13. キハ38形はなぜ民生用エンジンを採用したのか──DMH17・DML30との比較で読む国鉄末期の決断
|
この記事では、キハ38形の走行用エンジンが従来の国鉄制式エンジンではなく、民生用エンジンを改良して採用するに至った経緯を取り上げます。 DMH17系やDML30系が抱えていた“燃費の割に非力”という課題と、時代の変化がもたらした技術転換を振り返ります。 |
■ 長年の標準機関 DMH17系──“燃費の割には非力”という宿命
冷房装置が従来の国鉄制式品にとらわれない、汎用的なバス用部品を導入することで製造コストの軽減を図ったように、気動車の動力源である走行用エンジンも国鉄制式のものではない民生品を改良して活用することにしました。
国鉄の気動車に搭載されているエンジンについては、このブログでも何度もお話してきたように、1960年代にはDMH17系が唯一の標準品として使われてきました。排気量17リットルで出力は180PS程度しか出すことのできないこのエンジンは、排気量や燃費の割には非力なものであり、お世辞にも完成されたものとはいえませんでした。しかし、国鉄の技術人が戦前から戦中、戦後を通して苦労して作り上げてきたものであるため、これを使わないことは考えられませんでした。
DMH17系以外に選択肢がなかった時代、非電化区間の気動車化を進めるため、ローカル運用の車両だけでなく急行形、果ては特急形にまで搭載された。キハ80系はDMH17系を搭載した車両で、連続した高速運転を強いられる運用には不向きであり、排気管の過熱というリスクを抱えてのことだった。(キハ82 100 三笠鉄道記念館 2016年7月24日 筆者撮影)
■ 高出力化を目指した DML30系──性能は向上したが“巨大で重い”
しかし時代の流れとともに、より高出力のエンジンが求められるようになると、DMH17系の2倍の出力を出すことができるDML30系が開発されました。ところがこのエンジンはDMH17系の延長線上にあるようなもので、出力は500PSとDMH17系よりも遙かに高くなった反面、排気量は30リットルという大きなもので、効率性の面では低いと言わざるを得ません。また、エンジン自体も大型で重量も重いものでした。
国鉄が開発したDMH17系エンジンは、日本の気動車における標準エンジンとして国鉄だけでなく私鉄でも使われた。しかし、これはDMH17系が秀逸だったということではなく、鉄道車両用エンジンは他に選択肢がなかったという事情によるものだった。そのため、重量が重い割には出力が低く燃費が高いという悪条件を飲み込んでの運用だった。(キハ52 125 いすみ鉄道 上総中野駅 2013年6月30日 筆者撮影)
同時期の自動車用エンジンとして、日産ディーゼルが製造したRD10(T)は排気量18リットルで、出力はDML30系と同等の500PSを実現しています。DML30系が180°水平V型12気筒過給器付であるのに対し、RD10(T)はV型10気筒過給器付という構造の違いはありますが、これだけ見ても国鉄制式エンジンが民生用エンジンに対して国鉄制式エンジンは大型で重く、効率性に難があるものだったのです。
|
項目 |
DMH17H(国鉄) |
日デ RD8 |
ヤンマー 8L |
Cummins NH/NT 系 |
Detroit Diesel 8V-71 |
MAN 8気筒(中速) |
|
用途 |
鉄道 |
トラック |
船舶 |
産業・トラック |
産業・軍用 |
船舶・産業 |
|
気筒配置 |
直8 |
V8 |
直8 |
直6(比較対象) |
V8 |
直8 |
|
排気量 |
17 L |
14.3 L |
15〜20 L |
14〜18 L |
9.3 L |
18〜22 L |
|
燃焼方式 |
副室式 |
直噴式 |
直噴式 |
直噴式 |
二サイクル直噴 |
直噴式 |
|
最高出力 |
180 PS / 2000 rpm |
280〜300 PS |
200〜300 PS |
300〜350 PS |
318 PS(8V-71) |
300〜400 PS |
|
最大トルク |
約50 kgm |
98 kgm |
80〜120 kgm |
110〜130 kgm |
110 kgm級 |
150 kgm級 |
|
重量 |
1.8〜2.0 t |
1.3〜1.4 t |
1.2〜1.6 t |
1.2〜1.5 t |
1.1 t |
1.6〜2.0 t |
|
比出力(PS/L) |
10.5 PS/L |
19〜21 PS/L |
13〜15 PS/L |
20 PS/L前後 |
34 PS/L |
15〜18 PS/L |
|
技術水準 |
戦前設計の延命 |
1960年代最新 |
船舶用主力 |
世界標準の直噴 |
高効率2スト |
欧州中速の主力 |
■ DMF15系の登場と、なお残った“燃費の割に非力”という課題
このDML30系エンジンを半分にして、一般形の運用に最適化したDMF15系も製造され、キハ40系などに搭載されましたが、やはり国鉄制式エンジンについて回った「燃費の割には非力」というのは拭いきれませんでした。
こうしたことも背景に、キハ38形では従来の国鉄制式エンジンにこだわらず、民生用エンジンを導入することにしたのでした。
《次回へつづく》
あわせてお読みいただきたい

