旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

鉄路探訪記:湘南モノレール江の島線【5】

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《前回からのつづき》

 

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 片瀬山駅を観察し終えて、再び駅のホームに立った。といっても改札口があるわけでもなく、自動改札機すらない。数段の階段を上るとそこにホームがあるという構造は、地方私鉄の小さな駅を彷彿させるものだが、ホームから下を見るとそこにはレールがなく、代わりに頭上に大きな軌条の桁が見える。

 

片瀬山から一気に急勾配を駆け上がる途中、海側には丘陵地の向こうに相模湾の海が見えてくる。都心の様相を呈している大船、重電メーカーの工場がある湘南町屋、高級住宅地の西鎌倉など、車窓の変化に飛んでいるのも湘南モノレール江の島線の楽しみの一つ。(片瀬山ー目白山下 2011年8月10日 筆者撮影)

 

 列車が来るまでホームから見える景色も観察してみたが、住宅地の向こうには相模湾の海が遠くに見えた。もう8月も10日。海水浴にはもってこいのシーズンだが、時計は15時半近くを指しているにもかかわらず、太陽は西に傾きはじめ光もオレンジ色がかっていた。暦の上では立秋を過ぎ、気候こそまだまだ暑く蝉もなく夏まっただ中だが、やはり太陽は暦に正直だ。

 やってきた下り列車はまたも5000系。しかし、帯の色が違う。5000系は湘南モノレール江の島線の新型車だが、編成ごとに色の違う帯を入れているようで、この点では乗る楽しみがあると思う。とはいえ、やはり銀色のボディーに赤い帯を巻いた500形のようなのが湘南モノレールというイメージを持つ筆者は、やはり確実に歳を重ねていることを感じさせる。

 片瀬山駅を発車すると、すぐに左急カーブを通過する。ここでほぼ直角に進路を変えたかと思うと、再び緩やかな右カーブを通過する。こうした線形にも、狭隘かつ急峻で複雑な地形の上に造られていることがわかる。そして右側の窓には、藤沢の市街地が一望できる。

目白山下を出るとすぐにトンネルに入り、そこを抜けると山側の窓には藤沢の違い地を見ることができる。宅地化も進んでいて、湘南という地名からイメージする後継とは程遠いが、首都圏のベッドダウンを形成している町並みだ。写真では見えにくいが、遠くには湘南台屋の丘陵地も見える。(目白山下ー湘南江の島 2011年8月10日 筆者撮影)

 

 程なくして目白山下駅に到着する。ここも島式1面2線の構造を持つ交換可能な駅だ。ほとんど山の中にある駅という趣で、駅の周囲には人の手が入っていない雑木林になっている。そして、駅のすぐ先にはトンネルの暗闇が口を開けていた。

 上り列車と交換すると、すぐに扉が閉められて発車する。分岐器を渡り終えるとともに、トンネルの中に入っていき暗い中を走っていく。それもつかの間、再び眩しい光が車内に差し込んだかと思うと、すぐに減速して建物の中へと列車は入っていき、終着の湘南江の島駅に到着する。

湘南モノレール江の島線の終着駅、湘南江の島駅。単頭式1面1線の線路配置で、列車の交換は一つ手前の目白山下ですることになる。神奈川でも有数の観光地の一つである江ノ島への入口になる駅でだが、実際には江の島へはここから数分から十分程度歩かなければならない。道路を挟んで江ノ島電鉄江の島駅もあるが、やはり同じである。もっとも近いのは小田急江ノ島線片瀬江ノ島駅で、江の島を訪れる人はこちらを使うほうが多いようだ。この日、ここで降りたのはおそらく地元にすくであろう人で、観光客らしい人の姿は見られなかった。モノレールの駅らしく、かなり高い位置にホームがつくられているが、これは丘陵を抜け出たところにあるため、エスカレーターで3階部分まで上がらなければならなくなってしまったが、その分だけ見晴らしも良い。(湘南江の島駅 2011年8月10日 筆者撮影)

 

 頭端式の駅は、地表から非常に高い場所にあり、ビルの4階にホームがある。これは目白山下駅からトンネルのある辺りが最も高い反面、トンネルの出口から急斜面になるという地形のためで、しかも駅はこれより海岸よりには、地権者や江ノ島電鉄の反対で建設できないため、こうした特異な構造の駅になっている。もちろん、駅のホームからの眺望はよいのだが、降車ホームでいつまでもいると係員に催促されてしまう。実際、筆者も記録としての写真を撮影していたが、どことなく背中に視線を感じて振り返ってみると、乗務員の視線があたっていた。江の島という観光地なので、それほど咎めるものではなかったが、そうとはいえ何となく急かされている感じがしたのは気のせいだろうか。

