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鉄道員の仕事というと、一言では説明できないほど数多くの役割があります。このブログでもお話してきたように、大きく分けて列車の運行に直接携わる運転系統や、乗客扱いを担当する営業系統、車両の検査や修繕などを主にする検修系統、さらには線路とその付帯施設の維持管理を担う施設系統、そして信号保安設備や通信設備、電車線や電灯設備を担当する電気系統などなど、とにかく大別するだけでも数多くあります。
これは、そもそも鉄道自体が非常に多くの要素が絡んだ巨大なシステムであるといえます。そのどれか一つが欠けても、安全で安心して利用できる列車の運行は叶わない、いわゆる「労働集約型産業」と呼ばれるもので、多くの人の手と不断の努力によって支えられているといえます。
これまでもお話してきたように、筆者はこのいくつものある鉄道員の職種の中で、電気系統に属する技術者でした。電気区に配属されて、信号保安設備や通信設備、電灯電力設備の保守管理を担う部署で、現場に出て実際に検査業務をしたり、障害発生時には現場に急行して復旧作業をしたりしました。
筆者は電気区の仕事の中で、早いうちから担当する業務を指定されました。
一つは在日米軍基地にある専用線の保全工事設計と設備の管理でした。保全工事とは、本来であれば電気区の職員が設備の検査と補修をするところを、協力業者に委託するための工事種別で、筆者は補修が必要な箇所の指示書と積算といった設計を担当していました。
この業務で特異なところは、通常の専用線とは取り扱いが大きく異なることでした。
普通の専用線は、日本の民間企業が設備を保有しています。そのため、保守管理は専用線を保有する企業からJR貨物が委託を受ける形で実施し、JR貨物は直轄でその作業を実施するか、協力業者に再委託することになります。
しかし、在日米軍基地の専用線は、受託する相手は在日米軍です。そして、在日米軍との間には防衛施設庁も絡んでくるので、非常に複雑でした。なにしろ、補修が必要な箇所や検査内容は、防衛施設庁の職員だけでなく、在日米軍の軍人にも説明し納得してもらわなければなりません。そのため、図面から補修に関する説明書、検査関連のリストなどは日本語と英語の両方で書かなければなりませんでした。ただでさえ、高校を卒業する時の英語の成績は「赤点」だった筆者にとって、非常に苦労をしたものでしたが、この経験は多くを得られました。
この在日米軍専用線とは別に、電気区時代にもう一つの担当に指定されました。
それは、資材管理業務というものだったのです。
資材管理業務とは、運転区所や工場、保全区所などあらゆる現業機関で補修や工事などで使用する物品(資材)を管理する仕事です。筆者の場合、旅客会社の信号通信区と電力区を合わせた機能をもった電気区だったので、その種類は非常に多く、ヒューズ1個からNS形電気転轍機に至るまで、軽く200種類以上のものを一手に管理していました。
管理と一言で言っても、その内容もまた複雑で細かいものでした。
例えば、貨物駅構内を照らす高圧水銀灯の電球が切れてしまったと、貨物駅から電気区に連絡が入ったとします。すると、電気区の担当者は駅構内のどの場所の物なのかを確かめ、それに適合する電球や必要な部品を持って交換に向かうことになります。
この時、担当者は資材担当に必要な電球の在庫の有無を確かめます。それだけでなく、高圧水銀灯を灯すために安定器と呼ばれるトランスが壊れている可能性があるので、それについても確かめます。
資材担当者は、自区で保管しているあらゆる物品の種類と在庫数を把握しています。これは、急な障害が発生したときに、JR職員が直轄で復旧作業をすることを想定したもので、万一「部品がないので直せません」なんてことがないように、常に最低限の在庫を確保しなければならないことになっていました。
また、「あれ、その部品、ウチにあったかな。ちょっと倉庫に行ってみてきます」なんて悠長なことでは、補修作業に迅速な対応をすることができません。こうした不測の事態に素早く対応できるように、資材担当者は自分の管理下にある自区が保有する物品について、その品名、品質形状(型番)、在庫数を頭に入れているのです。もちろん、200以上もあ

「ノート型パソコン」とは名ばかりに、とにかく大きく重かったが、それでも机上で手軽に使えるということで重宝した。1990年代初めの頃はWindowsというOSは一般的ではなく、MS-DOS上で動くソフトウェアを使っていた。NECが製造・販売していたPC-9800シリーズはもっとも一般的になったパーソナルコンピュータで、筆者も就職して間もなく購入して、仕事に趣味に、そしてゲームにと使っていた。持ち運びができるので、職場にも持ち込んで資材管理や工事設計に活用したものだった。(©Darklanlan, CC BY 4.0, via Wikimedia Commons)
る物品すべてを正確に覚えることは難しいので、筆者の場合、持ち込んだ私物のPC-9801の表計算ソフトに一覧を作っておき、問い合わせを受けた時点ですぐにその一覧から確認していました。
資材担当者から「在庫あり」の回答をもらうと、修繕作業の担当者は倉庫へ行って、作業で交換すると考えられる物を持ち出します。これを「払い出し」といって、倉庫の保管状態から持ち出し状態に変わります。
ここで、払い出した職員は、物品が保管されている棚などに吊り下げられている現品票と呼ばれる札に、日付と使用する現場名、払い出した数、払い出しを実施したものの氏名を記入します。この手続きをしなければ、物品を倉庫から持ち出すことは許されず、万一この手続きを怠ると台帳上の保有数と、倉庫の現品数が合わないという自体になってしまい、後々面倒なことになるのです。
こうした手続きを踏んで、この場合は高圧水銀灯の電球と、灯具に取り付ける安定器を倉庫から持ち出し、修繕の担当者は現場へと向かい、必要な物の交換作業を実施することができるのです。

筆者が勤務した電気区では、本区という部署の性質上、あらゆる物品を保管していた。信号保安設備や通信設備、電力設備と電灯設備それぞれで必要な物を管理するため、倉庫は構内に点在せざるを得なかった。その中でも廃コンテナを活用した倉庫もあり、国鉄のコンテナ輸送黎明期に製造されたC10形もあった。10フィート規格のため、現在使われている12フィート規格の物と比べて小ぶりだったが、古くなっても頑丈に作られているため、それほど不便ではなかった。しかし、妻面一方開きのため、夏季には風通しが悪く、せめて側面も開くC11形がよかったと思ったのは贅沢だろうか。(©Olegushka, CC0, via Wikimedia Commons)
《次回へつづく》※次回この稿のつづきは10月29日(水)に投稿予定です。
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