旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

ダイヤモンドカットよ永遠に 東急電鉄7200系【3】

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《前回からのつづき》

 

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 1967年に登場した7200系は、東急電鉄として2番目のオールステンレス車でした。

 7200系では、7000系のような全電動車ではなく、電動車と付随車の比率を1:1とすることで経済性を重視した設計としました。これを実現させるためには、7000系の設計をそのまま流用することはできません。

 これを実現させるためには、主電動機の出力を上げることが前提でした。7200系では、主電動機に東洋電機製のTDK-841-A形と、日立製のHS-833形を搭載しました。この主電動機は1基あたり110kWと7000系と比べて、前者では50kW、後者では40kWも強化することができました。

 これによって、例えば4両編成の場合、7000系では編成出力が東洋車が960kW、日立車が1,120kWであったのが、7,200系では電動車と付随車がそれぞれ2両ずつの1:1とした場合、編成出力は880kWになります。編成出力だけで見ると、7200系は7000系日立車と比べて240kWも低くなりますが、地上線で使うことを前提としていたため、起動加速度は7000系の4.0km/h/sであるのに対し、そこまでの加速力を求めないことからMT比を1:1で2.5km/h/s、2:1で2.8km/h/s、3:1では3.2km/h/sとし、最高運転速度も100km/hに設定するなど、割り切った性能としたのでした。

 制御方式は7000系と同じ抵抗制御で、主制御器は電動カム軸式で日立車はMMC-HTR-10B形、東洋車はACRF-H4110-764A形で、いずれも弱め界磁と回生制動では界磁調整器による超多段制御を採用しました。そのため、国鉄形電車のように進段するごとに起きるショックが少なく、きめ細かな電圧制御ができることから、主抵抗器で熱エネルギーに変換して捨てる電気エネルギーを極力減らして、効率性を高めることを可能にしました。

 ブレーキ装置は7000系と同じ、回生ブレーキ併用の電磁直通ブレーキを装備しました。回生ブレーキを使うことで、制動時に主電動機で発電した電流を架線に戻すことができるため、全体の電力消費量を抑えることができ、経済性をより高めることを実現させました。

 7200系の車体は、その大きな特徴の一つといえるでしょう。台枠、構体、そして車体外版のほとんどをステンレス鋼でつくられたのは、先代の7000系と同じでした。その一方で、7000系の設計にあたっては技術提携をしたアメリカのバッド社の指導のもとで行われたため、その断面はいかにもアメリカらしい合理性を追求したものであり、特に屋根部分の曲線は、単一の半径を用いた特徴のあるものでした。

 7200系では車両のデザイン性を重視する日本らしいものに改められ、幕板部と天井部ではそれぞれ半径を異なるものとし、製造時の工数を極力減らした7000系のものとは違う、曲線美を取り入れたものになりました。

 

蒲田駅に到着する目蒲線の7200系。1987年の撮影で、この頃は前面に警戒色となる赤帯は巻いていなかった。方向幕は自動化されたため、登場時の白地・黒文字ではなく、黒字・白文字のものになっている。当時の目蒲線と池上線は戦前製のデハ3000系が活躍していた時代で、冷房車である7200系は貴重な存在だった。特に夏季は、乗客にとって銀色に輝く7200系がやってくると、冷房で冷やされた快適な車両に乗れると、その幸運に喜んだに違いない。その後、1990年代に入るまでに7000系を改造した7700系が入ってくると、吊り掛け駆動の3000系は淘汰されていき、間もなく冷房化100%を達成した。(クハ7551✕3連 蒲田駅 1987年5月 筆者撮影)

 

 車体外板と構体の溶接には、7000系の製造時にバッド社から提供されたスポット溶接が用いられました。しかし、この溶接方法では薄い外板に歪みを生じさせてしまうため、それを目に触れることがないように同じステンレス鋼でつくられたコルゲート板を取り付けました。この方法は、1960年代から1980年代初めまでにつくられたステンレス車に共通する特徴であり、後に溶接技術が向上すると強度を保たせるためのビートに取って代われれ、現在ではレーザー溶接が主体となったことで歪みのない溶接技術が確立されたことから、コルゲートだけでなくビートも入れられることはなくなりました。そして、7200系では客室窓の下から裾部までと、窓上から雨樋部までをコルゲート版で覆っていました。

 客室窓は、7000系では上段下降・下段上昇のサッシ窓が使われていましたが、7200系では車体のほとんどを腐食の心配がないステンレス鋼を使ったことから、1段下降式窓が採用され、スッキリとした外観と窓を開けたときに窓枠の上部から開くことになるため、座席に座る乗客に風が直接当たらないようになりました。

 7200系は、東横線田園都市線だけでなく、支線格となる目蒲線と池上線での運用も想定されていました。東横線田園都市線は車両限界が広めに取られていたため、7000系は全幅が2,800mmでしたが、目蒲線と池上線はそれよりも狭い建築限界でした。そこで、地方鉄道定規に収まるように全幅は2,744mmと56mm小さくなったため、天井部が高くなったこととも相まって、どちらかというと細身に見えるものでした。

 車体の前面は、他に類を見ない7200系の大きな特徴の一つといえます。天地方向に「く」の字形に傾斜が浸かられ、枕木方向には折妻形とし、中央の貫通扉の部分は垂直で平面にされた5面の形状は「ダイヤモンドカット」とも呼ばれるものでした。貫通扉は僅かに凹ませた部分に設置され、連結時には幌を伸ばして設置しました。

 東急の車両はどちらかというと実用本位で、極力製作時の工数を減らして製造コストを抑える傾向にありました。これは、特に7200系の次に登場する20m級大型車である8000系以降に顕著に見られるもので、当時、設計に携わった技術者は経営陣から「切妻以外考えるな」といわれたほどで、曲線などを取り入れるようなデザインは極力排除し、高いコスト意識のもとで、実用性が高く製造コストを減らし、鉄道の収益率を可能な限り確保する経営姿勢の表れだったと考えられます。

 そうした東急の車両に対する設計思想の中で、7200系のようなデザインは異例ともいえるでしょう。もっとも、8000系が登場するよりも前の車両なので、前述のように「切妻以外考えるな」といわれることもなかったので、こうした鉄道車両ではあまり例のないデザインを実現させたのでした。もっとも、これだけ凝った作りになると、工数も多くなり自ずと製造コストも高くなるので、このことから8000系以降は切妻のみを採用するようになったと考えられるのです。

 

《次回へつづく》

 

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