旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

続々・悲運のハイパワー機 重連を単機で担うことを狙った「ガンメタ」のメーカー借入機 ED500形【2】

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《前回からのつづき》

 

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 車両メーカーが独自に設計開発し、自費で製造した車両を国内外の鉄道事業者へ売り込もうと目論見、国鉄へ貸し出しするという大盤振る舞いは、技術の発展にこそ寄与したものの、それが商業的に結びついた例は少数でした。とはいえ、日本のディーゼル機製造技術はこのことによって大きく進歩したという点においては、成功したともいえるでしょう。

 その後、国鉄は機関車用のDMF31系を開発してDD13形を、後にはDML61系を搭載したDD51形やDE10形を量産し、国産エンジンを搭載した国産ディーゼル機を量産し、これ以後はメーカーが独自開発した車両を借入れることはなくなりました。国産エンジンの実用化と量産が軌道に乗ったことや、何より本命であった液体式ディーゼル機関車が安定した成果をあげることができたからだといえるでしょう。また、メーカー側としても国鉄自身が国産エンジンや変速機の技術を確立したことで、海外メーカーとの煩雑な手続きなどをする必要性も薄れたことや、自費で開発した機関車を売り込むことも難しくなったことなどから、このような手法はコストに見合わないということになったのでしょう。

 こうして、メーカーからの借入による試作車両の実用試験は途絶えることになります。

 1987年に国鉄が分割民営化されるまで、国鉄の機関車は確立して安定した、信頼性の高い技術を使った機器類が使われていました。こう書くと聞こえはよく感じられますが、意地悪な言い方をすれば、使い古された時代遅れのものを、効率性やコストを度外視した画一的な機器を使っている、という言い方もできるでしょう。

 もっとも、この画一的で実績のある信頼性の高い、「使い込まれた古い技術」の機器類を使い続けたことは、国鉄として避けて通れないものでした。全国津々浦々に路線網を張り巡らせていた国鉄にとって、そこで運用する車両は必要ならば全国規模での配置転換をすることも想定されていたので、標準化された機器類や車両でなければならなかったのです。

 ところが、分割民営化によってその原則は大きく変えられました。

 旅客会社は地域ごとに6社に分割されました。そのため、民営化後に開発されていく新型車両は、会社の事情や地域の特性に合わせたものに分化していき、同じ一般形車両でも東日本は20m級4扉・ロングシート車が主力であるのに対し、西日本は20m級3扉・転換クロスシート車が主力になるなど、大きな違いが出るようになったのです。

 他方、貨物会社は全国で1社のみですが、国鉄から継承した機関車は客車列車も貨物列車も両方牽くことができるものでした。しかし、貨物会社は客車列車を牽く必要がないので、旅客会社と同様に自社の事情に合わせた機関車をつくることができるようになります。その一つとして、1600トン列車構想に基づき、超重量級列車を牽く性能をもたせたハイパワー機であるEF200形とEF500形の開発をすることにしました。

 

国鉄形電機は長らく抵抗バーニア制御を採用し続けてきた。これは、確立され安定したものであり、構造も簡単で信頼性も高く製造コストも抑えることができ、何より乗務する機関士や、検修を担う車両技術者が慣れているという理由もあった。そうしたこともあって、製造から40年以上経っても重量列車を牽くことにも耐えうる、頑強な車両だといえる。しかし、抵抗バーニア制御はエネルギー効率が悪く、今日のVVVFインバータ制御と比べると運用コストは高くなってしまう。民営後、JR貨物はより高率に優れ、よりパワーのある新型電機を求めるようになったのも時代の流れだといえる。(EF65 2074〔新〕 新鶴見信号場 2021年6月15日 筆者撮影)

 

 従来の国鉄型電機は抵抗制御で、その回路構成は簡単なものであり、長年に渡って使い続けられてきたので、運用面でも保守面でも信頼性の高いものでした。しかし、出力の面では限界があるとともに、主抵抗器で電気エネルギーを熱エネルギーに変換して電圧制御をする特性上、エネルギー効率がよいものではありませんでした。

 EF200形とEF500形が開発され始めた1980年代終わりごろは、電車はすでに抵抗制御から界磁添加励磁制御界磁チョッパ制御、電機子チョッパ制御といったエネルギー効率の高い制御方式が普及し、さらには交流電動機を使ったVVVFインバータ制御も実用化されていました。

 そこで、JR貨物VVVFインバータ制御を採用し、効率性の高いかご形三相誘導電動機を主電動機とし、出力も6000kWという世界でも類を見ない大出力電機を開発し、1600トン列車の実現に向けて動き出しました。

 しかし、機関車自体の出力は目標の6000kWを達成することができましたが、コレを実用化するためには様々な問題があることがわかります。VVVFインバータ制御の特性として、主回路からは電磁波が放出されるため、信号機器などの保安装置に対しての誘導障害が発生してしまいます。また、EF200形やEF500形が最大出力を出そうとすると、地上の変電設備がこれに追いつくことができないため、架線電流の電圧降下が頻発することがわかりました。そのため、線路や電力設備、信号保安設備などの地上施設を保有・管理する旅客会社からは、このような大出力機を使われてしまっては困るといった「苦情」も寄せられるようになります。

 JR貨物としては、ダイヤ編成はすべて旅客会社に握られてしまっているため、数少ない貨物列車のダイヤを可能な限り活用し、少しでも多くの貨物を輸送するために1600トン列車構想と、これに対応する大出力電機を開発したのですが、こうなってしまうとこれらの実現は難しくなってしまいました。

 

国鉄形交流電機の場合、直流機とは違って抵抗バーニア制御が使えない。代わりに、変圧器のタップを切り替えることで電圧制御をするタップ制御や、後にサイリスタ位相制御を採用していた。これらは交流電流のみに使える方法であるが、直流機同様に構成は簡単であるが信頼性が高いことで、比較的長い間使われ続けていた。(出典:写真AC)

 

 結局、地上設備の改良と変電設備の増強は国庫補助による工事として実施され、EF200形はなんとか量産に漕ぎ着けることができたものの、その数はたった20両(試作車である901号機を入れて21両)と、巨額の開発費を投じた割には少数となってしまい、しかもフルパワーでの運転はその終焉まで叶うことなく、ずば抜けた性能を発揮することはありませんでした。

 一方で、交直流機であるEF500形は誘導障害を解決することができず、また置き換えを想定していた東北本線で運用されていたED75重連や、日本海縦貫線のEF81形に対して過剰性能であることが災いし、量産化は見送られてしまうことになりました。

 筆者が鉄道職員時代、とにかく電気設備や線路施設の老朽化が進んでいたため、安全で安定した輸送を確保するために様々なところを修繕する必要があったのですが、そうしたところへの予算配分は非常に少なかったため、「使い物にならない機関車に金をかけるくらいなら、こっちへ回してくれよ」という声があちこちできかれたほどでしたが、会社としてはこの最新鋭機に対する期待が大きかったといえるでしょう。

 そうした中、新鶴見機関区にまたぞろ新たな試作機関車がやってきたのです。

 VVVFインバーター制御を採用したハイテク機関車は、EF200形が日立製作所製で、EF500形が川崎重工三菱電機のコンビによる製造でした。その中に割って入るようにやってきたのは、交直流D級機となるED500形だったのです。

 

《次回へつづく》

 

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