旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

峠に挑んだ電機たち 第3章 今も残る補機運用 川の水を分かつ安芸国の隘路・瀬野八【10】

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《前回からのつづき》

 EF60形からEF67形への改造は非常に大掛かりでした。種車であるEF60形は抵抗バーニア制御で、制御装置は電空単位スイッチという旧型電機以来の手堅い方式でした。しかし、瀬野八の補機とするにはトルクが強く低速であることや、粘着力に不安を残していました。特に抵抗制御では主抵抗器を直列、並列をつなぎ替えながら電圧制御をしますが、この回路のつなぎ替えでは大なり小なり電圧に差が発生してしまいます。そして、この電圧の差はそのまま主電動機に影響をあたえ、さらには動輪軸に回転差を生じさせてしまうのです。そのため、直並列のつなぎ合わせで電圧が変化すると、急勾配では動輪軸が空転を起こす恐れがあったのでした。

 そこで、国鉄は交流機のように電圧を連続で制御可能で、下り坂を回送列車として運行するときに回生ブレーキを使うことができる方法として、電気機関車として初めて電機子チョッパを採用しました。

 電機子チョッパ半導体素子の一つであるサイリスタ素子を使った制御方式で、抵抗制御のように直並列のつなぎ替えがなく、電圧差も生じないため連続した滑らかな電圧制御ができます。また、制御回路に抵抗器がないので、電気エネルギーを熱エネルギーに変えることもないので、取り入れた電流はほぼ全て使うことが可能なので、エネルギー損失を軽減させることができます。

 そして、電圧を連続で制御できることは、同輪軸の粘着力も高くなるので、空転を起こすことも抑えられます。何より、電機子チョッパ回生ブレーキを使うことができるため、トータルの消費電力は抵抗制御の車両と比べてかなり抑えることができるのです。加えて、抵抗制御では直並列を繋ぎ変えるスイッチがあるため、機械的な動作をする部品を使っていました。電機子チョッパではこれらをサイリスタ素子で行うので、機械的な動作部がなく保守の簡略化も実現できました。

 その一方で、電機子チョッパは非常に高価というデメリットがありました。そのため鉄道事業者にしてみればおいそれと手が出せるものではなく、国鉄が製造した電車としては201系と203系に留まりました。また、私鉄では地下線内での発熱による温度上昇を抑えることを目的に、帝都高速度交通営団営団地下鉄)が6000系7000系、8000系に積極的に採用したほかは、東京都交通局京都市交通局阪神電鉄がごく一部の車両に採用した程度と少数派でした。

 

EF67形に採用された電機子チョッパ制御は、国鉄では非常に珍しい存在だった。そもそも電機子チョッパ制御に使うサイリスタ素子自体が高価なものであり、財政難にあえぐ国鉄にとっては安易な大量生産できない代物でもあった。抵抗制御と比べて格段に効率よく電気を制御でき、さらに回生ブレーキも使えるなどトータルでの電力消費量は比べものにならないくらい抑えることが可能だったが、その高価さ故に201系と203系電車に搭載されただけで終わり、以後は抵抗制御に界磁位相制御の回路を付加することで回生ブレーキを使うことができる、界磁添加励磁制御に移行した。(出典:写真AC)

 

 このように採用した例が少なく、そして高価であるにも関わらず、国鉄EF67形に電機子チョッパを使うことにしました。

 その理由として、電機子チョッパは電圧を連続制御できるため粘着力を高めることができ、空転を起こしにくいことが急勾配で重量のある列車を押し上げるのに最適だったからでした。また、山陽本線は列車密度が高いため、下り回送列車として瀬野八を降りるときに回生ブレーキを使うことが可能で、全体の消費電力を抑えることができることで、運用コストの軽減を実現できるからだと考えられるでしょう。

 加えて、EF67形は1,200トンという重量列車を単機で補助することを前提としていました。EF59形では重連で補機運用に就くことが前提で、その分だけ機関車の所要数が多くなります。また、保守管理の手間も倍になるため、運用コストも高くなってしまいます。そのため、EF61形200番台では単機での運用を目指しましたが、押し上げる力が過大であったため、急制動をかけると横圧による座屈脱線事故を起こしてしまい、重連運用は禁忌とされてしまいました。EF67形はこの問題を抜本的に解決することを目指したため、電機子チョッパ制御を採用したのでした。

 また、電機子チョッパは主電動機に直巻電機子電動機を使うことができました。このことはEF67形の改造で非常に大きな意味があり、種車のEF60形が搭載していたMT52形主電動機をそのまま使えたのです。一方、多くの私鉄が採用した界磁チョッパは、回生ブレーキを使うことができますが、主電動機は複巻電動機を使うことが前提であるため、主電動機の載せ替えなど改造コストがかさむ他に、電動機のブラシの摩耗が激しく、その点検や交換を頻繁に行わなければならないため、検修職員の負担を大きくすることから採用されませんでした。

 このように、EF67形は国鉄の直流電機としては唯一、電機子チョッパ制御を採用した車両となったのでした。

 

《次回へつづく》

 

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