旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

異色のロマンスカー 乗務員まるごと国鉄線へ乗り入れた「あさぎり」【6】

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《前回からのつづき》

 

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 耐用年数を大幅に超えて「あさぎり」として走り続けた3000形SE車は、1987年になってようやくその役割を終え始めるようになりました。3011号✕5連が運用から外されて廃車となり、残る4編成で「あさぎり」を運行し続けました。

 この1987年は国鉄が分割民営化された年で、御殿場線JR東海に継承されたことで、乗り入れ相手となる鉄道事業者も代わりました。これを契機とし、耐用年数を大幅に超え、修繕や更新工事を受けながら老骨にムチを打って走り続けてきた3000形SE車も、ようやく「あさぎり」の座を後継車に譲る機運が高まってきたのでした。

 小田急JR東海に対して、長年「あさぎり」で運用してきた3000形SE車を置き換えることを申し入れます。JR東海も、「あさぎり」に新型車を導入することを承諾し、それとともにそれまでは小田急からの片乗り入れだったのを、JR東海も車両を用意して相互直通運転にするとともに、終点を沼津駅として西伊豆の観光開発とも連動して、富士南麓だけでなく駿東への観光輸送の役割を持てせることになりました。

 1991年に小田急の懸案でもあった3000形SE車の代替として、20000形RSE車が新たにつくられました。同時にJR東海小田急乗り入れ用として371系を製造、それぞれ「あさぎり」の運用に投入されました。これと同時に、小田急線内は連絡急行として、御殿場線内は急行としてしていたのを、それぞれ特急へと格上げされ、運転区間も御殿場から沼津へと延長されました。

 本来であれば10年ほどで耐用年数を迎え、その役割を終えるはずだった3000形SE車は、実に35年と想定をはるかに超える長きにわたる活躍の後、ようやくここに後継となる20000形RSE車と、新たにJR東海から乗り入れる371系に引き継ぐことができたのでした。

 「あさぎり」のバトンを3000形SE車から引き継いだ20000形RSE車と371系は、小田急JR東海との間に結ばれた協定に基づいて、基本使用は同一になるように設計されました。とはいっても、電装品はそれぞれの会社の事情などもあって、全く同じということにはなりませんでした。

 

長らく3000形SSE車によって運転されてきた「あさぎり」は、国鉄の分割民営化によってようやく車両更新をすることが可能になった。御殿場線を継承したJR東海は、小田急による車両の更新を承諾しただけでなく、相互乗り入れの形にすることで、東京圏からの利用客を取り込むことをねらった。小田急は20000形RSE車を、JR東海371系をそれぞれ用意し、「あさぎり」として運行するようになる。JRの車両が私鉄、それも大手私鉄の路線に乗り入れる例はあまりなく、民営化による体質の変化の表れの一つといえる。(パブリックドメイン

 

 例えば、20000形RSE車の制御方式は電動カム軸式の抵抗制御であるのに対し、371系界磁添加励磁制御が採用されました。そのため、20000形RSE車は発電ブレーキ併用の電気指令式電磁直通ブレーキを装備し、371系界磁添加励磁制御の強みを活かした回生ブレーキを併用した電気指令式空気ブレーキを装備したため、微妙に異なるものでした。

 このことは主電動機にも同じことがいえ、20000形RSE車は出力140kWを出す東洋電機TDK-8420-A形と、三菱電機MB-3262-Aを併用する形で搭載していました。

 他方、371系は出力120kWのC-MT61A 形とC-MT64A形を搭載しました。MT61形とMT64形はどちらも国鉄時代に界磁添加励磁制御を採用した電車用として開発された主電動機で、前者は205系に、後者は213系に搭載されて実績のあるものでした。JR東海にとってはMT61形は211系にも搭載され、さらに関西本線名古屋口で運用していた165系置き換え用として213系を導入していたので、現場では使い慣れているとともに、整備にも慣れた電装品だったのです。

 車両の走行性能と乗り心地を左右する台車も、それぞれの会社の事情を反映させたものでした。20000形RSE車はロマンスカー伝統のアルストムリンク式空気ばね台である、住友金属製(→新日鉄住金→日本製鉄)FS546(電動台車)とFS056(付随台車)が装着されました。371系はやはり既に多くが使われ実績のあるDT50形を基本に発展させた、ボルスタレス式空気ばね台車のC-DT59形とC-TR-243形が装着されました。

 このように、基本仕様は同じとしながらも、制御方式や主電動機、そして台車も異なっていましたが、走行性能はできる限り同一になるように揃えられました。20000形RSE車は設計最高運転速度こそ140k/hですが、最高速度は120km/hと高速性能をもたせた設計でした。371系は設計最高運転速度は145km/hとさらに速く走行できる設計となっていましたが、いずれも沼津駅以西の東海道本線への乗り入れを見越したものだったといわれてます。他方、実際の運用で重視される起動加速度は2.0km/h/s、常用減速度は4,0km/h/sと揃えられており、ダイヤ編成をする上で異なるこれら2つの車両が共通して運用に充てても問題がないようにされていました。

 

《次回へつづく》

 

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