旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

令和の春に静かに退いていった営団7000系【1】

広告

 いつも拙筆のブログをお読みいただき、ありがとうございます。

 このブログでも、何度かお話してきましたが、当たり前だった光景が気がつくとすっかり様変わりしていた、ということは数多くあるかと思います。

 筆者も、4月の人事異動で東横線沿線にある職場に移り、毎日のように東横線目黒線を走る列車を見ています。本音を言えば、JR線の方がよかったのですが、そうなると仕事も手つかずになってしまうため、今の環境が程よいのかも知れません。

 とはいえ、高速で走り去る列車は、車両がいくら軽量になって騒音が減ったとはいえ、やはりその音は仕事をしていると嫌でも聞こえてくるので、もう少しなんとかならないかなと考えることもしばしばあります。

 さて、その東横線ですが、かつては渋谷と桜木町の間を往来するだけでした。

 高校生だった頃は、毎日通学の足として乗り、就職して貨物会社の鉄道職員となっても、実家から通っていた頃は東横線のお世話になりました。職を変えてシステムエンジニアになり、職場が横浜ランドマークタワーだった頃も、通勤では東横線を利用したこともあり、横浜あたりで飲んだ日には、桜木町発元住吉止まりの急行によく乗ったものです。

 それが、今の職に変わる頃には多摩川園ー日吉間の複々線工事が進められ、元住吉の駅も改築が進められていました。その一方で、筆者が通っていた高校の最寄りである東白楽から横浜方では、みなとみらい線との直通運転に備えた工事が進められ、2005年には横浜−桜木町間を廃止して、直通運転が始められました。開業以来、長らく不変だった東横線も、その姿を一変させるとともに、往来する車両も様変わりしていきます。

 複々線化工事が完成すると、目蒲線を系統分離させて目黒線として日吉まで乗り入れるようになり、同時に営団南北線都営三田線という二つの地下鉄と相互乗り入れが始まり、東急の車両に加えて、営団9000系都営6300形が加わって、昔日の面影がなくなるように、色とりどりの車両が走るようになりました。

 さらに、東京メトロ副都心線との相互乗り入れが始まると、東横線渋谷駅は高架上から地下へと潜り、営団6000系をベースに有楽町線用としてマイナーチェンジした7000系がやってくるようになり、新たに投入された10000系や、副都心線を経て直通運転を実現した東武東上線9000系と50000系、西武池袋線6000系と40000系もやってきて、非常に賑やかな路線になりました。

 この中で、東京メトロ7000系は最古参の車両でした。

 

東横線を疾駆する営団東京メトロ7000系有楽町線用の車両として開発され、登場から長らく新木場ー和光市間と、乗り入れする西武池袋線東武東上線で運用されていたが、副都心線の開業は7000系にとって大きな転換期となったといえる。筆者もそうだが、7000系自身もまさか東急線へ乗り入れて横浜まで顔を出すとは思いもしなかったであろう。そして、南北線用の9000系とも並走するシーンは、すでに過去のものとなってしまった。(7000系30編成 田園調布ー多摩川間 2018年7月11に日 筆者撮影)

 7000系の製造開始は1974年で、同年に開業した有楽町線用の車両として、千代田線で運用していた6000系をもとに設計された車両です。アルミニウム合金の軽量車体で、そのデザインは6000系とほぼ同じであり、前面は運転台窓下を頂点に後方へ折り曲げられた「く」の字形の造形や、先頭車を中間に連結することを考慮しない、運転台窓を大型化して運転士からの視界を確保した割付、さらに非常用の貫通扉には窓ガラスを設置せず、裏面には脱出時に使うためのステップを収納して、非常時には階段として使用するという斬新な構造も、6000系譲りのものでした。

 一方で電装品は6000系から進化していました。

 6000系では従来の抵抗制御ではなく、加速時に消費する電力を効率的に抑え、減速時には電力回生ブレーキを使うことができる、電機子チョッパ制御を採用していました。

 電機子チョッパ制御は半導体素子を使って、主電動機に印加する直流電流を高速でON/OFFをする「スイッチング」と呼ばれる電気制御をする「チョッパ回路」によって、電圧制御をする方法です。

