旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

貨車の色にも意味があった:追補【3】

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《前回からのつづき》

 

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■酸性の塩素があるなら、アルカリ性のものもあった白い危険物 タキ16800形

1.アルカリ性の危険物と白く塗られた貨車

 酸性の反対はアルカリ性です。アルカリ性のものも、やはり濃度が濃いとそれは劇物として扱われます。もっとも身近なアルカリ性のものといえば、キッチンの油汚れをスッキリと落としてくれる「マジックリン」でしょう。換気扇にこびりついた頑固な油汚れも、これを吹き付ければあっさりと落としてくれるスグレモノです。

 ところが、この「マジックリン」はさすがにアルカリ強度が強く、素手で扱い続けると皮膚を荒らしてしまいます。筆者も経験があり、鉄道マンになって初めての年末、詰め所の大掃除でこの「マジックリン」を使いまくって汚れを拭き取っていると、手がヒリヒリとしてしまいました。原液のまま、しかもぬるま湯を使っていたのが悪かったらしく、しまいには雑巾を絞ることができないほど痛くなってしまったのです。

 このように、アルカリ性のものも人体に影響を及ぼすものなので、その取り扱いは酸性のものと同様に注意しなければなりません。

 それは、鉄道輸送でも同じことです。

2.大型車体の理由と輸送の使命

 アルカリ性劇物を輸送した貨車に、タキ18600形がありました。この車両は液化アンモニウムを輸送する25トン積のタンク車ですが、車両の全長は17,080mmと非常に長い車体をもっていました。同じ劇物を運んだタキ5450形が9,460mmと比べると、非常に大型だったことが分かるでしょう。

 この理由として、液化アンモニウムと液化塩素の比重の違いがあります。液化塩素が1.4685に対して液化アンモニウムは0.674と少なく、同じ荷重となる25トンを積もうとすると、体積は液化アンモニウムの方が大きくなってしまうので、このような大きな車体になってしまうのです。

 そして、液化アンモニウムも液化塩素と同様に危険物です。アンモニアそのものが劇物に指定されていることからもわかるように、非常に毒性の強い物質です。気体は刺激臭が強く、吸入による中毒症状を起こし、最悪はショックによる呼吸停止に至るといった危険なものです。そのため、筆者も理科専科としてアンモニア水(希釈して5%〜10%)を使った実験指導をするときには、安全面では特に注意をはらい、予測しうる危険は事前にすべて排除し、説明を聞かなかったり実験に臨む態度に少しでも問題があると判断したりしたときには、間髪入れずに実験を中断させて必要な指導をしたものです。

 こうしたアンモニアの特性から、容器保安規則によってボンベなどは白色に塗装することが定められ、液化アンモニウムを輸送するタキ18600形もタンク体を白色に塗装していました。車体を白で塗装した貨車は、多くは冷蔵車だったので、その車体の大きさからも目立つ存在だったと言えます。

 

 

 そのタキ18600形は、タキ5450形と同様に1984年2月のダイヤ改正で多くの車扱貨物が廃止になっていく中で、生き残ることができました。液化アンモニウムを一度に大量輸送できることや、交通事故のリスクなどから鉄道輸送が続けられたと考えられます。

3.国鉄からJRへ――継承と運用、形式消滅とコンテナの次代へ

 国鉄分割民営化では、115両がJR貨物に継承されました。化成品輸送を専門とする列車として運行されたり、少ない場合は1〜3両程度が他の貨車と一緒に編成を組んだりしていましたが、後者の場合は危険物である化成品専用者であるため、必ず機関車の次位に連結して運用されていました。

 しかしながら、年を追う事に老朽化などによってその数を減らしていき、加えて車扱貨物を原則として廃止するJR貨物の方針から、タンクコンテナへの移行が進められました。そして、2009年までにタキ18600形はすべてが廃車となり、長きに渡った貨車としての液化アンモニウム輸送の歴史幕を閉じ、形式消滅していきました。

 もっとも、液化アンモニウムの鉄道輸送自体が終わったわけではなく、実質の後継となったUT10C形コンテナもまた、タンク体は白色で塗装されるとともに、破損などを防止するためトラス状に組んだ鋼棒によってタンク体を頑丈に守っている独特な外観をもっています。とはいえ、貨車としてであればタキ18600形のように非常に目立つ存在でしたが、コンテナになってしまうとよくよく観察していないとわからないかもしれません。

 

 

 このように、法令によって国鉄の規程によることなく、目立つ色を身に纏ったタンク車もまた、見ていて楽しいものでしたが、残念ながらそれも既に過去のものになってしまいました。その後継であるタンクコンテナ中で、黄や白に塗られたものを探してみるのも、もしかしたら面白いかもしれません。

 

今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 

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