《前回からのつづき》
1970年代の後半に入ると、冬季の厳しい気象条件の中で運用が続けられてきたキハ82系も、いよいよ老朽化が進んでしまい、損耗が激しくなるとともに故障を頻発させるようになりました。もともと酷寒地仕様ではない車両を無理して使い続けていたのですから、仕方のないことだったといえるでしょう。
加えて、キハ82系の基礎設計は1960年に遡ることができます。当時としては最良の接客設備だったとしても、時代の流れとともに陳腐化していきました。特にDMH17系エンジンの非力さに由来する車両重量を極力軽くする設計は、至るところでそれがなされていました。一例を挙げるなら、二等車=普通車の座席がそれにあてはまるでしょう。キハ82系の座席も軽量化をする対象だったようで、背もたれはある程度の厚みがあり、裏面は座席のモケットが貼られていました。しかし、キハ82系では背もたれもできる限り薄くされ、裏面はモケットが貼られずスチール板が露出し、申し訳程度のテーブルが取り付けられていた程度だったのです。
また、この間、国鉄の気動車用エンジンはそれなりに進歩を遂げていました。戦前に基礎設計がされたDMH17系から、出力を大幅に引き上げて500PSを実現したDML30系、そして小出力用としてこれを半分にしたDMF15系が実用化されていました。DML30系はキハ82系の後継となる特急用気動車のキハ181系に搭載され、冷却系に問題を抱えながらも、気動車の高出力化を実現させていました。また、DMF15系はキハ40系に搭載され、全国の非電化区間のローカル列車で活躍し、DMH17系に代わる国鉄気動車用エンジンの標準形式としての地位を確立しつつあったのです。

排気量と燃料消費量の割には200PS程度の出力しか出せないDMH17系エンジンは、高速で長距離を走る特急列車の運用には不向きだった。加えて排気管の過熱という弱点を抱えていたため、しばしばこれに起因する故障も起こっていた。そのため、より特急列車の運用にも耐えうる強力なエンジンが求められ、500PS級の出力をもったDML30系が開発されることになる。この強力なエンジンを手に入れた国鉄は、キハ181系を製造して非電化区間の特急列車に充てることになる。しかし、キハ181系はキハ80系と同様に温暖な本州以南での運用を想定していたため、北海道に配置されることはなかった。(©spaceaero2, CC BY 3.0, via Wikimedia Commons)
このように、気動車に関連する技術は発展していった中で、老朽化が激しく陳腐かも否めない1960年代のキハ82系を置き換えないという手はありませんでした。また、実際に運用をしたり検修をしたりする現場サイドも、早期に新型車への置き換えを熱望していたことは想像に難くありません。
こうしたことが背景となり、国鉄は新たな特急用気動車を開発することにしました。新型気動車は、特に冬季の厳しい気候で、その中を600km〜700km、時間にして10時間前後を走り続けるという過酷な条件という、北海道での運用を前提としたキハ183系が1979年に試作車が落成しました。

500PS級の出力をもった強力なエンジンであるDML30系が開発されたことにより、北海道の過酷な環境の中で運用が続けられてきたキハ80系の置き換えに目処が立つようになる。キハ183系はキハ181系と同じエンジンを搭載しながらも、冷却系の欠点に改善を加えつつ、北海道特有の冬季の気象環境にも対応できる設計が各所に施された。先頭車となるキハ183形は、485系などの特急形電車を想起させるデザインであったが、ボンネット部分は傾斜がつけられた「スラントノーズ」とし、走行中の着雪を可能な限り抑える工夫がなされているほか、非貫通構造にすることで乗務員室内に冷気や雪が入り込まない配慮がされているなど、徹底的な耐寒耐雪構造となった。(©Spaceaero2, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons)
キハ183系は前述のように、過酷な運用条件となる北海道で使うことを前提としたため、従来のキハ82系やキハ181系とは大きく異なる思想で設計されました。冬季は酷寒の中を、水気を含まない北海道特有の粉雪を舞い上がらせながら高速で走行するため、先頭車はキハ81系以来のボンネットスタイルをもった先頭車になりました。
とはいっても、キハ81形のような大型の機器をこの中に収納することが目的ではなく、舞い上がる雪を車体に着雪させたり、車内に舞い込んでこないためのもので、その形は平面で構成された角ばったもので、スラント形状にすることにより着雪を可能な限り防ぐというものでした。特に、冬季に雪が降りしきる中を走行するため、接近する列車を視認しやすいようにノーズ部に左右1個ずつ、そして運転台窓上にも2個、全部で4個の全部標識灯を設けました。そして、前面には大型のロール式ヘッドマークも設置され、列車の愛称や種別を見やすくしました。
前位側床下には発電用のDMF15HSA-Gを1基、後位側には走行用のDMF15HSAを1基それぞれ搭載し、発電用エンジンの冷却系機器は運転台と客室の間に設けられた機器室に設置され、側面は給排気用のルーバー窓が取り付けられる形態は、従来の特急用気動車と同じでした。
中間車となるキハ182形とキロ182形には、走行用のDML30HSIを1基搭載し、台車は動力台車と付随台車をそれぞれ1個ずつ装着する、1エンジン車の標準的な走行装置の構成となりました。
冷房装置や室内の照明などといった接客設備の電源は、他の特急用気動車などと同じく、1組の発電セットで複数の車両の電源を賄う方式でした。キハ183系にはキハ183形のほかに、発電セットを搭載した中間車であるキハ184形も用意されました。従来のキハ82系は先頭車が貫通構造であるため、電源を賄う発電セットが不足した場合は、中間にキハ82形を連結して対応していましたが、キハ183系は先頭車が非貫通構造であるため、中間に連結することは不可能でないものの難しいものがありました。
そこで、発電セットを装備した中間車となるキハ184形を新たに設定したのです。このキハ184形は、走行用のDMF15HSAを1基と、発電用のDMF15HSA-Gを1基搭載し、発電用エンジンの冷却系機器を前位側の客用扉デッキ部と客室の間に設置され、車体側面にはやはり給排気用のルーバー窓を設けるとともに、屋根上には冷却ファンも取り付けられていました。
《次回へつづく》
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