旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

鉄道車両の冷房装置 出力の肥大化と大都市の気温上昇を考える【1】

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いつも拙筆のブログをお読みいただき、ありがとうございます。

 ブログの原稿を書く中で、「こんなことを書いてみたい」とか「あの車両のことを書こうか」などと思い浮かべたり、構想したりすることがあります。また、一度は書き起こしてみたものの、途中で行き詰まりそのまま筆を置くこともあります。構想で終わってしまったり、書きかけたままお蔵入りしたりするネタはそれなりの数になり、それらを見ると苦笑いしてしまうものです。

 さて、今回はそうした「お蔵入り」していたものの、やはりいつかは書こうと思っていた話題を取り上げたいと思います。

 

 毎年夏が近づくと、今年の夏は酷暑なのか、それとも例年通りの暑さなのかということが話題になります。例年通り?とは何なのかとさえ思うこともあるほど、夏の気温は異常なほどの高さになります。

 今年も異常な暑さが続いています。梅雨も明けきらない6月末には35℃近くまで気温が上がり、屋外での活動は制限どころか中止させられる有り様で、体育の授業を思うように進めることができませんでした。

 このような異常な気温と暑さの原因は諸説あるところで、門外漢でもある筆者は特に何が原因かと言及することはできませんが、やはり地球温暖化と都市部において熱を溜めやすいコンクリートの建築物の極端な増加、そして熱と二酸化炭素を吸収する樹木などの緑地が皆無に近い環境になったことが考えられます。

 そして、もう一つはエアコンの普及も、夏の気温上昇の要因の一つと考えられるでしょう。筆者が子どもの頃の1980年代は、家庭用エアコンは30%台後半でした。エアコンを保有していても、せいぜい1家庭に1台程度、2台も保有していればかなり裕福な家庭といえました。ちなみに、筆者の実家ではこの頃、エアコンなど1台もありません。夏は窓を開け、扇風機を回して暑さを凌ぐのが当たり前で、それ以上のものはありませんでした。もっとも、1980年代の8月の気温はどんなに高くなっても32℃ほど、平均すれば25℃前後と、ここ数年よりも3〜4℃も低かったのです。

 さて、エアコンが都市部における気温上昇の一因であるとお話しましたが、それはエアコンが「熱交換により温度を下げる」という、その機能的なものであると考えます。「熱交換」とは文字通り、熱い空気を冷たい空気と交換することで、室内の熱い空気を取り込んで、冷媒を通して冷やした空気に交換し、それを吹出口から送り出すことで温度を下げています。この冷媒で冷やす際に、当然ですが熱が生じます。その熱は不要なものなので室外機から排出されていきます。室外機のそばに立っていると、熱せられた空気が出てくるあの現象なのです。

 

冷房装置が今日のように一般的でなかった頃、夏季に暑さを凌ぐためには、窓を開けて扇風機を使うことが唯一の手立てだった。1980〜1990年代の夏季の平均気温は、現在よりも2〜5℃も低かったので、この方法でも何とかなっていたが、やはり冷房装置があると桁違いに快適だった。写真は国鉄111系非冷房車に装備されていた扇風機。真ん中に「JNR」のロゴが入っている。(クハ111−1 リニア・鉄道館収蔵 2022年8月3日 

 

 このようなメカニズムでエアコンが室内の空気を冷やす反面、不要になった熱を持った空気は外部に放出されるので、室外機の数が多ければ多いほど、すなわちエアコンの台数が増えれば増えるほど、熱をもった空気が排出されるので、そのあたりの気温は当然上がってしまいます。言い換えれば、都市部ではこのようなことがあちらこちらで行われており、それを吸収する樹木などが皆無で、しかも熱を吸収すると放出しにくいコンクリートの建造物が多いので、ヒートアイランド現象に代表されるように夏季の気温が上昇するのも当然の帰結と考えられるのです。

 

 ところで、鉄道車両も1980年代以降、冷房化率が急速に高まっていきました。夏季における接客サービスの向上を目的に、優等列車で運用される車両を中心に冷房化が進められていましたが、それは通勤通学輸送に使われる通勤形電車なども冷房化することで、サービス向上とされてきたのです。

 また、当時の世論も、冷房化率という数字で鉄道事業者のサービスを見ていました。特に1980年代後半のバブル経済のもと、「利用者が満足するサービスを提供するのは、鉄道事業者としては当然のこと。非冷房の暑い列車を運行するのけしからん」とさえ考えられていました。そのため、毎年発表される各鉄道事業者の冷房化率の数値を見て、冷房化率の高い鉄道事業者はサービス改善に力を入れ、その逆の鉄道事業者は顧客(利用客)を軽視しているとさえ考えられていました。

 当然、このような数字が毎年のように発表され、自社のサービス改善の取り組みを、まるで学校の成績のように発表される鉄道事業者にとってはたまったものではなかったでしょう。1960年代に製造した車両も数多く運用されていた当時、それらは非冷房であるのは当然のことでした。新車であれば冷房装置を装備して運用に就かせることもできましたが、古い車両は冷房化改造を施すか、それともそのような車両を廃車にして新車を導入するしかなかったのです。

 さて、その冷房装置ですが、年々、非常に強力なものになっているのをご存知でしょうか。1980年代頃までに導入された鉄道車両用の冷房装置と比べて、今日新製される車両に搭載される冷房装置は非常に強力になり、集中式の装置でも50,000kcal/hを軽く超えるものまで出てきました。

 

《次回へつづく》

 

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