《前回からのつづき》
■真っ黄色にぬられたのは積み荷が「危険物」タキ5450形
1.危険物輸送と貨車の塗色規定
液体はもちろん、粉体や粒体にいたるまで、様々なものを運ぶことができるタンク車は、国鉄時代から重宝された貨車の一つです。既にお話したように、もっとも身近なものでいえば、ガソリンをはじめとした石油類を輸送するタンク車でしょう。また、今もなお運用され続けているものとして、セメントや炭酸カルシウム、亜鉛焼鉱といったものがタンク車によって運ばれています。
もっとも、これらのタンク車は原則として黒色で塗装されています。特に識別を容易にしなければならない集約輸送用の車両は、例外的に他の色で塗装されていましたが、これ以外はよほどの理由がない限り原則から外れることはありませんでした。
とはいえ、法令によって積み荷が何であるかを識別しなければならないことが定められている場合は、いくら国鉄の規則といえどもそれに従わなければなりませんでした。例えば、液化石油ガス(LPG)、いわゆるプロパンガスを輸送するタンク車はねずみ色1号で塗装されていました。
これは、LPGを充填するボンベは容器保安規則によって、その筐体はねずみ色で塗装することが定められていたため、国鉄もこれに従ってLPG専用のタンク車はこの色で塗られていたのです。この他にも、液化天然ガス(LNG)を輸送するタンク車も同様にねずみ色1号で塗装されていましたし、これはコンテナに代わった今日でも、LPGやLNGを積むものはねずみ色で塗装されています。
2.黄色いタンク車・タキ5450形
タンク車はガソリンやLPG、LNGといった引火性の高いものだけでなく、様々な化学物質を運んでいました。中でも液化塩素を積荷としたタキ5450形は、高圧ガス保安法によってこれを充填した容器は黄色に塗らなければならないため、タンク体は黃1号で塗装された非常に目立つ存在でした。
液化塩素は名前の通り、塩素を液体にしたものです。塩素自体は常温で常圧であると黄色い気体(ガス)ですが、非常に毒性の高いものなのでその取り扱いには特に注意を払わなければなりません。しかし、一度に多くの量を運ぶときに、気体のままでは貨車に積むことができる量も限られてしまうため、高い圧力をかけることで液体にしているのです。

タンク車の中でも黃1号で塗装されたタンク体は、非常に目立つ存在でもある。積荷は液化塩素を高圧で充填しているため、容器保安規則に則って「塩素」を表す黄色でなければならない。初期の車両はベッテンドルフ台車のTR41形だったが、後期につくられたものはTR211B形、さらにはTR216B形に変わっていった。(©継之助, Public domain, via Wikimedia Commons)
そしてこの塩素の毒性は非常に高く、これを人間が吸ってしまうと呼吸器が侵され、最悪の場合呼吸不全を起こして命を落としかねません。また、液体がかかってしまうと、皮膚は炎症を起こし最悪はその部分が溶けてしまいます。
この毒性を応用したのが、プールの消毒や食器の漂白剤として使われる次亜塩素酸ナトリウムです。筆者も仕事柄、夏季にはプールに消毒剤として塩素タブレットを投入することがありますが、これを可能な限り素手で扱わないことが推奨されています。また、キッチン用の漂白剤は水溶液なので大量の水で希釈して、付近や茶渋等の付いた容器を浸けておくときれいに取り去ってくれます。万一、この次亜塩素酸ナトリウム水溶液の原液を手で触れると、皮膚の表面がヌメヌメした感覚になりますが、実際には水溶液がぬめぬめしたものではなく、この時点で皮膚が溶かされているのです。これだけの毒性を活かして消毒にも使われますが、塩であるため特に金属に対して化学反応を起こして、酸化して腐食させてしまいます。
このような毒性と危険性が高い液化塩素を運ぶため、タキ5450形は塩素が充填されていることを示す黄色で塗装されているのです。
3.安全装備と中和剤