 低圧電流を制御するときに、従来の抵抗制御では主抵抗器を接続して電気エネルギーを熱エネルギーに変換して「捨てていた」のに対し、電機子チョッパ制御では抵抗制御のように「捨てる」ことはなく、スイッチングによって電圧を変えるため低圧時でも無駄のない制御が可能です。加えて抵抗制御では主電動機を発電機として使うことで制動力を得ていますが、この時に発生した電流は主抵抗器に流すことで熱エネルギーとして放出していたのに対し、電機子チョッパ制御では主電動機で発電した電流を集電装置へ流し、電車線(架線)へ戻す電力回生ブレーキを使用できるため、全体としての電力消費量は低く抑えることができます。

 このように、6000系で採用された電機子チョッパ制御は、非常に高効率で省エネ性に優れる反面、幾つかのデメリットももってました。その一つが制御器が非常に高価となることで、これは、制御器に使われる半導体素子が高価であることに起因すると言われています。というのも、電機子チョッパが開発された当時、パワーエレクトロニクスの黎明期でもあり、鉄道車両に使用することができる大電流に対応したものは数少なく、しかも開発間もないことも手伝ってか、電機子チョッパ制御に使う半導体素子であるサイリスタは非常に高価でした。そのため、制御装置全体の製造コストも高くなり、そう簡単に採用できるという代物ではなかったのです。

 それでも、当時の帝都高速度交通営団営団が採用したのは、地下鉄という環境であるため、走行する車両から大量に放出、すなわち捨てられる熱エネルギーによってトンネル内の温度が上昇することが問題となっていたこと、より効率的な経営を実現するためには、車両の消費電力を抑え運用コストを可能な限り軽減することを目指していたため、制御装置の高コストはある程度仕方のないことと考えられていたと思われます。

 高効率で省エネ性を実現できる電機子チョッパ制御は、コスト以外にも問題を抱えていました。半導体素子であるサイリスタは、大電流が流れることによって主抵抗器までには至らないものの、相当発熱してしまいます。サイリスタにとって、それ自体が発熱することは仕方のないことですが、その熱によってサイリスタそのものが破損してしまいます。そのため、サイリスタを冷却する必要がありました。

 一般的に、鉄道車両では電気機器を冷却する方法として、ブロワーによる冷却方式が採用されます。これは、冷却したい機器に送風機で風を当てる方法です。自動車やオートバイのエンジンでいえば、空冷式といえばわかりやすいでしょう。ブロワー冷却は構造が簡単で、冷却装置のコストも比較的安価で済みます。しかし、送風機を使ったブロワー冷却はその構造上、大きな騒音が発生しやすく、地上線であれば問題になりにくいことも、閉鎖された空間に近い地下鉄線では、ブロワーから発生する騒音が問題になっていました。

 そこで、既に国鉄の変電所で使用されていたフロン沸騰冷却を、電機子チョッパ回路の冷却に利用する方法が考えられました。フロンはかつては冷蔵庫やエアコンの冷媒に使われていた物質で、フロンの冷凍能力を利用してサイリスタを含む回路を冷却しようとするものでした。

 このフロン沸騰冷却を実用化したことで、ブロワー冷却のような騒音も解消され、より静粛性に優れた車両になったのです。もっとも、今日では、フロンはオゾン層破壊物質と見做され規制物質に指定されたために、冷蔵庫などの家電製品での利用もできなくなり、電機子チョッパ制御を採用した営団車両に使われた程度と考えられます。

 有楽町線用として製造された7000系は、このように多くの新機軸を投入した6000系にマイナーチェンジを施した車両として、6000系と共通する部分を多くもつものでした。

 一方で、主制御器は6000系電機子チョッパ制御をさらに発展させた、AVF式電機子チョッパ制御と呼ばれるものを採用しました。これは、6000系電機子チョッパ制御では、界磁制御の部分だけは抵抗制御として残っていたため、すべての抵抗器を排除することができませんでした。しかし、7000系のAVF式では、界磁制御の部分についてもチョッパ制御に換えたフルチョッパ制御となり、界磁抵抗器を廃したことですべての抵抗器をなくすことに成功したのです。

 このように、7000系は当時としては数多くの新機軸を採用した、まさに営団の路線に最適化した車両だったのです。

 

《次回へつづく》

 

あわせてお読みいただきたい

 

blog.railroad-traveler.info

blog.railroad-traveler.info

blog.railroad-traveler.info