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国鉄最大の貨車「ソ300形」徹底解剖|154トンの巨体と自走能力に秘められた技術と歴史【2】

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2:ソ300形の驚異の構造:35トン吊りクレーンと16軸台車を備えた国鉄最強の操重車

《前回からのつづき》

 ソ300形は1966年に2両が製作されました。製造したのは日立製作所で、日立は鉄道車両はもちろんですが、建設機械など重機を製造している実績もあるので、ソ300形を製作するのに適していると国鉄が考えたといえるでしょう。

 橋桁設置用操重車としては、ソ200形がすでに運用されていました。ソ200形は、クレーンのブーム(腕)をもっとも長く延した12.25mときで扱い荷重は30トン、短い1.2mの時には70トンを扱える性能を持っていました。

 

東二工三島操機区には、橋桁設置用操重車としてソ200形が配置されていた。ソ200形は全長26,000mm、自重は130.0トンにも及ぶ弩級貨車で、橋桁を吊り下げるための頑丈なブームを備えていた。取扱荷重はブームを最長に伸ばしたときで30トンだった。しかし、この性能をもってしても吊り下げる橋桁には制約が課されてしまい、その制限内に収めるため強度が減少するのを承知で軽量化しなければならなかった。ブームには「東京第二工事局」「三島操機区」の標記が書かれている。(©シャムネコ, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons)

 

 しかし、ブームを1.2m伸ばした程度では、効率の良い施工ができるとは言い難いものがありました。そもそもクレーンはブームを伸ばすことによって重量物を高く吊り上げたり、より広範囲に移動させたりすることができます。特に橋桁設置用の操重車はブームを水平方向に伸ばすことで、重い橋桁を移動させて目的の場所に設置するので、最終的にはブームは長く伸ばさなくてはなりません。

 ソ200形は30トンまでの橋桁を扱うことができますが、橋梁を設置する線区によっては、そこを走る列車の重量が重く速度が速いと、より頑丈なものを使う必要があります。ところが、これを吊り上げる操重車の扱い荷重が低いと、頑丈な物を設置することができなくなり、その結果として橋桁自体の重量を減らさなければなりませんでした。

 そこで、ソ200形よりもさらに重い重量の橋桁を扱うことのできる操重車が望まれるようになり、ブームを最も長く延したときに35トンの荷重を扱える車両として、ソ300形が製造されたのでした。

 

ソ300形はその使い途のため、鉄道車両としては大物車(シキ車)に匹敵する頑丈な車体構造をもっていた。ブームを最大に伸ばした状態で35トンの橋桁を吊り下げて作業をするため、これを支える構造物も相応の強度が必要だったためである。(ソ300 碓氷峠鉄道文化むら 2025年5月4日 筆者撮影)

 

 ソ300形は頑丈な台枠の上に、大型のクレーンを搭載したものでした。一見すると車体にも見えるものは、そのすべてがクレーンを構成しているものです。クレーンのブーム部も非常に強固な作りになっているため、近くで見るとその迫力に驚かされます。いわば、台枠の上に重機自体を載せたようなものといえるでしょう。

 最大荷重35トンを扱うことができるブームも太く頑丈にできていました。そしてそれを支える台枠も含めた全長は27,500mmと非常に長く、大物車(シキ車)同然の構造をしていました。

 35トンを扱うことのできるクレーン部は、仰角をとることができません。一般的なクレーンは、水平である0度から仰角をとって70度程度まで引き上げることができますが、橋桁設置用のソ300形のブームは0度のまま、すなわち水平の状態でブームを伸び縮みさせるだけでした。代わりにブームは最大12,500mmまで伸ばすことができ、このときの車両全長は40,000mm=40mにも及ぶ巨大なものになるのです。

用途廃止による廃車後、碓氷峠鉄道文化むらに保存されているソ300形。写真では比較するものがないので分かりにくいが、非常に大きな車体をもった超弩級の貨車である。重量物を吊り下げるブームは、長くするほど取り扱うことができる荷重が小さくならざるを得ず、これを最大限に引き上げるためには頑丈な構造をもったものにしなければならない。それを実現すると車両の自重が嵩んでしまうことになり、同時にブームを支える構造物も頑丈にすればするほど自重が重くなってします。そのため、ソ300形は3軸台車を4基、合計で16軸もの車輪を備えていた。これは、大物車並みの構造でもある。(ソ300 碓氷峠鉄道文化むら 2011年7月18日 筆者撮影)

 

 このブームは4m範囲で旋回することもできました。クレーンで旋回範囲が4mと聞くと、大して動かないという印象をもつかもしれませんが、線路上で作業をすることが前提なので、これでも十分なものだといえます。

 一般の建築用重機とは異なりソ300形は軌道上で作業をするため、その作業空間は非常に限られた狭いものです。その空間の中で、必要以上に旋回できる構造になると、誤って旋回をしすぎて架線柱などを破損してしまう恐れがあります。

 加えて、ソ300形のクレーンのブームは、仰角が大きく取れないという特徴をもっていました。建築用のクレーン車であれば、ブームを起こして仰角をつけ、重量物を釣り上げるという動作をします。

▲ソ200形とソ300形の形式図。ソ200形はブーム最大長に伸ばしたときの取扱荷重は30トンに留まったが、3軸台車を4基、合計で12個の車輪をもっていた。ソ300形は取扱荷重をソ200形よりも5トン多くするため、ブームや車体の構造を大幅に見直したことで、車体形状も異なっていた。重量化した車体などを支えるため、台車は4軸台車を4基装着し、車輪も全部で16個と物々しいものになっていた。(出典:貨車形式図 1978年日本国有鉄道 より抜粋の上引用) 

 

《次回へつづく》

 

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