《前回からのつづき》
国鉄は最新のサイリスタ位相制御を装備し、軸重可変機構をもったED77形をベースに、抑速機能を追加した板谷峠用の交流電機を開発することで対応しました。とはいえ、直流電機であれば抑速機能として使うことができる発電ブレーキや回生ブレーキの技術は確立していました。しかし、交流電機では直流電機のように主回路に抵抗器がないため、発電ブレーキを使うことができません。また、交流電流を使った回生ブレーキは、理論的にはできると分かっていましたが、日本の鉄道ではその実績が皆無でした。
そこで、ED93形に続く交流電機における新機軸を取り入れるため、新たな試作機としてED94形が製作されました。
1967年に製作されたED94形は、前作であるED93形をベースに開発されました。制御方式はED93形で実用化されたサイリスタ位相制御で、軸重制限が厳しい低規格の線区にも入線できるように、軸重可変機構を備えた空気ばね式の従台車であるTR103形を装着しました。これに加えて、板谷峠区間での下り勾配を走行するときに速度を抑えるための回生ブレーキを追加した仕様となったのです。
一口に回生ブレーキといっても、直流機であればその構造は簡単です。主電動機である直流電動機は、電流を流すことで動力を生み出し動輪軸を回転させますが、その逆に電流を流さずに動輪軸を回転させると主電動機から電流を発生させることができます。この直流電動機の性質を使って、発電する時に生じる主電動機の抵抗を使って制動力を得ますが、発生させた電流を消費するための負荷として主抵抗器を使って電気エネルギーを熱エネルギーに変えて捨てる方法を発電ブレーキであり、パンタグラフを通して電車線(架線)に戻して他の列車に消費させたり変電所で吸収させたりする方法が回生ブレーキです。

交流電機を取り巻く環境は、新製と配置が続く中で言葉通り「日進月歩」の状態だった。特に大容量半導体の発展は、交流電機の発展にもつながっていった。シリコン整流器によって安定した整流を実現したものの、ダイオードの性質から水銀整流器時代の連続電圧制御を失ったが、サイリスタの登場によって再びこれを取り戻し、D級機でありながら高い粘着性農をもつことができた。同時に交流機として回生ブレーキの実用化にもつながっていくことになる。サイリスタ位相制御を採用した仙山線用のED77形の実用化は、板谷峠用のED78形の開発に活かされていった。(©spaceaero2, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons)
ところが交流機の場合、主電動機は直流電動機を使っているので、そのまま電車線へ戻すことができません。これは、電車線から交流20,000Vを取り入れ、それを主変圧器で降圧させ、さらに主整流器で交流から直流に変換させているためで、特にED74形以降の交流機は主整流器は半導体であるダイオードを使ったシリコン整流器であり、このダイオードは一方向しか電流を流さないという特性をもっていました。当然、直流から交流に変換することはできないので、回生ブレーキを使うこともできません。
しかし、ED93/ED77形では電圧制御に従来のタップ切換制御からすべての接点、機械的動作部をなくすことを可能にした半導体素子の一つであるサイリスタが開発されたことで、主変圧器にこれを接続することでシリコン整流器に代わって交流から直流へ変換すると同時に電圧制御を可能にしたサイリスタ連続位相制御を採用しました。
このサイリスタを使うことで、電圧制御は無接点化、すなわち機械的動作をするスイッチがなくなり、機器の小型化と軽量化、そして信頼性を向上させるとともに、水銀整流器を搭載した黎明期の交流電機と同等の電圧連続制御が可能になったことで、粘着力の向上と空転しにくい特性を得たのでした。
このサイリスタは連続的に電圧制御ができるだけでなく、交流電機に回生ブレーキの搭載を可能にしました。直流電流を発電する主電動機から電流を流し、サイリスタで直流電流を交流電流に変換するインバーターとしても動作することが可能だったからです。
こうして、ED94形にはED93/ED77形で実用化したサイリスタ連続位相制御を可能にしたRS30形単相サイリスタブリッジ結線整流器を搭載し、同時にこれを使った回生ブレーキも実装しました。
試作機であるED94形は、回生ブレーキの動作などを中心に量産機の製造に向けた各種の試験が行われました。その結果、サイリスタに起因する誘導障害が発生したことから、量産機ではサイリスタの回路構成を非対称にするなどといった改良が加えられることになりました。
《次回へつづく》
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