《前回からのつづき》
(2)入換の「真打ち」ディーゼル機の出番
到着した貨物列車から電気機関車が切り離され、引き上げ線へと引き上げていくと、今度は入換用に待機していたディーゼル機の出番です。当時の横浜羽沢駅には、品川機関区配置のDE11形2000番代が運用に充てられていました。後に東海道新幹線品川駅設置工事が始まる頃になると、DE11形2000番代の配置は新設された川崎機関区へと移り、その後に合理化によって川崎機関区は新鶴見機関区の派出へと変わり、最後は川崎派出が廃止になると新鶴見機関区配置へと変わっていきます。
横浜羽沢駅の入換仕業に充てられていたDE11形2000番代は、主に夕方に新鶴見機関区へ単機回送されて仕業検査と給油を受けます。そして乗務する機関士が交代をすると、すぐに折り返して単機回送で再び横浜羽沢駅に入ってきて入換作業をこなし、一晩をここで過ごすという運用でした。
入換作業がない時間帯は、主に構内本部近くの線路上に留置して待機となっていました。待機時間中はエンジンは回転させたままで、すぐにでも動かすことができる状態を保ち続けていました。また、機関士は運転台に乗っているのではなく、同じ構内本部建屋の中に設けられた休憩室で待機することになっていました。ですから、筆者のような入社してさほど時間が経っていない若い職員でも、廊下で機関士とすれ違うこともあったのです。
既に入換作業が始まっている時間帯だったので、入換用機関車であるDE11形には機関士が運転台に座っています。電気機関車を操車誘導をした輸送係とは別の職員がDE11形の近くで待機していたので、電気機関車が引き上げ線へ入っていったのを確認するといよいよ出番となります。
「単機1両もって、着発2番、コキ車連結」
「単機1両もって、着発2番、コキ車連結」
「後オーライ」
電気機関車と同じく輸送係が入換用無線機で通告すると、同じく機関士はその内容を復唱します。輸送係はその副賞を確認すると、入換合図のボタンを押します。そして、機関士は単弁を操作してブレーキを寛解、ついでノッチ操作をしますが、ディーゼル機の操作は電機のそれとは大きく異なります。
電機の場合、形式にもよりますが主電動機に流される電流値を見ながら、徐々にノッチアップをしていきます。自動進段の場合は直列=シリースノッチを1から入れ始め、2から3、3から4へと比較的早いテンポで切り替えていきます。これは、いつまでも1ノッチのままにしておくと、主電動機に流れる電流値が過大になってしまい焼損する危険があるからです。自動進段では電流値が一定の値になると主抵抗器の回路を組み替えて、適切な電流が主電動機に流れるようになっています。そのため、シリースノッチをいつまでも低いままにしておくことは、この回路の組み換えをしないことになってしまうのです。
ところが、ディーゼル機の場合はこれとは異なります。国鉄形ディーゼル機はエンジンの出力を液体変速機に伝え、同輪軸の回転速度にあったギアを選択していきます。自動車で言えばAT車と同じ原理で、いきなり高速段に入れてしまうことはありません。
ディーゼル機のノッチはエンジンの回転を制御するものなので、0km/hからの起動時にいきなり高回転にしてしまうと機関車は暴走するか、あるいは液体変速機を破損してしまいます。そこで、ディーゼル機の機関士は、0km/hからの起動時にはノッチを1に入れることでエンジンの回転を上げ、走り出したところでノッチアップをしていきます。一定程度のトルク力を得て走り出すと、2から3、3から4へとすぐに上げていきます。こうすることで、エンジンの回転数を上げて加速力を高める操作をしていました。

国鉄のディーゼル機関車の中にあって、最も多くつくられたのがDE10形だった。DML61系エンジンを1基搭載し、入換作業から非電化区間の列車牽引まで使える万能機で、その派生型も多くつくられた。DE11形は大規模操車場における重入換用機として蒸気発生装置を搭載せず、代わりにコンクリートの死重を搭載、軸重も支線区への乗り入れを考慮しないため粘着力を重視した14トンとなった。さらに、住宅地内に建設することになった横浜羽沢駅用として、徹底的な防音装備を追加したDE11形2000番台は、分割民営化後はJR貨物が継承して引き続き同駅を中心に運用した。実際、DE11形2000番台の走行音はDE10形と比べて非常に静かであり、力行時のエンジン音はくぐもった感じの音はするが、騒音とまではいかない大きさだった。その代わりに走行時は自重から来る振動は大きく、ジョイント音も極力抑えるための構造をもっていたことから、ディーゼル機としては異色の走行音だった。(DE11 2001〔新〕 新鶴見信号場 筆者撮影)
ただし、入換作業のときは最高でも25km/h程度に制限されています。そのため、機関士はエンジンの回転計と速度計を見ながらの運転操作になるので、ある意味では本線を走るよりも神経を使うものでした。
