイヤ改正で定期運用を終了するということを耳にしたとき、「ああ、一つの時代が終わるんだな」と寂しい思いを抱いたのも事実です。国鉄が最後に製造した特急形電車である185系は、登場当初はいろいろと言われもしましたが、それでも、長きに渡って活躍し続けてきたのも事実です。

 民営化後に様々な車両が登場しては消えていきました。例えば成田エクスプレスで活躍した253系は、1991年に登場しましたが東武直通特急用として残された200番代をリニューアルした1000番代を除いて、2010年にすべて廃車になりました。19年という短い活動期間は、今日の車両設計コンセプトを体現したようなものですが、先輩となる185系よりも早々に退いていきました。

 また、消費電力半分、寿命半分というフレーズが先行し、「使い捨て電車」「走ルンです」などと一部から揶揄された209系もすでに京浜東北線からは退き、制御機器などを交換するなどの更新工事を施され、房総各線で使用されてはいますが、それでも一部はすでに廃車となり、209系自体の消滅が囁かれています。こうした事例から考えると、185系の設計は良くも悪くも国鉄の「質実剛健」という設計思想が反映され、設計こそは古いままですが抵抗制御というもっとも信頼性が高く、そしてあまり複雑ではない機器構成であるが故に、40年近くも走り続けてきたことは特筆に値するものといえます。

 

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 もうまもなく定期運用から退く185系ですが、国鉄が最後に世に送り出した特急形電車は、長きに渡って多くの人々を無事故で運び続けてきたことは、鉄道車両でも類まれな功績の一つといえ、鉄道史上に残る車両といえるでしょう。同時に、折衷型の設備であるが故に、特急らしからぬ設備に非難の声もありましたが、それがかえって様々な列車に充てることができたのは、185系の汎用性の高さを示していることであるといえるでしょう。

 

〈了〉

 

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