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以前は休日になると家族を乗せてマイカーで出かけることが多かったのですが、2年ほど前から今の職場に移ってからは車通勤になったことで、運転をする機会が極端に多くなってしまいました。ガソリン高騰などをはじめ、物価が留まることを知らずに上がる一方の現在では、できれば車通勤は控えたいところのなのですが、筆者の自宅から職場までは路線バスを乗り継ぐことでしか行くことはできず、しかも40分から1時間の通勤時間では、娘の学童へのお迎えが遅くなるため、やむなく続けているところです。
さて、そんな車通勤で運転をしていると、いろいろな車に出会います。中でも気になるのが「精密機械輸送中・エアサス車」というステッカーを貼り付けた大型トラックです。エアサス=エアー・サスペンションを装備したトラックということで、このようなステッカーをバンボディーの部分に貼り付けているのですが、こうしたトラックはある意味「特殊仕様」だったといえます。
そもそもトラックは大量かつ重量のある貨物を運送するための車であり、乗用車と比べて強固な作りである必要があります。そのため、車の「基礎」となるシャシーは、乗用車のようなモノコックではなく、四輪駆動車と同様にラダーフレームを使っています。そこにフロント部分にエンジンやそれに付随する機器を載せ、エンジンから伸びたクランクシャフトが後輪軸に接続されて動力が伝えられてます。
この輪軸を支えながらフレームと接続されるのがサスペンションであり、ほとんどのトラックは構造が簡便であり、低コストながらも頑丈なリーフサスペンションが採用されています。いわゆる「板バネ」であり、同様の板バネをを使った鉄道車両としては、二軸貨車がこれにあたるでしょう。
ところが、この構造も簡単で低コストでしかも頑丈と、トラック用としては理想的なサスペンションも、残念ながら弱点を抱えています。その一つが揺れが大きく振動が強いということです。もっとも、トラックに乗せる殆どの貨物はそうした揺れと振動を気にする必要のない物なので、さしたる問題にはなりませんが、貨物の中にはそれらに弱いものもありました。
例えば楽器のピアノがそれに当たります。電子ピアノのように電子的に音を出すものは除きますが、グランドピアノやップライトピアノのように、ピアノ線でつくった弦を張ったものは、ちょっとした衝撃で音が狂ってしまいます。そのため、輸送するときには非常に神経を使う貨物の一つで、運送に使うトラックは積荷となるピアノに与える衝撃を最小限に抑えるために、揺れと振動が少ないサスペンションであるエアー・サスペンションを装備したトラックが使われているのです。
他方、鉄道車両はどうでしょうか。
鉄道で多くの貨物を輸送するのは貨車の役目です。国鉄時代は輸送する貨物の形態などにあわせた物資別適合輸送だったため、様々な種類の専用貨車が数多くつくられ運用されていました。また、汎用的な貨物の輸送も多くあり、これらは有蓋車や無蓋車といった貨車を国鉄が用意し、それを荷主が利用するというものでした。
国鉄の貨車は現在と違って二軸貨車が基本だった。その走行装置は、古くはシュー式、そして1段リンク、2段リンクへと進化していったが、基本的な構造はどれも同じだった。走行中の振動を和らげるために設けられていた担いばねは、鉄板を重ね合わせてつくられた板ばね=リーフサスペンションが主流であり、これは自動車のトラックやバスといった大型車にも使われていた。旅客用車の枕ばねよりも硬いが、構造が簡単で製造コストも安価にできるとともに、整備の面でも負担が少なかった。写真は碓氷峠鉄道文化むらに保存されているヨ3500形。車掌が乗務する車両のため、一定程度の乗り心地に配慮したため、他の営業用貨車よりも板ばね自体が長くとられ、柔らかめのものにしていた。(ヨ3961 碓氷峠鉄道文化むら 2025年5月4日 筆者撮影)
これら、大量に作られ運用されていた貨車のサスペンションは、二軸貨車であればトラックと同じ板ばねが使われていました。大型貨車になると、車両長が長くなるためボギー台車が装着されますが、多くは枕ばねは金属コイルばねが使われ、載せるのは人ではなく貨物であるためさほど揺れや振動を気にしなくていいことや、軸箱は台車枠に直結されるか申し訳程度にしか振動を吸収しない防振ゴムが使われるなど、大量かつ安価に製造でき、保守性も容易である構造が採用されました。
また、枕ばねに使われる金属コイルばねは硬いものが選択されました。これは、貨車用の台車は重量物を支えることが第一であり、旅客車用のように乗り心地は考える必要がないなど設計の前提が異なるためでした。
一般的な貨車の台車であるTR211。この台車はヘッデンドルフ台車ともよばれ、プレス加工した鋼板でつくった側枠と枕梁を組み合わせたもので、構造が比較的簡単でありながら重量を支えることができる、製造コストも安価で保守の手間も少ないことから多くの貨車に装着された。特に製造コストに敏感な私有貨車は、国鉄保有の貨車が技術の進歩とともに様々な台車が開発、装着されたのに対して一部を除いてヘッデンドルフ台車が使われていた。枕ばねには金属コイルばねを1個取り付けてあり、車両の重量との動揺を吸収するのはこの1本のばねにかかっていた。(TR214形(タキ43000形に装着) 筆者撮影)
後に貨物列車の運転速度が高速化すると、それまでの台車では対応できなくなっていきました。そこで、特に大規模な設計変更をする必要がなく、高速化を実現するために揺れを抑えるための油圧ダンパーを装備したものも現れました。例えば、ホキ2200形に装着されていたTR211形は、枕ばねは金属コイルばね、軸箱は台車枠に直結したもので、これに油圧ダンパを備えて85km/h運転を実現させました。このような構造は、後にコンテナ輸送に切り替えられても続けられ、コキ50000形が装着していたTR223系や、民営化後に製造されているコキ100系のFT1形なども、多少の改良は加えられているものの油圧ダンパそ装着しています。
このように、貨車用の台車は重量物を支えることと、大量かつ安価に製造でき、実際の運用時にも保守性が容易であることが前提の設計であるため、揺れも大きく振動も激しいものなのです。
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この稿のつづきは、5月25日に投稿予定です。
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