旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

新幹線の「守護神」という役割をもった高速ディーゼル機・新幹線911形ディーゼル機関車【1】

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 いつも拙筆のブログをお読みいただき、ありがとうございます。

 「東海道新幹線60周年に寄せて」の記事を書いている中で、新幹線といえば多くの人があの洗練されたスタイルと、高速で走り快適な電車たちを思い浮かべるであろうと思いました。

 しかし、このブログでも何度もお話してきたように、鉄道とは車両やその運行に関わる運転系統の職員だけでは動かすことができず、それを整備し検査をする検修系統の職員や、利用するお客様に乗車券などを販売したり案内をしたりする営業系統の職員、そして、鉄道の根本である線路などの施設を維持管理する保線系統と、安全かつ確実な運行を実現する信号保安設備や、駅や電車に電源を供給する電力設備を万全の状態に保つ電気系統に携わる「見えない部分」で安全輸送を支える職員たちがいてこそのもので、巨大なシステムであるといえます。

 新幹線において、線路や信号保安設備、電車線設備といった施設類を維持するために、それらの状態を検査することを担うドクターイエローと呼ばれる試験車両の存在は多くの人が知るところでしょう。「見ることができれば幸せになる」とさえ言われる希少な存在ですが、安全輸送を実現するために重要なポジションを守っていることは間違いありません。

 ところで、このドクターイエローのほかにも、新幹線には裏方を守る数々の車両があったことは、あまり知られていないことと思われます。

 新幹線にはディーゼル機関車が存在した、なんて話をすると、おそらく多くの人は「え、そんなのあったの?」と驚かれると思います。東海道新幹線が開業した当初は、世界でも類を見ない200km/hを超える速さで列車を運行することを常としたため、国鉄は幾重もの安全対策と、異常時に対する備えを充実させていました。

 営業列車は車両故障などを起こし、その運行が止まるということは基本的にはありません。また、信号保安設備や電力設備も同じで、それらが不具合を起こして輸送障害を引き起こしてはならないものだというのが、鉄道の世界では常識だと考えられています。

 とはいえ、それは人間のすること。時として車両や施設が不具合を起こしてしまうことは有り得る話で、そうしたときにいかに早く復旧をするか備えておく必要があります。特に新幹線は在来線と比べて駅間距離が長く、しかも列車が停止してしまったときに、乗客をすぐに降ろして退避させるときに道路などに出ることができないため、そのようなときの救援手段を確保する必要があると考えられました。

 そこで、車両に事故があったときに、可能な限り速くそれを現場から取り除くとともに、乗車している乗客をすみやかに近くの駅へと退避させることを目的に、国鉄は救援用の機関車を開発し、それを待機させることにしたのです。

 救援用の機関車は、停電時にも走行することができることを前提に、ディーゼル機関車としました。

 

1基あたり1000PS(改良型では1100PS)という出力を誇るDML61系エンジンを搭載したDD51形は、非電化区間における蒸機の置き換えを進め無煙化と動力近代化を達成する立役者だった。同時に本線用としてはもちろん、緊急時における救援列車としてもその性能は期待されていた。新幹線においても在来線で長年培ってきた経験と技術をもとに、列車が自力走行することが不能に陥ったときに、ディーゼル機関車による救援列車を仕立てることが考えられた。(DD51 853【愛】 四日市駅 2005年8月1日 筆者撮影)

 

 ディーゼル機関車と一言にいっても、在来線と新幹線ではまったく異なるシステムを採用しているので、在来線のディーゼル機関車標準軌に変えただけでは不十分でした。在来線で使われているディーゼル機関車は、もっとも大出力の性能を備えているのはDD51形でしたが、最高運転速度は95km/h、0km/hかた列車を引き出すときの最大引張力は16800kgfです。これでも、16両編成の新幹線車両を引き出すことはできなくもないかも知れませんが、やはりパワー不足は否めません。加えて新幹線の線路上を走行するためには、95km/hではその足の遅さも問題だといえます。いち早く救援を必要としている列車のもとへ駆けつけるためには、相応の速度性能が欠かせません。

 1964年に製造された911形は、最高運転速度160km/hで走行できる性能をもちました。これは、日本のディーゼル機関車としては驚異的な速さでした。また、山陽新幹線の開業前に行った試験走行では、165km/hをマークするという世界最速のディーゼル機でもあったのです。

 

《次回へつづく》

 

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