旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

湯の街へ駆けた湘南特急──80系・153系・157系が紡いだ伊豆アクセスの歴史【13】

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12.マルス導入と急行格上げが変えた伊豆優等列車:1965〜66年の愛称整理と実質値上げの実態

この記事をまとめると

1965年、マルス102の稼働と「みどりの窓口」開設に合わせ、伊豆方面の列車名は「あまぎ」へ統合され体系が整理された。翌1966年には残る準急がすべて急行へ格上げされ、所要時間や設備はほぼ変わらないまま料金だけが大幅に上昇。急行「伊豆」と「あまぎ」は停車駅も近く、157系と153系の車両差のみが実質的な違いとなり、国鉄の実質値上げ政策が鮮明になった。

 

《前回からのつづき》

 マルス101が稼働した当時は、今日では馴染みのある「みどりの窓口」は開設されてなく、指定席券の発見と購入ができる駅は限られていました。しかし、新幹線の2−3アブレストに対応させた改良型となるマルス102の開発と稼働とともに、全国の主要駅172駅と日本交通公社(現在のJTB)の営業所83か所に端末を配備し、駅の出札窓口は「みどりの窓口」として1965年9月から運用が初められたのです。

 このマルス102の稼働によって、在来線で運転されている列車の愛称を整理する必要があったと考えられます。同じ運転区間でも、列車名が異なるとその処理が煩雑になることは十分に考えられることであり、オンライン化とともに注文から発見までの時間を短くし、エラーなどの処理のミスによる誤発券を防止する観点からも、列車名を整理統合することは欠かすことのできなことだったといえるでしょう。

 これによって、東京−伊豆急下田間で運転されていた「おくいず」は「あまぎ」に、「いこい」は「いでゆ」に統合され、定期列車の「いでゆ」は「あまぎ」に統一されるとともに、不定期列車として「いでゆ」が残される形になったのです。すなわち、定期列車としては「あまぎ」、不定期列車は「いでゆ」として伊豆方面の列車の愛称はシンプルになったのでした。

 この整理統合によって、定期列車としての急行は「伊豆」、準急は「あまぎ」とされ、不定期列車の準急は「いでゆ」となり、「伊豆」2往復と「あまぎ」5往復半の体制になったのでした。

 

▲1959年当時の三等車利用時の運賃と料金。2026年の貨幣価値に換算しても、準急料金はリーズナブルで庶民にも手が届き使いやすいことが窺える。

 

 ところが、その翌年となる1966年3月に、再び伊豆方面の列車群に“激震”が襲いかかりました。列車名の整理統合によって急行「伊豆」と準急「あまぎ」になったのが、残っていた準急をすべて急行へと格上げになったのです。すなわち、東京から伊豆方面へ向かう優等列車はすべて急行となり、当然のことですが料金も準急料金から急行料金へと変わりました。

 

▲1966年になると、国鉄は運賃や料金を相次いで値上げに踏み切り、さらには準急の急行への格上げを行った。これにより、運賃はそれほどの差はないものの、料金では準急と比べて2倍の値段になった。合計でも倍近く高くなり、高度経済成長期という経済実態から貨幣価値が変化していたことを考慮しても、高くなっている。

 

 準急から急行へと変わったことで、停車する駅も少なくなり、列車のスピードも上がったことで所要時間も短くなったと考える方もおられることでしょう。列車種別が格上になるということは、そうした要素があってのことと捉えるのは自然だといえます。しかし、実際には大した変化はありませんでした。

 一例を上げると、準急「第1あまぎ」は東京12時57分発、熱海14時31分着で所要時間は1時間34分でした。急行格上げ後の「第1あまぎ」は東京12時10分発、熱海13時45分着で所要時間は1時間35分と、準急時代よりも1分延びてしまいました。これだけ見ても、急行になったからといって速達性が向上したとは言い難く、逆に僅かながらも延びています。

 また、国鉄の優等列車の料金は、列車の設備に対しての対価という側面を持っていました。しかしながら、準急時代から153系で運転されており、急行になったからといってより設備の優れた車両に替えられたわけでもありませんでした。

 つまり、所要時間は大して変わらず、しかも運用に充てられる車両もそれまでと変わらない、それでいて料金だけは高くなるという、実質的な値上げだと言われても仕方のない施策だったといえます。

 例えば、1966年の時点で東京−熱海間では二等(旧三等)乗車券の運賃は360円、準急料金は101km以上なので200円、合計で560円でした。これが、急行格上げによって運賃は据え置きとなるため360円でしたが、急行料金は倍額となる400円となるため、合計では760円と200円高くなってしまいました。これを2026年の貨幣価値に換算すると、準急であれば物価ベースで2690円、急行では3650円と約1000円も値上げになったのです。

 これ以後、国鉄はこの手の方法で準急を急行へ、急行を特急へ格上げして、実質の運賃値上げを頻発させることになります。一見するとアップグレードしたように見せますが、実際には停車駅はあまり変わらず速達性も僅かに向上させただけ、車両の設備は急行から特急へは使われる車両も異なるのでグレードも上がりますが、庶民にとって手の届く料金設定だった列車が減らされ、乗りたければ高い料金を払って特急に乗らざるを得ないといった、国民の事情をあまり考慮しない国鉄の事情だけを考えた改定を続けることになります。

 

153系は元々準急列車として運用することを前提としていたため、車内はボックスシートを並べた、一般形客車と同等の設備を備えていた。冷房装置もなく、当時としては当たり前のものだったが、先行して急行に格上げされていた「伊豆」は、回転式クロスシートと冷房装置を備えた上級の設備をもっていた157系で運行されていたため、急行格上げ後の「あまぎ」とは同じ料金を払いながら受けることができるサービスで大きな差が開いてしまった。この不整合を是正するため、「あまぎ」が特急へと格上げ、「伊豆」は急行のまま153系に置き換えられることになる。(©Shizutetsukikanshi, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons)

 

 このように、実質の値上げに等しい準急を廃して急行へと格上げされた伊豆方面の列車群は、「伊豆」と「あまぎ」では、停車駅はほとんど同じで所要時間も変わらず、違いといえば「伊豆」は急行形としてはグレードが高い設備をもつ157系、「あまぎ」は一般的な客室設備の153系と、運用に充てられる車両が違うぐらいでした。

 この年の10月に新たな列車が加わります。常磐線の平から伊豆急下田まで通しで運転される臨時急行「常磐伊豆」が設定され、さらに翌年には修善寺行きも併結されて、平−東京−伊豆急下田・修善寺が運転区間となりました。

 このように、東海道新幹線の開業や料金制度の改定などによって、波乱に満ちた伊豆方面の列車群は、この後さらなる荒波が待ち受けていたのでした。

 

《次回へつづく》

 

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