旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

学校の児童生徒だけが乗る「専用列車」 思い出とともに走った修学旅行用電車たち【4】

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《前回からのつづき》

 

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■155系の成功を受けて増備された159系

 世界的にみても、修学旅行という利用者が中高生と限定された前代未聞の設計で登場した155系は、資金の調達から車両の設計開発、そして製造、実際の運用に至るまで、実に多くの人の努力によって登場しました。

 限られた予算の中で、1両あたりの定員100人を以上確保するという難題に、座席を2人掛けと3人掛けとするなど、特異な設備をもつことになった155系は、教育関係者や保護者はもちろん、運用を担う国鉄関係者からも非常に好評を得ました。

 この155系は、東京と関西の教育関係者からの熱心な要望を受けて開発製造された車両であり、東京側からは品川−京都間の「ひので」として、関西側からは明石−品川間の「きぼう」として運行されました。

 こうした修学旅行専用の車両による集約臨の成功は、中京地区の教育関係者にも伝わり、同様の専用車両による列車の運行を希望する声が高まり、愛知・岐阜・三重の各県が利用債を引き受けることで新たな専用車両として設計製造されたのが159系です。

 159系は当初、1960年に新製される予定でした。しかし、前年の1959年に名古屋を中心として中京地区に未曾有の被害をもたらした伊勢湾台風によって、利用祭の引く怪我1年延ばされたため、159系の登場も1年遅れの1961年となってしまいました。

 基本的な構造は153系を基本とした155系と同じで、車体は低屋根構造として狭小トンネルにも入線可能としました。また、集約臨の運行の特徴である発駅から着駅の間は客扱いしないので、乗降用扉も700mmと狭くとり、デッキ側に向いた小型の洗面所2箇所と飲料水タンク、大型のゴミ箱を設置するなど、乗車する生徒の利便性を高めた設備も155系と同じでした。

 一方、中京地区からの修学旅行に出かける生徒は、首都圏や関西地区よりもその人数が少ないことや、集約臨としての運行期間が短く生徒の利用頻度も少ないことから、波動輸送用の予備車として臨時列車に充てることを考慮し、155系の最大の特徴であった2人掛けと3人掛け座席ではなく、153系と同じ2人掛け座席のみを設置したため、車内の見取りは153系と変わらないものになりました。

 また、運用する地域も東海道本線関ケ原米原間のように降雪地帯での運行も想定されるため、155系で採用されたグローブ式ベンチレーターではなく、押し込み式ベンチレーターを装備しました。

 1961年に落成した159系は、さっそく東京・品川−大垣間の集約臨「こまどり」として運行を開始し、8両編成を基本に多い時には12両編成を組んで、中京地区の中高生を乗せて修学旅行の交通手段としての役割を担いました。また、中京地区から中国地方を往復する「わかあゆ」も設定され、シーズンにもなると検査時以外は休むことなく走り続けることになります。

 

修学旅行の需要が新幹線へ移転していくと、155・159系は湘南色に塗り替えられ、153系と同等の設備に改修されて、波動用として運用された。狭小トンネルのある線区での運用を考慮して低屋根構造としたため、湘南色になると先頭車前面上部は角張った印象を与えていた。(©栗原 岳 (Gaku Kurihara), CC BY-SA 4.0, 出典:ウィキメディア・コモンズ)

 

 修学旅行シーズン以外の閑散期には、一般の波動輸送用としても活躍し、準急列車や急行列車の運用にも入るなど、153系とほぼ同じ設備を備えていることから、併結されて運行する姿も見せたようです。

 やがて、修学旅行の新幹線移転によりその任を失ったあとは、155系と同様に車体を湘南色に塗り替えて、153系や165系と共通運用が組まれましたが、飲料水タンクなどはそのまま存置されるなど、155系のような大きな改造を受けることなく一般の運用に就いていたのが特色でした。

 1979年に京阪神地区の新快速に117系が新製投入されると、それまで新快速の運用に充てられていた冷房化された153系が大垣電車区に配置転換されてきました。その玉突きで、非冷房のままだった159系はすべての運用を失い、1980年に全車が廃車、廃系列となっていきます。1961年の新製から19年目のことで、修学旅行用に設計製造された国鉄電車としては、最も短命だったといえます。

 もっとも、走行距離が長い運用に多く充てられていたため、153系と同様に老朽化の進行は早かったので、この時期の廃車はやむを得ないともいえます。歴史に「もしも」は禁物ですが、冷房化されていたのならば、もう少し寿命を永らえていたかも知れません。

 

《次回へつづく》

 

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