旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

国鉄の置き土産~新会社に遺していった最後の国鉄形~ 私鉄車両に迫ったアルミ車体とチョッパ制御車・203系【7】

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《前回からのつづき》

 

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 CH1A形チョッパ制御装置にコントロールされる主電動機は、出力150kWのMT60形直流直巻整流子電動機です。従来のMT55形など電車用の主電動機と比べて高出力となり、同時に回転数も定格で1,850rmp、最高で4,850rpmと回転数も高くなりました。103系などに搭載されていたMT55形が定格で1,350rpm、最高で4,400rpmと比べると、かなり高い設定であったことがわかります。

 これは、MT55形を搭載した車両は、制動時に発電ブレーキを使うため、その制動力は主抵抗器の容量に依存するので、そこまでの高回転で高出力でなくても問題ありませんでした。しかし、電機子チョッパ制御では回生ブレーキを使うため、高速域から制動力を得るためには、発電機となる主電動機は高回転かつ高出力である必要があったのです。そのため、MT60形はこのような性能をもつことになり、いわば電機子チョッパ制御用の主電動機といっても過言ではないものだったといえるのです。

 このような高出力かつ高回転の主電動機を搭載していたので、加速性能も高いと考えられます。MT60形を初めて搭載した201系では、歯車比を高速寄りに設定したため加速度は2.3〜2.8km/hとそれほど高くなく、高速で走行する性能を重視したことで、定格速度は52.1km/hに設定されました。

 一方、203系は201系とは異なり、営団千代田線に乗り入れることを前提としていました。地下鉄線は地上線とは異なり、曲線半径の小さいカーブが多く、駅と駅の間の距離も短い場所が多く存在します。加えて、千代田線は既設の地下鉄線よりも深いところを通ることも多く、それ故に勾配も多く存在します。さらに、列車の運行頻度は高く、同じ線路上を走る営団6000系小田急9000系と同等の性能が求められ、高速性能よりも加速性能を重視することになりました。

 そのため、203系の歯車比は低速寄りに設定し、起動加速度を3.5km/h/sに設定することで、高い加速性能を実現しました。この加速性能とバーターで、高速性能は抑えられることになり、定格速度は48.1km/hと低くなりました。もっとも、地下鉄線内は高速で走ることはなく、また地上線の常磐緩行線では比較的駅と駅の間が短く、停車駅も多いことからある意味では割り切った性能だともいえるでしょう。

 ブレーキ装置は前述の通り、電機子チョッパ制御を使った回生ブレーキを併用した電磁直通ブレーキを装備していました。このブレーキの性能についても、営団との協定に基づいて、高い減速度が求められました。そのため、回生ブレーキは201系では45%弱め界磁であったのに対し、203系では全界磁とすることで、制動力は格段に大きくなり、減速度はATC使用時の常用で3.25km/h、直通ブレーキ最大で3.7km/hとなりました。

 203系の台車は201系と同じ、軸箱支持を円筒案内式としたインダイレクト空気ばね式台車であるDT46A/TR234A形を装着していました。この台車はボルスタアンカーを装備したものであるため、台車自体の重量が増してしまいますが、軽量化のために台車枠の肉厚を薄くすることで一定程度の軽量化を実現しています。

 また、ブレーキもDT46A形では201系が装着したDT46形と同じ片押し式の踏面ブレーキを採用しましたが、付随台車であるTR234A形は重量を軽くするために、ディスクブレーキではなく両抱き式の踏面ブレーキとしました。

 そして、203系を語るうえで、最大の特徴はやはり車体にあるといえるでしょう。

 

 

203系は、国鉄初の実用チョッパ制御車である201系を地下鉄乗り入れ仕様にしたような車両で、多くの機器類はほぼ同じであった。台車も国鉄が従来から「標準型」と位置づけて採用し続けた、ウィングばね軸箱支持のDT21系ではなく、インダイレクトマウント空気ばね式で、軸箱支持は円筒案内式のDT46形を新たに開発した。203系も同じくDT46系を装着させ、通勤形電車としては乗り心地の面でも大幅に改善した。この台車を装着することで、千代田線を走る営団6000系小田急9000形に比肩する車両になったといえる。(パブリックドメイン

 

《次回へつづく》

 

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