3.なぜ奈良線と関西本線は非電化のまま冷遇されたのか──国鉄の投資優先順位と私鉄王国・関西の構造
この稿では、京都と奈良という日本を代表する観光都市を結びながら、なぜ奈良線は“例外的に”非電化のまま取り残されたのか──その理由を、国鉄の組織文化と関西私鉄との激しい競合という二つの側面から探っていきます。
《前回からのつづき》
■ 京都は政令指定都市でありながら、奈良線は投資が後回しにされた
その一方では、京都市は前述の通り政令指定都市であり、周辺から京都の都心部への通勤通学の需要も期待できます。このような多くの需要が期待できるものの、国鉄は奈良線の存在を忘れたかのように、設備投資などをほとんどされないままの状態が長く続きました。
■ 国鉄は「自社建設路線」と「国有化路線」で扱いが大きく違った
その理由として、奈良線は京都方のごく一部を除いて、奈良鉄道という会社が開業させ、後に鉄道国有法によって国有化された歴史をもっていることが考えられます。国鉄は自らが建設し開業させた路線には新型車両を投入するなど、積極性のある設備投資をする一方、鉄道国有法や戦時中の陸上交通事業調整法によって国有化された路線には冷淡であることが多く、都心部で使い古された車両を送り込んだり、駅などの施設も改築することもなく、古いものを補修しながら使い続ける傾向がありました。
もう一つの理由として、奈良線の立地が関係していると考えられます。関西圏は国鉄と私鉄が激しい競合関係にあり、常に乗客の奪い合いを繰り広げてきた歴史をもっていることは、多くの人が知るところでしょう。特に幹線である東海道本線は、京都−大阪間で阪急京都線や京阪本線、大阪−神戸間では阪急神戸線と熾烈な争いもあって、新快速といった速達性の高い列車を運転するなど、他の地域では見られない施策を実施してきました。
◆私鉄王国に抗えなかった古都の鉄路:奈良線・関西本線の冷遇が生んだ「通勤形気動車」の宿命
実は奈良線も、私鉄と競合する路線の一つと言えます。同じ京都から近鉄京都線が並行するように走り、京都の近郊では京阪本線とも競合しています。しかしながら、国鉄は奈良線への投資を後回しにした結果、利用客は近鉄や京阪に取られたままの状態になり、単線で非電化、しかも運用されている車両はキハ10系やキハ20系といったローカル線向けのものばかりで、とても私鉄に太刀打ちできる状態ではありませんでした。

一方の近鉄京都線は、電化複線という設備を最大限にはっきし、観光輸送だけでなく地域輸送にも対応するため、運転頻度も高くして需要に応えていた。観光輸送としても京都と奈良を結ぶという地の利を活かし、特急も運転されるなどして多くの人が利用していた。他方、非電化単線、ローカル線の扱いだった国鉄奈良線は、近鉄京都線にとってはライバルにもならず、古都同士を結ぶ交通機関としては独壇場であったともいえる。(©khws4v1 from Hiroshima, Japan, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons)
そしてもう一つ、関西圏に大都市近郊の路線でありながら、非電化のまま取り残されていたのが関西本線です。特に湊町(現在のJR難波)−加茂間は大阪市内や八尾市、生駒市といった都市部を走る路線で、いまでこそ大和路線という愛称がつけられ、大阪環状線から直通する大和路快速が運転されるなど、大阪から古都・奈良へ向かう観光輸送において重要な位置を占めていますが、奈良線と同様に冷遇された歴史をもっていました。
《次回へつづく》
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