10.キハ38形の技術と設計思想──キハ35系から進化した通勤形気動車の特徴と軽量化の工夫
《前回からのつづき》
■ キハ38形の設計思想と技術的特徴
1986年に登場したキハ38形は、従来の通勤形気動車であるキハ35系の構造を踏襲しましたが、キハ35系が登場したから既に20年以上の年月が経ち、この間、鉄道車両の製造技術も発達していたことから、当時の最新技術を採り入れて設計されました。
車体は乗降用扉を3か所設け、幅1300mmの両開き戸であることはキハ35系と同じでした。しかし、キハ35系は前述の通りステップを3か所設けるために台枠を切り欠く必要があるため、その強度を保つには一般の鉄道車両にあるような戸袋部を設置することが困難であり、止むなく乗降用扉は吊り戸式にして台枠強度を維持しました。
キハ38形は技術の進歩によって戸袋部を設けてもある程度の強度を確保することが可能になったことから、キハ35系のような吊り戸式ではなく一般的な引き戸になりました。これによって、吊り戸式で生じる隙間風の侵入を防ぐことにもつながり、特に冬期における車内の保温性を向上させることにもつながりました。

キハ38形はキハ35形のうち老朽化が激しい車両を置き換え、新会社へ可能な限り負担を減らすことを目的に製造された。基本的な設計思想はキハ35形に準じているが、当時の最新技術を投じられたため、キハ35形では台枠切り欠きを減らすために乗降用扉は外吊り戸という珍しい構造になった。一方、キハ38形は車両自体の軽量化とともに、台枠強度を保つ設計手法が取り入れたため、通常の戸袋式引き戸に変わった。(出典:写真AC)
■ 軽量化への取り組みと普通鋼採用の理由
このように、台枠の強度を確保しながら吊り戸式ではなく一般的な戸袋のある引き戸構造にするために設計に腐心した一方、車両重量の軽量化にも配慮されていました。
そもそも鉄道車両の重量が重いほど、電力や燃料の消費量は多くなることはご存知のことでしょう。自動車もそれは同じで、軽自動車であれば僅か660ccの排気量しかない小型エンジンでも十分な走行性能を得ることができますが、このエンジンを極端な話、大型高級車に載せてしまうとたちまち走りが悪くなるどころか、無理に走らせようとすれば燃料を大量に消費してしまいます。
これは鉄道車両も同じことがいえるので、可能な限り運用コストを減らすためには車両重量を軽くしようと努力が積み重ねられていました。国鉄も1980年代に入る頃に設計した車両は重量を減らす工夫がなされており、アルミニウム合金は使われなかったものの、205系や211系といった従来の国鉄車両にはないステンレス鋼を使った軽量車両を量産しました。
キハ38形もそうした軽量化はするものの、205系などのように大量に生産する計画がなかったことや、車両強度の計算精度の技術が大幅に向上したことにより、普通鋼でも肉厚を薄くしつつ十分な強度を得られることが可能になったため、従来通りに普通鋼を使って車体が製作されたのでした。
■ コスト削減の工夫:窓・内装・座席
同じ時期につくられた国鉄車両と同じく、製造コストを可能な限り抑えるための工夫が凝らされました。
客室の窓もその一つで、従来の国鉄車両であれば独自に設計した制式品であるユニットサッシを使っていましたが、キハ38形では民生品であるバス用のユニットサッシを使いました。その窓の間にある柱部は黒色に塗ることにより、連続窓に見えるようにするといった近代的な外観になるよう配慮されていました。
車内はロングシートを備えていましたが、その座席も簡素化と軽量化したバケット式とすることで、1人あたりの座席を明確にすることで定員いっぱいに座ることができるようにされました。一方、トイレが設置された0番台では、その部分だけにボックスシートを設置し、トイレの利用者に配慮した座席配置にしました。
客室の壁面も、可能な限り軽量化と低コストを両立するようにしました。メラミン樹脂板や着色されたアルミニウム板を使う一方、天井板もまたキハ38形用として設計・製造されたものではなく、バス用のものを流用することで低コストに配慮されました。
《次回へつづく》
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