旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

悲運の貨車~経済を支える物流に挑んだ挑戦車たち~ 超低床のパイオニア・コキ70

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◆はじめに

 鉄道開通以来、貨物輸送といえば有蓋車や無蓋車など、貨車1両単位で貨物を載せて運ぶことが主たる方法でした。それは、戦時中も変わらず続けられ、終戦後も高度経済成長期には物流を支える主役でもあったのです。

 中には生活に直結するものも運んでいました。例えば紙の原料になるチップは無蓋車で運び、灯油などの石油類はタンク車で運ぶといった具合に、あらゆる物を運ぶために鉄道は欠かせない存在だったのです。

 

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©シャムネコ, CC BY-SA 3.0, ウィキメディア・コモンズより引用

 

 しかし、1964年の東京オリンピックを期に、全国で高速道路網の整備が進められます。同時に人や物を運んでいた鉄道は、そのシェアを徐々に自動車に奪われはじめ、年を追うごとに減少の一途をたどり始めます。加えて、国鉄の労使関係が極度に悪化したことでストライキが頻発し、鉄道がもっとも信頼されていた理由の一つである「決まった日に、決まった時刻に到着する」という長所が失われ、同時に相次ぐ運賃の値上げも大きな影響を及ぼし、利用者からは「鉄道は信頼できないから使わない」とまで言われ、鉄道よりも安価で小回りも効き、簡便なトラックへ輸送へ奪われていきました。

 1970年代に入るともはや鉄道貨物輸送は散々たる状況を呈し、中には貨物を積んでいない貨車をただ走らせているだけという状態にまでなっていました。しかしながら、貨物輸送をすべてやめてしまうという選択肢はなく、あくまで公共交通機関を担う国の機関という国鉄の立場もあったため、そのような状況であるにも関わらず貨物輸送を続けていたのでした。

 しかし、こうした厳しい状況に甘んじているわけにもいきません。国鉄も貨物輸送のシェアを取り戻そうと必死で、1970年代頃から利用者のニーズを取り込み、効率的な輸送を提供しようと様々なアイディアを打ち出していました。それは、民営化後も同じで、モーダルシフトという国の掛け声に応えるように、JR貨物もまたいろいろなことを試したのでした。

 とはいえ、そんな試作的要素の強い車両などが、すべて陽の目に当たることはありません。中には「これならいける」とか「利用者を取り込めるはずだ」と考えて実行に移した結果、実際には芳しい成績を上げることができずに消えていったものたちもいました。

 ここで、そうした国鉄JR貨物が知恵を絞り、アイディアを出して新しい貨物輸送形態に取り組み、儚くも消えていった車両たちについて、筆者の鉄道マン時代の話もも交えて紹介していきたいと思います。

 

◆超低床の魁は輝くことなく消えていった・コキ70

 筆者が鉄道マンになった頃は、1990年代のはじめのこと。バブル経済による好景気が続き、貨物輸送も民営化当初の予想を良い意味で裏切り、輸送量は増える一方でした。これは日本の物流量が増えていたことと、物流の主役であったトラック輸送は、あまりの好景気で需要を満たせずドライバー不足という根本的な課題を抱え、それならばと(といっても、さすがに民営化間もない時期だったので、国鉄時代の禍根を抱えていた荷主にとっては積極的ではなかったが)鉄道を利用する荷主が戻ってきたことが要因でした。

 すでにこの頃には、鉄道による貨物輸送は従来の車扱輸送からコンテナ輸送にシフトしており、多くの貨物列車は拠点間輸送によるコンテナ貨物でした。もっとも、今日のようにすべてがコンテナ輸送へ移行していたわけではなく、例えば輸入穀物類はクリーム色に塗られたホキ2200に積まれて運ばれていたり、石灰石や石油、紙類といったコンテナへ載せるには不向きな積荷については、国鉄から引き継いだ専用の貨車を使って運んでいました。

 一方で、コンテナ輸送もそれなりに盛況でした。国鉄から引き継いだC20やC35などといったコンテナだけでは足りず、老朽化による代替え分も含めて、民営化後から新形式のコンテナを増備し、加えて同じく引き継いだコキ5500やコキ50000では増える輸送量に対応できないため、従来のコンテナ車よりも床面をわずかに低くし、高速性能にも優れるコキ100系を新たに開発し、次々と増備していたのでした。

 コキ100系は同じクラスといえるコキ50000と比べて、床面高さが100mm低くされました。たった100mm(=10cm)ですが、これは非常に大きな意味があったのでした。

 

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©Gazouya-japan, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commonsより引用

 

 コキ100系では従来のサイズのコンテナはもちろんですが、将来的に容積を拡大したコンテナの積載を目論んでいました。この容積を拡大するということは非常に大きな意味を持ち、例えばC20であれば容積は17㎥であるのに対し、民営化直後にもっとも多く作られた18D であれば18㎥、近年増備が続く20Dであれば19.5㎥と拡大しています。まあ、体積で表すとあまりピンとこないかも知れませんが、コンテナ内の寸法で見るとよくおわかりいただけるかと思います。

 

《次回へつづく》

 

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