旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

この1枚から 生涯を常磐線と近隣だけで過ごした交直流機【1】

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 いつも拙筆のブログをお読みいただき、ありがとうございます。

 人の生き方とは色々で、「十人十色」の言葉のように様々です。生まれ育った地から離れることもなく、故郷で一生を送る人もいれば、故郷を離れ遠く彼の地で生計を営む人もいるでしょう。一度は故郷から離れ、遥か遠くで暮らしてみたものの、巡り巡って生まれ故郷に骨を埋める人もおります。

 鉄道車両、特に国鉄形車両はそうした「十人十色」ならぬ、「十両十色」で、経歴もまた形式や車種ごとに様々です。もっとも、JRに移行後の車両たちは、自社の事情に合わせた仕様の車両を製作し、何よりよほどのことがない限りJR会社間での車両の譲渡・譲受はないので、人の生活に当てはめれば「核家族化」のようになってしまいました。

 EF80もまた、国鉄形の電気機関車の中では稀なケースの経歴の持ち主でした。

 交直流両用電気機関車は直流電化と交流電化の両方の線区で走ることができるので、端的に言えば比較的重宝されやすい車両と言えます。保安装置や車両限界、軌道規格など細かいことを度外視すれば、電化された国鉄線上であればどこでも走ることができるのです。

 そうした性能を与えられ、しかも強力なF級機として登場したにもかかわらず、EF80は新製配置されて常磐線で活躍をはじめましたが、全機が廃車になるまでそこから離れることはなかったのです。しかも少数形式ならよくあることかもしれませんが、EF80は全部で63両も製造された「大所帯」の車両です。これだけの数が揃った電機が、他の線区へ進出することがなかったのは、国鉄形電機では例のないことといえます。

 交直流両用電気機関車といえば、最も代表的であるのがEF81だといえるでしょう。基本番代だけでも150両以上、関門トンネル通過用の特殊仕様である300番代や、国鉄分割民営化後のリピートオーダー機である500番代や450番代を加えると、国鉄形交直流機としては一大勢力をもつ形式です。

 そのEF81が登場するよりも前に、本格的に量産された交直流両用電気機関車といえば、EF30とEF80の2つがあるのみでした。歴史が長い直流機はもちろんですが、交流機も次々に開発される新機軸を投じたことで、数多くの形式がありました。しかし、交直流機は構造がさほど大きな変化がない割には、量産機としては3形式と非常に少ないといえます。

 もっとも、国鉄時代の交直流機は、主に直流区間と交流区間を通して走行する運用に限定することを想定していました。といっても、今日の日本海縦貫線のように、大阪から青森までの長距離を1両の機関車がぶっ通しで走るようなことではなく、デッドセクションがある区間を中心に、その前後の駅や操車場、信号場といった極限られた短い区間での運用でした。

 関門トンネル特殊仕様を装備したEF30は、この国鉄の運用方針をもっとも表している例と言えるでしょう。交直流機ではあるものの、客車列車であれば下関ー門司間、貨物列車なら幡生操ー門司操または東小倉間といった短距離だけを担い、あとは別の機関車に付け替えていました。こうした運用であることから、直流区間では出力1,800kWと直流機とほぼ同等の性能でしたが、交流区間ではたったの450kWにまで下がってしまいます。この出力では低速で短い距離を走るのがやっとといった性能でした。

 このように、EF30が交流区間での性能が極端に低くなってしまったのは、そもそもが関門トンネル区間以外で運用することを前提としていなかったためです。幡生操・下関ー門司・門司操・東小倉間で直流と交流のデッドセクション門司駅機構内にあり、客車列車は僅か数百mほどしか交流区間を走りません。貨物列車はもう少し距離が伸びますが、それでも数kmに満たない距離でしかも低速でしか走ることはないので、交流関係の機器も必要最小限で済ますことで、製造コストと重量を抑えたのでした。

 EF30は本格的に量産された交直流機といっても、その運用や性能を見る限りでは、本線用というよりは碓氷峠専用のEF63のような性格を帯びた機関車でした。しかし、交流電化が進展するに連れて、交直の切り替えが手間もコストもかかる地上切替式から車上切替式が採用されることになると、本格的な本線用の交直流機が望まれるようになります。

 1963年から本線用として製造されたEF80は、常磐線用の交直流機として開発されました。常磐線は既に上野ー取手間が直流電化されており、取手以北の電化も進められようとしていました。しかし、取手以北の電化では、石岡にある気象庁地磁気観測所への影響が問題となっていたのです。

 

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碓氷峠鉄道文化むらに保存されているEF80のラスナンバー機である63号機。(EF80 63 碓氷峠鉄道文化むら 筆者撮影)

 

《次回へつづく》

 

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