《前回のつづきから》
タキ64000は2両が試作されましたが、それ以後は量産されることはありませんでした。荷役設備を改良することも考えられますが、タキ64000のためだけに設備投資するのは得策ではなかったようで、ガソリン専用タンク車の大型化はこれ以後は途絶え、一般的な車体サイズの中でも最も積載量の大きいタキ43000が重用されるようになりました。
2両だけの試作に終わったタキ64000ですが、そのまま廃車にはならず運用効率が悪いながらも使い続けられました。とはいえ、タキ50000と同様に大型車であるがゆえに稼働率は悪いながらもそれなりに活用はされたようで、臨海部にある製油所と内陸部にある油槽所を結ぶ、生活に直結した「ライフライン」としての役割を果たしました。
1987年の国鉄分割民営化では、多くの物資別適合貨車が整理の対象になって廃車の運命を辿っていきましたが、稼働率が悪いながらもタキ64000は整理の対象になることはなく、同じ大型車のタキ50000とともにJR貨物に車籍が継承されました。
民営化後も稼働率は悪いものの、根岸線根岸駅を常備駅として、日本石油根岸製油所と関東地方を中心とした内陸部の需要地の間を、その持って生まれた大容量を活かして、特に需要が大きい時期に波動用として運用されました。
実際、筆者が根岸駅に作業で出かけると、ガソリン需要の大きい時期にタキ43000やタキ9900などと一緒に、この異様に長い車体をもつタキ64000を見かけたことがあります。タキ43000と同形のタンク体を引き伸ばした形なので、すぐに目に付きわかりやすかったのですが、実際に見たのは数回もなかったです。しかし、記憶にあるというのはそれだけ目立つ存在だったからでしょう。
ガソリン専用タンク車の大容量化は、その後はタキ43000をベースに改良発展していきました。タキ43000の243000番代は積載量を43トンから1トン増しの44トンになりました。たかが1トンと思われるかも知れませんが、ガソリンの1トンは約1333リットルなので、10両編成であれば10トン、約13,330リットルも増加させたことになります。
今日では、さらに1トン増しとして45トン積みのタキ1000が主流になりました。こちらも、タキ43000から改良発展したガソリン専用タンク車ですが、台車を従来のTR214に代えてFT-21を装着することで、最高運転速度を95km/hになりました。専用貨物列車=遅いという常識を破り、高速貨物列車Cとしての運用を可能にしたのです。
タキ43000をベースに改良発展した点では同じでしたが、タキ64000はタンク体を大型化し大容量を狙ったという点で、かなりの野心作といってもいいでしょう。大きいことは良いことだ、大は小を兼ねるという見方もありますが、残念ながらガソリン専用タンク車ではそれがあてはまらなかったようです。しかし、必ずしも失敗作とは言い切れず、その後の改良発展のために大きな礎となったといえるでしょう。
今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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