旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

国鉄の置き土産 瀬戸内を渡るためにつくられた国鉄最後の新系列・213系【12】

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《前回からのつづき》

 

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 1987年の国鉄分割民営化によって設立された旅客6社のうち、名古屋を中心とした在来線と東海道新幹線を継承したJR東海は、東海道新幹線の収益が桁違いに大きいことは、多くの人が知ることと思います。その一方で、在来線は収益力が弱く、一部を除いては収益がギリギリか、もしかすると収益を確保することが難しい路線が多いといえるでしょう。

 こうした継承した在来線が厳しい環境に置かれている背景には、JR東海が継承した区間にあるといえます。

 例えば、東海道本線は東京と大阪、神戸を結ぶ日本を代表する幹線であり、日本の鉄道開通以来の歴史を有しています。また、かつては多くの長距離列車が運転され、東京と関西、さらには中国地方や九州の各地を結び、旅客輸送を支える重要な路線でした。いまでこそ長距離旅客列車はほとんど皆無になりましたが、それでも中距離を起動する人々にとって欠かすことのできない交通機関だといえます。

 その一方で、日本の物流を支えるのも東海道本線の役割の一つです。現在でも数多くの貨物列車が運転され、太平洋ベルト地帯の各都市間はもちろんのこと、北海道や東北地方と中国地方や九州の間を結ぶ貨物列車は、製品として出荷さえた消費財をはじめ、ネット通販などの小口宅配貨物に至るまで、私たちの生活にとって欠かすことのできない存在だといえます。

 

国鉄分割民営化によって、多くの車両は国鉄から継承されたものの、中には初期に製造された「古参兵」もいた。車齢が20年以上、中には30年に近づいているものもあり、それらの置換えは時間の問題とも言えた。特に東海道新幹線以外の在来線の収益が芳しくないJR東海はにとって、少しでも利益率を上げて経営基盤を盤石なものにするのは急務だった。わずかな数しか配置されなかった211系は、当時としては最新の経済的な車両であり、JR東海はこれを増備することになる。(出典:写真AC)

 

 このような日本を代表する重要な路線であるにも関わらず、分割民営化によって列車を運行する事業者も分けられてしまい、東京-熱海間をJR東日本が、熱海-米原間をJR東海が、そして米原-神戸間をJR西日本がそれぞれ継承しました。

 この東海道本線の区分けは、一見するとJR東海が最も長い距離を引き継いだので、それなりに収益が確保できると見ることもできるでしょう。一方でJR東日本は距離が短いため、収益性も限られたものと考えられるかもしれません。しかし、鉄道の営業収益は列車を運行する距離も関係しますが、もっとも影響を与えるのは輸送密度だといえます。

 東海道本線の場合、東京-熱海間は距離にすれば104.6kmしかありませんが、東京を中心とした首都圏は日本でも有数の人口密集地帯であり、その範囲は神奈川県にまで及ぶので輸送量、輸送密度ともに非常に高いのです。こうした地域にある鉄道は、通勤通学輸送は想像を超える混雑となりますが、その分だけ収益性も高まります。言い換えれば、JR東日本は継承した距離こそ短いものの、沿線には多くの企業や工場、そして住宅地帯などがあるため輸送密度は非常に高く、輸送人員もそれだけ多いので収益性も高い「ドル箱」の部分を引き継いだといえるのです。

 一方、米原-神戸間の155.8kmを継承したJR西日本にも同様のことがいえます。大阪を中心とした京阪神は、西日本の経済の中心地を抱えるとともに日本を代表する観光地の一つ、古都・京都を擁するため、通勤通学輸送に加えて観光輸送という性格も帯びています。首都圏には及ばないものの、沿線には人口が密集する地域もあるので、輸送量もそれなりに多いといえるでしょう。「ドル箱」とまではいわないものの、相応の収益性の高いところを継承しました。

 しかし、JR東海はJR東日本やJR西日本のようにはいきませんでした。

 継承した熱海-米原間の距離は341.3km非常に長く、JR西日本が継承した距離の2.2倍にも及びます。これだけの長い距離に、首都圏には及ばないまでも、関西圏に近い輸送量を確保できるのであればさほど問題にはなりません。輸送量が一定程度確保できるのであれば、収益もそれなりに上げることができ、経営的にも問題視することにはならないのです。

 

国鉄時代に京阪神と中京圏に配置された117系は、片側2扉、転換クロスシートという客室設備は、近郊形電車としては破格のサービス水準を持った車両となった。その背景にあるのは京阪神では阪急、阪神、京阪と、中京圏では名鉄と熾烈な競争があったことによるもので、サービス面は車両の設備で、そして速達性では「新快速」を運行することで対抗した。この117系は、分割民営化直後のJR東海にとっても名鉄に対抗しうる車両だったが、その数は限られたものだった。この117系の設計思想は、後に311系、そして313系へと進化していくことになる。(クハ117-310〔近キト〕 京都 2012年8月6日 筆者撮影)

 ところが、この区間は人口が比較的少なく、輸送量もそれほど多くないというのが実態でした。いや、静岡市や浜松市、名古屋市もあるではないか、という意見も出てくるかもしれません。

 これら3つの都市は、人口が一定程度以上の政令指定都市です。人口が多いということは、鉄道利用による輸送量の増加や収益性の確保が期待できるといえるでしょう。しかし実際には、東海道本線はこれら3つの政令都市を横切るだけであり、市域にある駅は最も多い静岡市で10駅、浜松市は5駅しかなく、最大の名古屋市ですら7駅しかないのが実態です。そして、駅の数が少ないほど利用客を取り込むチャンスは少なく、名古屋に至っては市内や周辺の都市をきめ細かい路線網を張っている名古屋鉄道とも競合するなど、集客の面ではけして優位とはいえないのが実態なのです。

 このような営業的にも厳しい環境であるため、JR東海は発足直後から費用対効果を高く意識した経営方針をとってきたといえます。そうした中で、国鉄から継承した車両をできる限り早い時期に淘汰し、効率性の高い車両で統一していくといった考え方になっていきました。

 

《次回へつづく》

 

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