《前回からのつづき》
2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)でも、川崎市は災害廃棄物輸送用に保有するコンテナを被災地に貸し出しました。また、2016年4月14日に発生した熊本地震でも、同様に災害廃棄物を引き受け処理をし、さらに2024年1月1日に石川県能登半島で発生した能登半島地震でも、災害廃棄物の受け入れのために専用コンテナを差し向け、2025年現在もその処理を続けています。
いずれも長距離の輸送になりますが、やはり鉄道の貨物輸送の利点を最大限に活用しつつ、被災地への支援として行われました。
このように、日常の生活廃棄物の鉄道輸送だけでなく、災害時に大量に出される災害廃棄物の引受と処理において、その利点と能力を最大限に発揮することで、被災地支援の在り方の一つとして確立できたと言えます。また、これを実際に輸送することを担うJR貨物は、列車の輸送計画や機関士の運用のやりくりなど、様々な面での支援をしました。運行する列車が走る本線を保有する旅客各社もまた、このような災害時における支援をするため、ダイヤ設定などの運行に関わる部分で、特段の配慮をしたといえます。
2025年10月で、「クリーンかわさき号」は運行開始から30年を迎えました。この間いくつかの変遷はあったものの、普段は150万市民の生活環境を守るために、大規模な災害時には被災地支援として、廃棄物を効率よく輸送し続けてきました。
廃棄物を鉄道で輸送するという、それまでの鉄道史にはなかった、ある意味常識を破ったこの列車は、「静脈物流」という鉄道貨物輸送の新たな分野を切り開いたパイオニア的な存在だと言えます。
この「静脈物流」という新たな可能性に気づいたJR貨物自身が、その後新たな分野として開拓を進めました。

「静脈物流」という新たな貨物輸送の分野を切り開いたことにより、特定の廃棄物を鉄道で輸送することも始められた。特に管理が厳しいポリ塩化ビニフェルは、その処理が可能なところが国内でも数カ所と限られている。そのための輸送方法が課題になり、長距離を安全かつ確実に輸送する方法として、鉄道がその役割を担うようになった。しかし、発がん性が高いため他の貨物と同じコンテナを使うことが禁忌とされたため、JR貨物は専用コンテナとしてW19F形を製造し、北海道室蘭市にある処理場への輸送に供した。基本的な構造は一般貨物輸送用の19F形と同じであるが、一目でPCB輸送用と識別できるようにコンテナ本体は白色を地色にし、JRFマークなどの標記類はコンテナレッドにする「反転色」を採用した。扉に表示された形式・固有番号の上には黄色次に黒色で○とその中に「環」と書かれた識別シールも貼付されていた。(©プリンスドラゴン, CC BY 3.0, via Wikimedia Commons)
発がん性が強く、厳重な管理の下で廃棄処理することを義務づけられたPCB(ポリ塩化ビフェニル)は、専用のコンテナを使って輸送されています。JR貨物が保有するW19F形コンテナは、通常のものとは異なり本体は白色に塗られ、JRFマークなどは赤紫色(コンテナレッド)で描かれているなど「反転色」を使うことで明確に区別ができるようになっています。
このように、今日では建設残土や産業廃棄物など、あらゆる廃棄物が鉄道で輸送されるようになりました。トラックドライバー不足の問題もあるでしょうが、何よりも大量輸送に最も適し、しかも排出される二酸化炭素の量が少ないという点でも、その意義は大きいものと言えます。
2025年現在、生活廃棄物を焼却処理した際に出てくる焼却灰の鉄道輸送は、川崎市だけでなく東京都などにも広がっています。東京都の特別区の廃棄物の集収・処理を担う東京二十三区清掃一部事務組合は、処理場で焼却した灰を資源化する技術を確立し、これを鉄道によって輸送しています。川崎市とは少し異なりますが、廃棄物を輸送するという点では大きく変わらないといえるでしょう。これも、川崎市が始めた「静脈物流」があってこそ実現したことだといえるのです。
筆者が鉄道マンだった頃、このような廃棄物をコンテナに積み込んで貨物列車で輸送するなどという発送は皆無でした。それどころか、捨てるものをコンテナに積んで運ぶなどという発想は、冒頭にもお話したように「非常識」な事だったのです。それが、筆者が貨物会社を退職した翌年にこのような輸送を始めるなど、全く予想もしていなかったことでした。
筆者と一緒に仕事をしたことのある現役の鉄道マン曰く、この列車を指して「ゴミ列車」と呼んでいるようですが、「クリーンかわさき号」は鉄道貨物輸送の常識を打ち破っただけでなく、市民の生活には欠かすことのできない役割を担い、ときに大規模災害時の頼れる存在として、今後も走り続けていくことでしょう。
今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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