 湘南江の島駅は有人駅で、自動改札機もあった。そこから地上まではエレベーターかエスカレーター、または階段を使うことになる。この日は上りのエスカレーターは運転していたが、下りのエスカレーターは止められたままになっていた。この夏は、東日本大震災の影響で起きた福島原発事故と、それがもとで始まった各地の原発の停止による電力不足で、節電が叫ばれている。もちろん筆者も節電に協力しているが、街を歩いているとこの夏はこうした節電の光景がよく見られた。もちろん、こうした取り組みは大切だと思うが、利用者の少ない駅で上りのエスカレーターが運転しっぱなしというのは、少々もったいない気がした。

この車窓だけを見ると、モノレール、それも観光地である江の島に通じる路線とは思えないほど、住宅が軌道近くに迫っている。観光客輸送を担う性格もあるが、沿線にはこのような住宅地、大手電機メーカーの大規模工場など僅かな距離の間に様々なものがあるため、通勤輸送や生活の足としての性格も色濃くなっている。筆者も若い頃、湘南モノレール江の島線を毎日のように利用した時期があったが、それは観光ではなく通勤の移動手段としてだった。外回りだったので、ときに江ノ島電鉄で江の島を周って乗るなど、わざわざ遠回りをしたこともあったが、仕事の中でちょっとした息抜きにもなった。とにかく車窓の変化が楽しく、そして急勾配や急曲線が点在する険しい線形であるにも関わらず、モノレールの車両はグイグイと走った。日本ではモノレールといえば跨座式が主流になっているが、懸垂式の一つであるサフェージ式も負けてはいないと感じるととこに、モノレールそのものの良さを知ることができたといえる。(2011年8月10日 筆者撮影)

 

 地上に降りると、むっとした暑い空気が体を包み込んだ。とはいえ、日も西に傾きはじめ、オレンジがかった光が江ノ島の街を照らしている。交差点の向こうには踏切が見えていて、そこには江ノ島電鉄江ノ島駅がある。こちらはかなりの利用があるようで、遠くからでも駅前に人が多くいるのがわかった。

 観光地江ノ島を終着にもつ路線の割には、通して利用者が少ないような気がした。平日の日中ということもあるのだろうが、それでもどの列車にも余裕で座れるというのは、やはり少ない証左だと思う。大船駅から江ノ島にショートカットしていて、20分程度で着いてしまうのはある意味では便利だと思う。

 当初はサフェージ式モノレールの実物見本の意味合いも込めて建設された湘南モノレールは、当初は観光輸送を視野に入れてこのような場所に建設されたものの、近年では観光利用よりも通勤利用のほうに占める割合が多くなっているようだ。実際、筆者が通勤で利用していた10年ほど前もそうした傾向は強く、通勤時間帯には上下列車とも座席を確保することが難しいほどの混雑だった。

 

片瀬山へ向かう急勾配、急曲線をものともせず走る500形。湘南モノレール江の島線はこのような狭隘なところをものともせず走り、沿線の人々にとって欠かすことのできない交通手段であるとともに、工場などに勤める人たちにとっても、欠かすことのできない存在である。江ノ島への観光需要は江ノ島電鉄小田急が注目されがちだが、眺望もよく沿線の風景の移り変わりに富んでいる「空中散歩」が楽しめるのは、モノレールならではのもの。大船からほぼ直線に6.6kmの距離をわずか14分で結び、日中は7分30秒ごとに発着する多頻度運転は、山手線よりもわずかに少ないぐらいで、「駅に行けば待たずに乗れる」というのは利便性はこの上ないといえる。(西鎌倉ー片瀬山 2011年8月10日 筆者撮影)

 

沿線に住宅が多く、しかも大手電機メーカーの工場もあるなど、通勤通学輸送の割合が多くなる要素は十分にあるといえる。中には一日に5000人の利用がある駅があるが、その割には設備も簡素で地方の小駅という趣の駅もあった。とはいえ、こうした需要があるが故に、湘南モノレールもこれまでのような簡素な構造の駅のままというわけにはいかず、とりわけ交通バリアフリー法の施行は設備面での脱皮をせざるを得ないだろう。その一例が湘南町屋駅のエレベーター設置と駅舎の一部改築で、他にもこうした設備の更新が行われるだろう。とはいえ、湘南モノレールらしい雰囲気はこれからも保ちつつ、新たな装いになっていくことを期待してやまない。

終着の湘南江の島駅から少し歩くと、江ノ島電鉄の有名な江ノ島ー腰越間の併用軌道区間に行くことができる。夏の日の夕方近く、日は少し朱色にかかり西の空へと徐々に傾いて、待ちは日陰に覆われる中を江ノ島電鉄1000形が、道路のど真ん中を走っていた。道路の両脇には車が避けるようにして路肩部に寄せている。モノレールに乗って湘南江の島駅から歩くからこそ、「少し寄ってみようか」と思える光景かもしれない。(江ノ島ー腰越 2011年8月10日 筆者撮影)

 

《この稿、おわり》

 

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