万が一、事故などでタンク体が破損し、積荷の液化塩素が流出してしまうと大きな被害をもたらすことは想像に難くないでしょう。塩素は金属を溶かす性質がありますが、同時に有毒なガスを発生させてしまいます。液化塩素の漏れを防ごうとしたり、漏れたものを除去しようとしたりして不用意に近づくと、人的な被害をもたらしかねません。
そこで、液化塩素の毒性を抑えるために、中和用の液体苛性ソーダ(水酸化ナトリウム水溶液)を、台枠上に設置した収納箱の中に搭載していました。これは、中学校の理科を思い出していただければおわかりになると思いますが、酸性の塩酸とアルカリ性の水酸化ナトリウム水溶液を混ぜると中性になるのと同じ原理で、タキ5450形には欠かすことのできない装備でした。
このような危険物であるタキ5450形は、黃1号という目立つ色で塗装されていたため、貨物列車の中に連結されていると非常に目立つ存在でした。国鉄時代は多くの貨車が黒色であり、パレット荷役用のワム80000形のとび色や、冷蔵車の銀色または白色も目立つものでしたが、やはりタキ5450形の黄1号は際立っていたといえます。
4.工業を支えた大量輸送
液化塩素という危険物を輸送するタキ5450号ですが、意外にも数多く製造されました。全部で696両という数は、同一形式の貨車としては多い方に入るといえ、それだけ日本の工業生産において欠かすことのできない存在だったといえます。
1984年2月のダイヤ改正で、国鉄の貨物輸送はコンテナ輸送にシフトし、車扱貨物は原則として廃止されましたが、タキ5450形をはじめとする化成品の輸送は継続されました。これは、大量輸送と拠点間輸送が可能だったことと、このような危険物を自動車で運ぶには法令による規制が厳しく、鉄道に代わる輸送手段がなかったことが要因として考えられます。
液化塩素の場合、どんなに大きくてもタンクローリーでは積載荷重が30トンが限度で、それ以上積むことは許されていません。また、これを運転するドライバーは大型自動車免許の他にも危険物取扱者の免許が必要である上、大量に輸送しようとするとその分だけドライバーを確保しなければならず、交通事故によるリスクも大きいことから鉄道輸送が続けられたと考えられます。
5.コンテナ化とともに消えていった黄色いタンク車
国鉄が分割民営化された後も、タキ5450形は多くが走り続けました。車扱貨物の淘汰とコンテナ貨物への移行を進めて行かれる中で、比較的遅くまで残った化成品輸送の車両として運用され、筆者が今の仕事に就いた2004年頃から2010年頃にかけても、かつての古巣でもある早朝の梶ヶ谷貨物ターミナル駅に停車するタキ5450形を見かけました。この頃にはコンテナ列車に併結される形での運用で、今となっては見ることのできない編成を組んでいました。

車扱貨物を原則として廃止し、コンテナ輸送にシフトするJR貨物の方針のもと、タキ5450形が運んでいた液化塩素もコンテナ化された。後継となったUT13C形8000番台の一部は液化塩素専用として製造され、法令に基づいて同じく黃1号で塗装されている。貨車と同様に化成品分類番号「毒G26」(毒物、高圧ガス、毒性のあるもの)の標記があり、荷役などに駅員や作業者への注意を促している。妻面には「毒」の標記があるが、こちらは毒物および劇物取締法で危険物などを輸送する自動車に表示することを定めているマーク。コンテナはトラックに載せて輸送することができるため、このような自動車用の標記も併せて表示している。(©TRJN, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons)
しかし、最後に製造されたのが1994年であるものの、古い車両は老朽化も進んでいました。また、最高運転速度は75km/hと一般の貨車としての走行性能であり、年々高速化が進むダイヤ編成の中にあっては、足の遅いタキ5450形はネックとなってしまいました。そして、2011年までにすべての運用を終え、液化塩素の輸送はタンクローリーをはじめとした自動車や、新たに開発されたタンクコンテナであるUT13C形による輸送へとシフトしていったのです。
《次回へつづく》
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