旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

国鉄の置き土産~新会社へ遺産として残した最後の国鉄形~ 北海道と四国、異なる地で走り続けるステンレス製気動車・キハ54形【2】

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《前回からのつづき》

 

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 地方のローカル線の多くは、沿線の人口が少ない過疎地域であり、そこに走る鉄道は輸送量が低いため、設備投資の大きい電化工事がされることなく、非電化の路線が数多くあります。特に北海道や四国、九州ではその割合が多いため、国鉄時代から数多くの気動車が運用されてきました。

 国鉄分割民営化によって設立されることになったJR北海道JR四国、そしてJR九州は、これらのローカル線を継承するとともに、国鉄気動車を数多く引き継いで列車の運行をすることになります。

 しかし、この国鉄から引き継ぐことになっていた気動車の多くは、1960年代に設計・製造されたキハ20系やキハ45系、そしてキハ58系であり、1987年の時点で既に20年以上が経っていた古いものばかりでした。そのため、遅かれ早かれ老朽化による取り替えは避けて通ることができないため、できる限り新型気動車をつくっておいて、これを継承させようと考えられたのでした。

 分割民営化を目前に控えた1986年に、新たな気動車がいくつか製造されます。その中の一つであるキハ54形は、新会社が継承することになっているローカル線の実態に合わせた設計とするとともに、可能な限り長期にわたって運用ができることに配慮したものでした。

 キハ54形はその形式名が示すように、エンジンを2基搭載したいわゆる「強力型」とよばれるものでした。過去にはキハ20系の一員であるキハ52形や、キハ45系のキハ53形がありましたがこれらは少数派でもあり、主に普通列車に使われることを前提とした一般形気動車の多くは、エンジンを1基搭載した車両を標準型とし、その派生として2エンジン車を設定していました。しかしキハ54形は最初から2エンジン車を基本として、1エンジン車はつくられませんでした。

 

勾配を多く抱える非電化路線では強力な気動車が求められたが、搭載する国鉄制式のDMH17系エンジンはその出力の低さが悩みの種だった。そのため、これらの路線に対応するためにエンジンを2基搭載したキハ52形やキハ53形、急行形としてキハ58形などがつくられ運用に充てられた。しかし、普通列車に使うキハ52形などはその数が少ないため、分割民営化後に経営基盤が脆弱な新会社に継承させることができる車両が課題の一つとなっていた。(キハ52 125〔いすみ鉄道 ex 金トヤ〕2013年6月30日 上総中野駅 筆者撮影)

 

 キハ54形を継承するのはJR北海道JR四国が想定されていました。

 これは、JR北海道は冬季に多くの雪が降り積もる気象的な特徴があり、積雪時には普通列車自体が簡単な除雪をすることが前提となっていました。しかし、エンジンを1基搭載したキハ22形やキハ40形はいずれもエンジン出力が非力(前者はDMH17C形 出力180PS、後者はDMF15HSA形 出力220PS)であるために、積雪の多い冬季には列車の出力を確保する必要から2両編成を組んでの運用を強いられていました。しかし、輸送量の低い路線で2両編成を組んだ列車を運行することは不経済であり、国鉄でも問題になってはいたものの、余剰となったキハ56形を両運転台に改造したキハ53形500番台を数両つくっただけで、根本的な解決にはなっていませんでした。

 こうした北海道特有の事情とは別に、1988年に本四備讃線、いわゆる瀬戸大橋線が開業するまで、四国は全線が非電化でした。四国も北海道と同様に人口が密集する大都市がなく輸送量も非常に低いため、1両編成の列車でも十分な輸送力となる路線がありました。しかし、四国の中央に立ちはだかる四国山地を越える土讃本線や、予讃本線でも有数の難所とされる法華津峠など、急勾配を抱える路線があるため、地域輸送を担う列車には輸送量から1両編成が最適であったにもかかわらず、キハ20系1両編成では出力不足であり、高出力を出すことができるのは急行形気動車しかないため、2両編成を組まざるを得ないという状態でした。

 このような北海道と四国の輸送事情から、1両編成でも運行可能な両運転台構造をもち、高出力を出すことができる2エンジン車は欠かすことができないと国鉄は考え、新たなエンジン2基を搭載した高出力気動車が開発されたのです。

 

《次回へつづく》

 

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