旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

この1枚から 延命工事で面目一新したキハ47【2】

広告

《前回のつづきから》

blog.railroad-traveler.info

 

 ところが、山陽新幹線東海道新幹線と直通で運転されていますが、その環境は全く異なるものといっていいでしょう。岡山や広島、小倉、博多と大都市を結んではいますが、大阪対山陽・九州と大阪対東京では、その利用者数が桁違いに異なります。

 また、岡山や広島は別として、博多などへは航空機も競合相手になりかねません。高速バスは安価な交通手段で立ちはだかります。言い換えれば、山陽新幹線東海道新幹線とは比べものにならないくらいに収益性が低い上に、東海道新幹線と直通する関係上、強気の経営をするJR東海の施策は、そのままJR西日本の施策に乗せなければならないというジレンマも抱えているのです。

 加えて、JR西日本は数多くのローカル線を抱えています。特に中国地方には陰陽連絡路線という役割を担う路線があり、これらは幹線ではなく地方交通線に分類されるローカル線です。地元自治体の援助を受けないと鉄道の存続事態も危ぶまれる路線が多数あり、常に赤字を出す可能性があるため、JR西日本の経営を圧迫する存在ともいえます。

 こうした経営環境では、ドル箱ともいえる京阪神の在来線とJR東海の施策に乗らざるを得ない山陽新幹線には、優先的に新型車が投じられてきましたが、それでも財政基盤が極端に強固なJR東日本のように、短期間で大量製造をして古い車両を一気に置き換え*1ることなど不可能でした。

 そこで、国鉄から継承した車両を少しでも長く使い続けることができるようにするため、JR西日本は様々な延命工事を施していきます。103系を皮切りに、戸袋窓の埋め込み、配管の取替え、窓サッシの交換、内装の化粧板張替え、さらには外板の補修など、あまり目立たないながらも重要な部分をリフレッシュさせて、耐用年数を伸ばすようにしました。

 

f:id:norichika583:20200724002051j:plain

JR西日本は数多くのキハ40系を継承し、今日も運用をし続けている。製造から既に40年近くが経ち、それなりに老朽化も進んでいる。エンジン換装により走行性能を向上させ、冷房化により接客サービスも向上させたが、やはり経年による老朽化は避けられない。そこで、延命工事を施工することで長期に渡る運用を可能にした。外観では戸袋窓を埋め込み、客室窓のサッシを交換、外板の徹底的な補修によって、見た目にも新車同然になり面目を一新した。(キハ47 18〔岡オカ〕 岡山駅 2017年5月27日 筆者撮影)

 

 この延命工事は時代が進むにつれて進化、というよりは内容が変わっていき、延命だけでなく国鉄時代の印象を払拭する体質改善工事へと変わっていきました。気動車であるキハ40系はそこまでではありませんでしたが、それでも延命N40と呼ばれる工事を施されると、戸袋窓は廃止され、窓サッシも従来の銀色のものから黒色塗装のものへと替えられました。また、雨樋もFRPに交換し、外板も塗装を一度剥離した上で補修を施し、改めて塗装し直されるなど、かなり大掛かりな工事を行ったのでした。

 また、冷房装置も民営化直後に設置された床下設置サブエンジン式のAU34から、機関直結式のWAU201に交換され、屋根上には熱交換器が設置されたのが外観の大きな特徴となりました。

 車内も室内の化粧板を張替えたり、通風器を撤去されたりするなどして、リフレッシュされました。とはいえ、座席の形状は国鉄時代のままなので、これ以外は目新しいものはないので、それほど印象的とはいないでしょう。

 このような延命措置を施した上で、JR西日本は今後もキハ40系を運用し続けるようです。JR東日本が次々と次世代の気動車を開発して、営業運転に就かせている一方で、こうした国鉄気動車に延命措置を施し使い続けなければならないのは、やはり厳しい財政事情と、分割民営化から既に30年以上が経った今日でさえ、いまだ国鉄形の電車をすべて置き換えが実現できていない実態から、1両あたりの輸送量と走行頻度が少ない気動車にまで手が回せないという経営体質からのことだといえます。

 一ファンとしては、古き良き国鉄気動車が走り続けてくれるのは嬉しいことですが、これを毎日利用しなければならない沿線の人々の立場に立つと、そう喜んで入られません。

 もちろん、検修に携わる現場の技術者は故障や事故が起きないように努力を続けていることでしょう。古くなるっぽうの車両を維持し続ける彼らの技術力は高く、称賛に値するといえます。しかし、最新の車両であればメンテナンスにかかる労力もコストも軽減され、新車として導入されれば車両自体の経年も浅くなるので、当然安全性が高まります。また、利用者にとっても快適性の向上が期待でき、同時に軽量車体と高性能エンジンの組み合わせによって車両自体の性能も向上し、列車の速達性向上が期待できるでしょう。

 しかし何度もお話したように、こうしたことを実現させるためにはまだまだ時間がかかりそうです。国鉄が設計した車両は、製造から50年近くが経っても運用に耐えられる剛健さがあります。そこへ、今日のニーズにできるだけ近づけさせ、かつ耐用年数を少しでも伸ばすことができるように大規模な改善工事を施すことで、ある程度は面目を一新させることができたといえます。それまで国鉄時代と何ら変わらなかったローカル線の光景が、面目を一新した車両が走ることで、少しだけ新しい風が吹き始めたのではないでしょうか。

 

 今回も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

 

*1:JR東日本は、民営化後に軽量、低コストの車両を開発してきた。209系から始まる一連の車両は、運用コストを軽減させて適正化するとともに、製造コストも従来車の半分になるようバリュー・エンジニアリングの手法を取り入れた。そのため、209系だけでなく、後継となるE231系E233系を短期間で大量製造することにより、量産効果による価格低減も相まって、残存する国鉄形車両を一掃することに成功し、更には初期に製造された209系やE217系を置き換えることを可能にしている。