《前回からのつづき》
413・717系は台車も種車のものを再利用しています。インダイレクトマウント空気ばね台車のDT32/TR69系を装着し、近郊形電車のほとんどが金属コイルばねを使ったDT21/TR62系を装着していたので、種車のものや廃車発生品を利用したとはいえ、かなり「贅沢」なものだったといえます。
413・717系は製造時から冷房装置を装備していました。先頭車となるクハ413形とクハ717形、制御電動車であるクモハ412形とクモハ712形には、分散式のAU13系が、パンタグラフのある中間電動車のモハ413形とモハ717形には、集中式のAU72形がそれぞれ屋根上に装備されていました。通常、国鉄の近郊型電車には集中式のAU75形を装備するのが一般的ですが、413・717系はこれを使いませんでした。これらの冷房装置も種車からの再利用品で、製作にかかるコストを最小限まで抑えようとした、というより抑えなければならなかった財政事情から、かなりの苦心があったことが伺われます。
その一方で、車体は新製したものを載せることになります。種車の車体は急行形そのものなので、これを改造するとかなり大掛かりなものになってしまいます。乗降用扉は車端部に2か所であり、これを近郊形にするのは大規模な内容の改造工事になってしまいます。そして、その分だけ改造に係るコストも上昇してしまうことが予想されたことから、近郊形に見合った車体を新たに新製して、これを載せ替えることにしたのでした。
413・717系は近郊形として製作されましたが、車体や客室内の仕様は大都市圏などで運用されていた113系や115系などとは異なったものにしました。これは、首都圏や関西圏などと違い、413・717系を配置する線区ではラッシュ時もこれらの地域と比べれば混雑率は少ない方であり、日中になると閑散とする時間帯もあることから、地方都市向けに製造された417系や713系と同じ仕様としました。


余剰となった急行形電車の機器を流用し、輸送の実態に合わせた車体を新製してつくられた413系電車は、幅1300mm両開きドアを片側2か所、中央寄りに寄せた位置に設置したことで、ラッシュ時の乗降をスムーズにできるようにしていた。他方、可能な限り制作コストを抑えるため、種車の機器などはできるだけ再利用する方針がとられたことで、装着した台車は近郊形車両としては数少ないインダイレクトマウント空気ばね台車であるDT32/TR69系が装着されたほか、冷房装置もモハ412形は集中式のAU72形を、クモハ413形とクハ413形は分散式のAU12形またはAU13形を5基搭載していた。側面の方向幕は従来のサボを廃止して合理化するために設けられたが、車端部ではなくドア付近中央寄りの設置は1980年代の国鉄車両で見られるようになった仕様だった。(写真上:クモハ413ー6〔金サワ〕 写真下:モハ412-6〔金サワ〕 いずれも富山駅 2013年7月29日 筆者撮影)
乗降用扉は幅1,300mm両開きドアを片側2か所とし、車体中央部に寄せた位置に設置しました。ドア付近はロングシートを設置し、車両中央側は幅965mmの2人掛け用を、車端部はすべてロングシートにすることで、着席定員は急行形と比べれば減るものの、立席を含めた収容定員を大幅に増やすとともに、ラッシュ時の乗降をスムーズにできるようにしました。他方、ボックスシートはドア間の車両中央部のみ片側4組、合計で8組32人分を確保することで、比較的長い距離を乗る乗客へ配慮した設備としました。
座席上には荷棚を設置し、ラッシュ時輸送にも対応するため吊り革も設けられました。ただ、この荷棚はほかの近郊形電車とは異なる形状をしていました。実は、この荷棚も種車や廃車車両からの発生品を再利用したものだったのです。もちろん、座席も再利用品ですが、荷棚まで再利用するというのはあまり例がなく、とにかく使えるものは使い倒し、極限まで製作コストを減らそうとした国鉄の努力が分かるところです。それだけ、国鉄の財政は苦しいものであり、それでも必要とされる車両を限られた予算で製作して、利用客本位のダイヤを実現させ、ラッシュ時の混雑に対応しようとしたのでした。

仙台地区をはじめとする地方都市圏の輸送改善と電車化を進めるために1978年に登場した417系は、片側3ドア・セミクロスシートというそれまでの近郊形電車の常識打ち破り、片側2ドア・セミクロスシートの仕様だった。これは、大都市圏ほど混雑が酷くなく、2ドアでも対応ができると考えられたこと、特に冬季にはドアを減らすことで室内の温度を保つことをねらったといえる。しかし、交直流車は直流車よりも製造コストが高く、厳しい財政事情の国鉄は417系を大量に投入することが困難であり、1978年度の単年度で増備は打ち切られた。(©spaceaero2, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons)
413・717系は地方都市向けの構造と設備をもつ一方で、運転台などの乗務員室と先頭部は典型的な国鉄形そのものでした。貫通扉のある前面は、高運転台構造でいわゆる「東海形」とも呼ばれる国鉄の伝統的なものでした。とはいえ、主幹制御器などの機器類もまた、種車や廃車となった車両からの発生品を流用したと考えられます。
このように、413・717系は多くの機器や部材などを種車や廃車車両から発生したものを流用することで、製作にかかるコストを極限まで抑えながら、従来の国鉄形電車にも通じる仕様としたことで、乗務員はもちろん検査や整備を担う検修職員にとっても、扱い慣れた機器類を使っていたことで負担を軽減したといえるでしょう。
《次回へつづく》
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