旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

Column:貨物列車で空気ばね(エアサス)が一般的にならない理由【4】

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《前回からのつづき》

 

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 10000系貨車は、1987年の分割民営化までに多くの車両が運用を失い、廃車解体されてしまい姿を消していきました。とはいえ、一部は新会社に継承されて活躍を続けるものもありました。

 JR東日本JR西日本に継承されたワキ10000形は、国鉄時代に運行が始められたカートレイン用として残りました。また、JR北海道もワキ10000形を保有していましたが、こちらは国鉄時代に廃車除籍され、機能停止した旧操車場などで解体の運命を待つ列に並んでいた中から状態の良い車両を選んで購入し、車席を復活したうえでカートレインとして運用したり、さらに改造が加えられてバーベキュー設備を持ったトロッコ車両にもなりました。

 コキ10000形とコキフ10000形は、国鉄時代に5トンコンテナの規格が変更され、10フィート第1種コンテナであれば5個積みが可能であったのが、12フィート第2種コンテナが主流になると4個積みに改良され、輸送効率の悪さや特殊装備が難点となり、より積載効率が高く特殊装備もないコキ50000形が勢力を伸ばすにしたがって、活躍の場を失ってしまっていました。しかし、JR貨物にはまとまった数が継承されて、分割民営化直後の時期に使われていました。当時の主役でもあるコキ50000形を補完する役割を担い、波動輸送用に用いられましたが、他の形式と混結ができないといった運用の制約があるため、コキ100系が増備されてくると徐々にその活躍の場を失っていったのでした。

 しかしながら、10000系貨車で得た技術と経験は大きく、現在の鉄道貨物輸送の主役とも言えるコンテナ輸送を支えるコキ100系は、応荷重装置付電磁自動空気ブレーキ、いわゆるCLE式自動空気ブレーキは、そのことが役立った一つだといえるでしょう。

 最近、鉄道貨物輸送も自動車輸送と同じように、貨車をエアサスにすべきだという主張を目にしたことがあります。確かに、エアサスは同様や振動が少なく、輸送する貨物にとっても荷崩れなどによる破損といったことを抑える効果はあるといえます。しかし、自動車は自前で空気ばねに圧縮空気を送り込むためのコンプレッサーを装備している反面、貨車は汎用的に運用することがほとんどのため、それ自身にコンプレッサーを搭載することは製造コストと運用コストを大幅に上げてしまい、その結果として運賃にもそれが跳ね返ってくることが想像されます。

 また、国鉄時代のように機関車から圧縮空気を供給することも考えられますが、これもやはり機関車を選ぶなどの手間がかかり、貨車の運用も制限が加わり、他の汎用的な貨車とも混結は難しく、結局は限定運用を組まざるを得なくなり、管理コストがかかってしまいます。そのコスト上昇分をJR貨物自身が経営努力によって吸収できるかというと、それはほとんど不可能であり、結果として空気ばね台車を装着した貨車を利用する場合の運賃に反映させるか、あるいは特急券のように別料金を収受しなければならず、やはり輸送コストの上昇を招いてしまうと言えるのです。

 

JR貨物が開発・製造した日本で初の量産貨物電車であるM250系は、中間に連結されるT260・261形は見た目にはコキ車と変わらない。しかし、貨車ではないためコキ車と比べると構造や強度はそれほど強固ではないと考えられる。実際に積載するコンテナは、M250系専用ともいえる軽量の専用コンテナであるUA54形30000番台を専用コンテナとして用意され、積載する貨物も小口宅配貨物を中心とした軽量だがかさばるものを中心としていた。台車はコキ車に装着されるFT1形などとは異なり、軸箱支持に軸梁式とした空気ばねボルスタレス台車であるFD130形/FT130形を装着した。この台車は電車用のものに酷似している。これは、M250系が「電車」であることと、編成が固定されているため、検査時以外は車両の組み替えを行わないことで、空気ばねを実装することを可能にした。(上:写真AC 下:©Rs1421, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Cmmons)

 

 強いて例外といえるのは、貨物電車であるM250系でしょう。コンテナ専用貨物電車であるM250系は、全車がボルスタレス式空気ばね台車を装着しています。これは、M250系がコンテナを載せるものの、貨車ではなく電車であるため圧縮空気を送り込むコンプレッサーを装備しているためだといえます。そのため、コンテナ積載用の車両としては初めて空気ばね式ボルスタレス台車を装着しています。もっとも、M250系は積載荷重が重くなる可能性がある一般のコンテナ貨物ではなく、容積は必要なものの比較的軽量な宅配貨物を積むことを前提としたため、旅客用電車と同様の台車を装着することを可能にしたと考えられるのです。

 いずれにしても、現在のトラックやバスで標準装備となったエアサスは、鉄道車両では1960年代半ばに実用化されていたのでした。ただ、これらの装備は可能であっても、様々な面から標準化するのには非常に困難が伴い、それを強引に実現させたとしても、結果として荷主が支払う運賃が上昇し、ひいては貨物を託送する荷主のコストを押し上げることになると考えられることから、一般化は非常に難しいと言えるのです。

 

 今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 

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