走り出したディーゼル機が25km/hちかくになると、機関士はノッチオフをします。すると、それまで咆哮を上げていた巨大なDML61ZSB形エンジンは、燃料の供給を切られたことで一気に回転数を落とし、「ドヒょヒョヒョ」という独特な音を立てて大人しくなります。もっとも、DE11形2000番台は住宅地の中に建設された横浜羽沢駅での運用を前提とした低騒音仕様なので、そうした音もあまり聞こえません。
輸送係の操車誘導で待機線から渡り線を通って、コンテナ車が留置されている着発線に入っていくと、いよいよ連結が近づいてきます。輸送係は無線機を使って、機関士にコキ車までの距離を伝え始めます。
「あと10両・・・あと5両・・・3両、2両、1両・・・やわぁやわぁ、止まれ」
輸送係は何mという言い方をせず、彼我の距離を車両数で表現します。この車両数の基準はコキ車1両のものではなく、ワム車(ワム23000形やワム70000形など汎用有蓋車)を基準とした長さなので7,380mmを1両として計算していました。当時は既にこのような汎用有蓋車はすべて淘汰され、残った有蓋車もパレット輸送用のワム80000形しかありませんでしたが、国鉄時代からこの長さを基準として操車誘導の技術が確立されていたので、分割民営化後もこのような用語が受け継がれていたのでした。
残り1両近くになると、機関士はブレーキ操作をして減速を始めます。そして、輸送係が「やわぁやわぁ」という合図を送ると、10km/h以下、5km/hほどのゆっくりとした速さで進め、「止まれ、止まれぇ」の合図で停止させるのです。輸送係が無線を通して送る合図は信号機と同等のもので、機関士はこれに絶対に従わなければなりません。
輸送係の誘導合図でゆっくりと走ってきた機関車は、連結する相手の貨車がいる数mほど手前で必ず停車します。そして、ディーゼル機のデッキに設置されたステップに乗っていた輸送係はここから降りて、まずディーゼル機の連結器の解錠てこを上げます。次いで、連結相手の貨車の解錠てこも上げて、連結器を連結できる状態にします。
輸送係は再び無線機のマイクを握り合図を送りますが、今度は貨車の側に立って誘導を始めます。入換合図の信号を送ると、機関士は再びマスコンのノッチを入れてエンジンを回しますが、今度は高回転にはせず低速段のままゆっくりと動かします。
「あと5m、3m、1m・・・止まれ、止まれぇ」
残り1mのところで再び停車させると、こんどは「ちょい後、ちょい後」と微速で動かす指示を送ります。そしてディーゼル機の連結器が貨車の連結器に触れ、ゆっくりとした速さ、概ね1~3km/h程度の速さで進むと、連結器同士が接触し、次いで連結器の「肘」、すなわちナックルと呼ばれる部分が、相手の「胴座」にあるナックルの基部に当たることで、解錠てこが落ちて連結器の鎖錠が完成します。
この連結作業は、機関士と輸送係双方の腕が試される場面でもあります。機関士は機関車の速度をかなりゆっくりと徐行させて連結させますが、僅かでもスピードを出しすぎたり、ブレーキ操作が遅れてしまうと「ガシャン」と相手の車両に衝突させるような状態になります。この程度で車両や連結器が壊れることはありませんが、コンテナに積んである貨物に衝撃が加わり、中には荷崩れや破損を起こすケースもあるのです。
もっとも腕のいい機関士は、微速で進めながら自車と相手の連結器の距離感を掴んでいます。そして、「カシャン」と軽い音がすると同時にブレーキ操作をして車両を止めるので、貨物の荷崩れや破損といったこともなく、周囲への騒音も最小限に抑えることができます。
また、輸送係も連結器同士の状態を見ながら、確実な誘導合図をすることが求められます。連結と同時に「止まれ」の合図を送ってしまうと、機関士のブレーキ操作が遅くなってしまうので、連結器が触れ始めた段階で停止の合図を送る職員もいました。また、合図が早すぎても駄目なので、このタイミングが非常に難しいのです。
連結器が無事につながると、「連結、オーライ」と作業が完了した合図を無線機で送ります。
ここで、機関士は緊張を解くことができますが、輸送係はそうはいきません。連結器がしっかりとつながっているかを確かめるために、連結器のナックル部を手で動かします。問題がなければナックル部は開くことはありません。そして、ブレーキホースをつなげると、その根本にあるコックを開いて、機関車から貨車へブレーキ用の空気を送り込むのです。この時に、一気にコックを開くことはしません。そんなことをしてしまうと、機関車と貨車ではブレーキ管に空気圧の差があるので、少しずつ流し込むように開けます。とはいえ、あんまりゆっくりし過ぎても駄目なので、手早く済ませなければなりません。
連結器の鎖錠もでき、ブレーキ管の連結も終わると、入換用ディーゼル機と貨車の準備が終わります。
《次回へつづく》※この稿、次回は11月12日(水)に掲載予定です。
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