旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

走り抜ける「昭和の鉄道」 ラッシュ時の切り札と伝統を守って・京急800形(Ⅱ)

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 1978年に登場したハマの赤い「ダルマ」こと京急800形電車。

 ラッシュ時に短い時間でお客さんを乗り降りできるように、18mの短めの車体に4ドアーというあまり例を見ない設計になりました。そのドアの多さは狙い通りに、ラッシュ時に限らず停車時間を短くすることができ、快特などの優等列車のスピードアップに影ながら役立ちました。

 同じ4ドアをもった先輩700形電車が引退し姿を消した今、京急では貴重なラッシュ時対策の戦力でした。

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 しかし、製造からすでに40年以上。先輩であり主力だった1000形電車や、同じ4つドアーの700形は姿を消し、京急伝統の前灯1個、片開きドアーの基本設計を継承したのはとうとう800形だけになりました。

 この伝統は、京急が範としたアメリカのロサンゼルスを走ったパシフィック電鉄の影響を受けたものでした。

 ほかにも京急は車両についてはこだわりがあり、他の多くの鉄道会社では当たり前になった軽量ボルスタレス台車京急は一切使っていません。

 それどころか、先頭車両は必ず重量が重くなる電動車でなければならず、その基準を満たさない車両の乗り入れは一切認めていないようです。そのため、京急へ乗り入れる東京都交通局京成電鉄などはすべて京急の基準を満たしています。

 常に高速で運転することが前提の京急では、信号回路が確実に動作することを要求しているために、先頭車両は必ず電動車にしているといいます。台車もまたしかりで、軽いボルスタレス台車ではレールを踏む重さに不安があるため、昔ながらのボルスタアンカーのある台車を使い続けています。

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 こうした時代に合わせた新しい技術を取り入れながらも、京急の伝統を守り続けたのが800形といえるでしょう。このスタンスは、後に続く1500形や今日も量産が続いている新1000形にも受け継がれています。

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 たくさんの人を乗せて走り続けた800形も、いよいよその数を急速に減らしてきました。車両自身の老朽化はもちろんですが、時代の流れに合わなくなってきたことも原因の一つといえるでしょう。

 京急は基本的に3ドアの電車で、快特用の2100形は2ドアですが、そのドアの位置は3ドアの車両から真ん中のドアを抜いた位置にあります。ところが、4ドアの800形はそのいずれのドア位置とも合いません。

 悲しいかな、時代はホームドアを設置することを要請しています。
 ベビーカーや車椅子が誤ってホームから転落したり、ホームから走ってくる列車に飛び込んでしまう事故を防ぐために、いまやホームドアの設置は鉄道事業者にとって避けて通れない事柄です。

 しかし、ホームドアそのものは車両のドアの位置が決められた場所でなければ対応できず、すべての列車のすべての車両にドアの位置を統一することを要求することになってしまいました。

 800形のような他の車両とは違う特徴をもった車両は、ホームドアから見ると「異端」であり、車両そのものの寿命を縮めてしまうことも多々あり、非常に複雑な思いをさせられます。

 そんな時代の流れに逆らうことを許されず、東京都心と三浦半島を結んで、快特などの優等列車ではなく、かつての急行や普通列車という地味な役回りをこなし続けてきた800形電車は、いよいよその最後の時を迎えるのでしょう。

 とにもかくにも、最後まで無事故で、安全輸送に徹し続けてほしいものです。

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